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世界が嘘だらけならば、好きな嘘を選べばいい(馬16)  作者: 蔵前
一 警察に年末年始はありません
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幼女様と陰惨な事件②

 楊は佐藤と水野の会話を子供に聞かせるべきじゃ無いと焦ったが、当の子供は感嘆するような大声を上げた。


「素晴らしい。あなたお名前は?伯父と、伯父の長男でキャリアのまゆゆに紹介したいですわ。まゆゆは白波でも一目置かれた有望株ですのよ。」


「長男でまゆゆ?」


 白波家と武本家に疎い五月女が口を挟んだが、矢那は五月女に母親のような笑顔を向けると、楊が舌打ちしたくなるほどの優しい口調で説明をし始めたのである。


「本当は麻薬の麻の字に友と書いての麻友まさともです。こちらの課長の数段素敵で優秀ですのよ。それで、まゆゆをまゆゆと呼ぶのは事情がありましてね。白波周吉の孫世代は女の子が生まれない神託があったからと、現実を逃避するために男の子を女の子読みしていましたの。私の一番上の兄の久美ひさよしはクミちゃん、まゆゆの弟の佐藤さとう由貴よしたかはユキちゃんですわ。あたくしのすぐ上の兄は一々女読みするのが面倒だとそのままの伊予いよですの。ですから、あたくしが、」


「い、ヤナ子なんだ。」


 矢那は楊の茶々にうわっと泣き出して机につっぷしたが、どこから見ても嘘泣きである。


「かわさんひどい!大人気ない。」


「うるさいよ、葉山。時間がないんだ。ちゃっちゃっといくぞ。本城と響は?」


「本城は離婚前提の別居中の女性です。彼女の自宅で夫の遺体が発見されています。響は、あの、まことに言い難いのですが。」


 楊が言葉に詰まる佐藤を珍しいと見ていると、佐藤のレポートに目を通していた葉山が笑い出した。


「そこで笑い出すって、葉山はやっぱり鬼畜だね。」


 水野の呆れ声は当たり前だと、楊もレポートを読んで納得した。

 彼は、楊達をパソコン教室に導く鍵となった高部たかべ香奈かなと三ヶ月同棲しており、彼女が結婚詐欺だと警察に訴え出ていた男であった。

 そして、響は高部に報復として、ストーカー男と題名をつけられた全裸の写真をネットに流されていた。


 血も涙もない佐藤は、もちろんその全裸画像もレポートに添付している。

 全裸で肛門が丸見えの四つん這いになっている姿など、誰もが閲覧できるネットにばらまかれたら、楊はその日のうちに自分が死ねるとぞっとした画像である。


 さて、視界の隅でレポートを読む五月女に首を伸ばして覗き見している小さな極悪が入ったが、楊は知らない振りをした。

 小さな両手で口元を押さえて喜んでいる姿を見れば、楊が悪いことを教えたから性格に歪みが出来た等で非難される事は無いだろう。


 楊は相棒のたかよりの早朝の電話を思い出していた。

 楊と同じぐらいの背に同じような細身の体型の彼は、顔立ちが楊と違って一重で地味な男である。

 しかしながら楊以上の現場経験のある元公安という経歴のためか、楊の課で一番様になるという不思議な男でもある。

 電話越しの彼はその独特の飄々とした雰囲気を纏いながらも、怒りに満ちている彼自身を隠せていなかった。


「三十四人です。三十四人も亡くなっています。おまけにね、僕達に危険になったら逃げなさいって避難経路まで提示されましてね。それも僕達だけに。白波どころかパーティ主催者側の上は全員知っていましたね。もしかしたらそれでその小さな白波がそこにいるのかも知れないですね。白波の若社長の白波久美があなたに面倒を見ろと押し付けたのでしょう?」


 今回の事件は、白波酒造の恒例年末船上パーティへ潜入テロを画策した三十四名の内、十九名が楊の担当した事件で浮かび上がったパソコン教室に在籍しており、教室受講者および関係者が殺人と暴力行為に巻き込まれたというものである。

 表向きは。

 そして、表だろうが裏だろうが、楊が取り逃がし行方不明の五名は確実に殺人を犯すもの達であると見当をつけ、楊達は昨夜からそれらの捜索に当たっているのである。


「それで、かわさん。三谷と近藤の自宅は如何でしたか?」


 楊はさきほどの溜息とは違う、本当にやるせない風情で息を吐いた。


「子供の前では言えない状態で一家全滅。」


「あら、死人しびと事件ですから残虐なのは仕方がありませんわ。おかまいなく。」


 全員で小さな白波を一斉に注目をした事は言うまでもない。

 注目された矢那は子供らしく注目されて喜ぶどころか、あからさまに失敗したという表情の顔を背けてチっと舌打ちしたが、彼女に注目している刑事達こそ舌打ちしたい気持ちであった。

 死人は一般人には極秘事項のはずなのである。

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