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赤尾に青鬼

 この世は生まれてくるものより死者の数が多い時は、その多い死者の中から死ねない人間が多かった分だけ生まれてしまうのだ。

 つまり、人知れず死人が町を闊歩しているのである。

 しかも死人には生者を拷問して殺してから食べると、しばし生者に戻れるというルールまでも存在している。


 楊達特定犯罪対策課、通称特対課の職務内容は、一般に知られてはいけない死人関係の事件という特定犯罪を捜査し対策するというもので、管轄外の所轄や本部のそのような事件を押し付けられている課でもあるのである。


 今回の事件の発端は二台の車の衝突事故でしかなかったが、事故の被害者に上半身だけの死人がいたのである。


 死人の名前は東原ひがしはら滋治しげはる

 自損事故を昨年起こし、無保険だった上に死人となったがために社会生活が送れないと、目撃者の少年高部たかべ祐樹ゆうきを事故の原因に仕立て上げ、賠償金と慰謝料をその少年の一家に請求していた屑であった。


 高部家の近辺は札付きの東原の一族が多い地域でもあったがため、高部家は身包み剥がされ破滅させられたのである。


 自動車事故は東原の車に高部家の長男高部たかべ智成ともなりが東原の車に特攻したものであり、東原の娘二人と妻がそこで亡くなっている。

 通常であれば楊は死人の東原を回収してお終いである。

 しかしながら、実行犯の高部智成が事件後に異常な状態の死人となって発見され病院に収容されていることで、事件の様相がいつもと変わってしまったのだ。


 いつもと違う状況で死人にされる人々は白塗りのお面のような顔になり、いつもの死人よりも動きも素早く凶悪で、人を簡単に虐殺し、何よりも人を噛み殺した場合は被害者の姿形を奪うことができるというのである。

 そして東原一族はもとより、高部家の両親も白塗りに惨殺されていた。

 五月女の腕の怪我は、その白塗りの一人に噛み付かれた怪我である。


「おい、そこのヤナ子。知っていることを洗いざらい吐け。」


「知りません。あたくしは八歳のいたいけな子供です。」


 楊はずかずかと部下の机の間を通って、五月女とそっぽを向いたままの少女が座る奥のベンチの真ん前まで行くと、大人の威厳を持って少女を見下ろした。


「小さな南瓜をくり貫いての南瓜プリンも、あるいは茶碗蒸しでもこの季節にはいいな。」


 幼女は真ん丸の目で楊を見返し、だが、靡いてはいけないと葛藤している様子が楊にも、楊の部下たちにもありありとわかった。

 楊はそこで、玄人がとろけそうだと口にした微笑を浮かべて矢那を見下ろし、最後の一押しを試みたのである。


「俺のパンプディングは最高だぞ!垂らすのはメープルシロップか?手作りのカラメルシロップか?熱々のパンプディングに自家製アイスクリームというマリアージュを体験したくはないか?」


 少女は大人の狡猾な誘いに堕ちた。

 それでも数秒は葛藤した彼女は賞賛されるべきであろう。

 大きく溜息をついた少女は、自分の鞄、子供のくせに中年女性のようなビーズが編みこまれた黒いがま口バックを引き寄せて開けると、中からハンカチで包まれたものをやはり溜息交じりに取り出した。

 紫のレースハンカチを開いて出てきた物は、木製のペーパーナイフである。


「まゆゆが作っているものです。半年前にあたくしの取り巻きの一人が死人になっておりましたの。それでまゆゆが護身用にコレって。これで死人は赤青両方殺せます。」


 少女が楊に差し出したナイフは、鳥の風切羽のような形で薄く、先がかなり尖っている。

 ナイフを受け取った楊が軽く指先で触れると、指先にはポツリと赤い雫が浮き出た。


「木片のくせに凄い切れ味だ。それで、赤青って?」


「鬼は赤鬼青鬼って言うからって、まゆゆが。赤が普通の死人。青が顔が白い奴らだと申しておりました。」


「そうか、両方か。」


 楊は木片ながらも素晴らしい武器に感嘆の声を上げた。

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