8.超メジャーなMのハンバーガー(チェーン店)
ガバガバ伏字
ピンポーン!
晴明が机の前で仕事道具を手入れしていると、インターホンの音が鳴った。
「すまんセイル。今は手が離せねえから出てくれ」
「ん……了解した」
ナイフに魔力を込めてルーンの刻印を入れている途中なので、視線を逸らさずにセイルに対応を頼む。
ちょっとの事が失敗に繋がるほどミリ単位の緻密な作業なので、集中力が非常に必要なのだ。
……しかしセイルのやつ、今度は何を頼んだんだ?
「はい、もしもし……ん?いや、合ってるぞ。……そうだ、倉橋 晴明の部屋で間違いない。…………うむ、分かった」
セイルが受話器を耳に当てながら、カメラ越しの相手の対応する。
しばらく話し、受話器を下ろす。
「すぐ来ると言っていた」
「はいよー。で、何頼んだんだセイル?」
物置部屋だった所を掃除して、セイルにと用意しといた部屋。
そこにセイルの私物、と言うか購入した現代の家電家具がどんどん増えていく。
小型プロジェクターに、骨伝導イヤホン。
スムージー作る用の小型ミキサーや、オシャレな本棚にはスラムダンク全巻が、上にはミニサボテンの鉢が置かれている。
6畳の狭い空間ながら充実した空間に……というか家主より部屋を使いこなしてるのではと思い、少々憧れる。
最近どこかで働いてでもいるのか、それとも何か宝を換金でもしているのか、セイルがいつの間にか自分の金を手にしていた。
セイル本人は悪いことはしていないと言っていたので、良しとしよう。
今回は欲しいと言っていたヨギボーでも買ったのだろうか?
あ…いや、Uberの可能性もあるな。
俺も部屋の内装をリフォームしようかなと考えつつ作業をしていると、セイルからの回答があった。
「いや、私じゃないぞ。我が主に用があるらしい」
「………うん?」
ピンポーン!
セイルからの変な回答に質問する間も無くドアベルが鳴り、セイルは来訪者を出迎えるために玄関へと向かう。
セイルじゃなくて俺?
だけど、最近Amazonでポチってないし……ってまさか!?
「ちょ、セイル開けるな───!」
晴明は慌てて作業を投げ出し静止をかけようとしたが、既に遅く。
「──────」
「お?」
セイルが開けた玄関の先には、人形のように整った和服姿の美少女が立っていた。
艶やかな長い黒髪を耳へと細い指で掻き上げ、少女は微笑んでいた。
しかし、晴明の目には静かなる怒気が完璧な笑顔の下に満ち満ちているのが見て取れた。
引き攣る笑顔の晴明に、少女は挨拶をした。
「お久しぶりです。晴明お兄様」
◆
晴明はスマホの操作を終え、ポケットにしまう。
(気まずい)
付与に失敗したナイフを片付けながら、しかし、失敗したことに落胆していられる余裕など無く、晴明はお茶と煎餅を机に置く。
目の前には未だ笑顔を貼り付けた(目は決して笑ってないが)少女が座っている。
……セイルの事を話してなかったしなあ。悪魔だから話せる訳ないけど。
いや、悪い事は一切した覚えもないし、彼女の機嫌がすこぶる悪いのが今までの付き合いから嫌と言うほど伝わっている。
まるで不倫現場を見られた夫のような居心地だ。
どう切り出したものかと晴明が迷っていると、別の所から切り出された。
「なあ、晴明。聞いていいか?」
セイルは気になっていたのもあるのだろうが、沈默をみかねて話題提供をしてきた。
頼む相棒、この沈黙をなんとか打開してくれ。
「妹がいたのか?一切そんな話を聞いてなかったから驚いたぞ」
「────へぇ。お兄様、私のこと秘密にする程お嫌でした?」
……視線が更に痛くなった。
わざとやってんじゃねえだろうな、この悪魔は。
いや、もうここは話を展開してくれたと思っておくか。
「黙ってたわけじゃねぇよ、冬華。セイル、紹介するよ。俺の……あ〜、一応幼馴染っていうのか」
頬をぽりぽり掻きながら「妹みたいなもんだが」なんて呟いて晴明は続ける。
「土御門 冬華。同郷で、中学卒業まで一緒だった子だ」
「冬華と申します。どうぞ、よしなに」
しゃなりとした出立ちの少女、土御門冬華は三つ指ついて優雅に頭を下げる。
「……うむ。結構なお手前で」
