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取られた~!

 僕は祖父を尊敬していたが、今回の銭ゲバぶりを考えると、そこは訂正しなければいけないのかとがっかりと考えた。

 そうだよ。

 彼が育てた彼の娘である僕の母は、白波の年末のパーティだけ参加して、とっとと若い夫、それも僕と同じ二十代の男の手を引いて、海外へと旅立ってしまったではないか。

 日本は寒いからフィジーだそうだ、畜生め。


「俺はすっかり白波の子供にされちゃって、なんだかそれがとても嬉しいよ。」


 山口は母親に性的虐待を受け、公安だった父親を目の前で惨殺されているという不幸に塗れた寂しい人生だった。

 僕も実の父親にネグレクトされていたのだ。

 そして、同じように家族に恵まれなかった、いや、僕には僕を愛してくれる親族は沢山いるのだから、彼こそ本当の意味で今まで一人の孤独を抱えていたのだと思い直し、祖父の振る舞いに喜ぶ彼の腕に手を添えようと右手を伸ばした。

 しかし、僕の横に立つ男は、今までの柔和さを完全に消し去っていた。


「クロト、危険だから奥に行っていて。」


 僕は山口の言葉にはっとした。

 刃物を持った男がフラフラと、僕達の出店の方へと向かって来ていたのだ。

 その男は見覚えのある、当たり前か、僕達が六時前にここに店を出して、七時になる頃には目敏い近隣の女子高生達の間で淳平フィーバーが起こり、その頃に自分達の信者が僕達の方に騙されて取られたと、僕達に文句を言いにやってきた女の側にいた男なのだ。


 僕は山口の言う通りに後ろに下がり、その時に山口の顔が戦闘時のスマイルマークでしかない表情を作っていたことを知った。

 彼は髙の秘蔵っ子であり、元公安の戦闘マシンであったそうである。


「キャー。何してんらて!警察!けーいーさーつー!電話、電話しんきゃ!」

「そうらて。帰れー!あたしらの淳様になにしよーとしてんらて!」

「早よ、駐在呼べってさ!」

「いま呼んでるって。あぁ、白波神社の参道前らて。第一の鳥居のとこ。黙ってすぐ来い。いいから来い。警察らろうが。困っている人を助けに来ないでどうすんらて。早よ来い。」


 女子高生はどんな地域でも最強だ。

 彼女達は物凄いネットワークで朝の七時半には淳平警護の会を結成した。

 あの新興宗教の幹部が直談判に来たのを目撃した少女達が友人に一斉メールを送り、そして、彼女達は交代制で淳平を見守っているのだ。


 もう一度言う。

 淳平を見守っているのだ。

 僕ではない。


 僕は事あるごとに男性に持て囃され、振り回されてきているので、この完全無視状態に物凄く新鮮さと清々しさを感じる。

 決して苛立たしさと嫉妬など感じていない。

 女子高生達の見えない所でそっと山口の手を握ったり、山口の袖に指を入れて腕を撫でたりなど、恋人なのだから当たり前だ。

 決して彼女達に優越感を感じたいからではない。


「うるせぇ、このガキどもが!」


 刃物を持った男が女子高生達に方向を変えた途端に、僕の前にいた白い男が飛び上がり、一瞬で男を拘束した。

 後ろから押さえつけ包丁を子供の手から取り上げるように山口は奪うと、包丁を離れた位置にするっと下に滑り落とす。

 そして、足が折れたのではという凄い脚払いをして男を地面に這い蹲らせた。


「淳平君!これを使って!」


 雪道に男を跪かせた白装束の男は、僕の投げた紐を後ろを見ずに受け取ると、しゅるっと男を後ろ手に縛った。

 うまく使えない左手の代りに口で紐を咥えて縛り上げる姿はとても格好良く、僕は思わずスマートフォンで動画を撮っていた。

 僕と同じように写真を撮る女子高生とも目が合って、なんとなく仲間になったような一体感だ。


 けれども、全て終わった山口がガクっと跪いた。

 事態の急変だ。

 僕は慌てて出店から飛び出して山口に駆け寄った。


「ちょっと、淳平君!大丈夫なの?」


「痛い。やっぱり激しく動くと背中が痛い。」


「うそ!淳様大丈夫?」

「えぇ!やっべ!すぐに移動しないと!」

「温かいところよ!」


 僕は山口から完全に引き離され、完全に不要物となった。

 女子高生達が僕を弾き、弾かれた僕の目の前で山口を抱えて囲み、なんと言うこと、山口をそのまま連れ去りやがろうと動き出したのだ。


 おそらく、ここから目と鼻の先にあるパーラーに連れ込もうとしているのであろう。

 あそこは白波の一族が経営しているだけでなく、一昔前のチョコレートパフェが堪能できる点で僕も大好きなお店だ。


「ちょっと待ってよ!」


 縋りつこうとする僕に、誘拐犯の一人がくるっと振り向いただけでなく、僕を両手でついて後ろに押し戻した。


「お前はそこの犯罪者を警察に渡す役目あるろ。すぐ駐在来るっけ、やっとけ。」

「――はい。」


 反射的に僕は返事をし、的確な命令を僕に与えた彼女は僕の返事を確認すると、仲間の下に凄い勢いで走って行ってしまった。

 後には縛られて雪道に正座させられた男と、雪道に刺さった包丁と、取り残された僕だ。

 僕は参道のまん前で一人ぼっちで叫んだ!


「誰かー!淳平君がゆうかいされたー!おじいちゃーん!おじいちゃーん!」

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