「どこの流派だよ」
第一感想がそれでいいのか。
まあ、正に大和撫子を体現した振る舞いに見た目だしな。セイルのことだ、初めてThe日本っぽいの見れて感動してるのだろう。
見惚れてもおかしくない振る舞いと容姿なのだが、セイル本人一応は容姿を売りにしてる悪魔なだけはある。最近は忘れがちだが。
「何か失礼なこと考えてないか晴明」
「いや全然」
「……こほん。ところでお兄様、そちらの女性の方はどなたなのでしょうか?」
2人でいつものやりとりをしていたら、セイルの説明を求められた。
そりゃ気になるわな。という事で説明。
「コイツはセイル」
「セイルと言う」
「セイルさんと言うのですね。よろしくお願いします」
「うむ、よろしく」
「……………………………」
「「………………………」」
………………………………………………
「………え?」
「「え?」」
「何でそこで『え?』なんですか!?もっと他にありませんかお二人!」
セイルと晴明は顔を合わせる。
……他って言ってもなあ……馬乗って瞬間移動と男装が得意な悪魔です、なんて言えねえし。
どうしたものかと悩んでいる横で、冬華が恐る恐るとセイルに話しかける。
「た、例えば……そう、晴明お兄様との御関係とか」
「……晴明との関係?」
冬華から聞きにくそうに発した質問にセイルはしばし考え、
「…………濃密な一夜の関係だな」
空気が凍った。
◆
「はいウソウソー、これセイルの嘘でーす!」
冬華の額に青筋が立ち、眼光が尚鋭くなった。
晴明は即座に否定しながら、セイルの頬を掴む。
「おい。なんでややこしくするこの悪魔?」
「寿命の無い悪魔にとって主との時間は瞬きで終わる夢のようで、鮮やかなものだからな」
日本っぽく趣深く言ったのだがと宣うセイル。
何だ、大和撫子にでも対抗して和っぽくしてみましたってか。なってねえよ。
本当にどうしたものかと逃げたくなる晴明。
────その頭にすとんとアイデアが落ちてきた。
「……セイル。もう良いや、誤魔化すのは諦めよう」
「……晴明?」
突然の発言にどうした?と訝しむセイルを横目に、晴明はため息まじりに冬華に説明する。
「……冬華、正直言うと俺の師匠が関わってんだ」
「────あの方ですか?」
晴明の発言に冬華は驚きながらも、何故か落ち着きを取り戻す。
「実は師匠が急に連れてきたんだよ。いつもみたく。ただ師匠の野郎、土御門の所には内緒で通して来やがって」
「…………なるほど。それなら確かに」
「やったのが不法侵入なだけに言えずじまいでな」
セイルにしてみれば突拍子もないストーリー。
しかし、冬華にとっては十分な理由になっているようで既に冬華の顔からは疑念の表情が晴れている。
……冬華は先程までと打って変わって説明に納得しているが、その師匠とやらはそんなに破天荒で破茶滅茶な者なのだろうか?
セイルは何のことやらと思いながら、ただし顔には出さず、晴明と冬華のやり取りを見ていると晴明からアイコンタクトが送られてきた。
……合、わ、せ、ろ!
……了、解
「面倒は全て晴明が見てくれるとだけ言われてな。気づけば日本に飛ばされていた」
「何が素質がありそうだから面倒見ろだってんだ。せめて、合法ルート取れってくれよ」
出来る限り感情をそれっぽくする為に師匠による理不尽な過去を思い出す晴明であったが、
……なんか、ホントにムカムカしてきた。
師匠とのかつてのシーンを思い出せば出すほどに、リアルな感情が湧き上がってきた。
そのおかげで真に迫る芝居ができたのだけども。
あの師匠に感謝したくない。
「こっちもいつかは切り出さなきゃと思ってたんだが……事が事だけに後回しにしててな」
「…………ふぅ。分かりました。あの方絡みでしたら納得しました。しかし、秘密にされていたことは個人的に悲しいです」
「うっ。すまん」
じと〜と少々恨めしさを込めた冬華の眼差しに、晴明は嘘をついていることもあって居た堪れなく、申し訳なさげに顔をしかめる。
セイルはというと、晴明の弱りきった表情は初めて見たので、珍しそうに眺めているだけであった。
「では、セイルさんの今後についてなのですが──」
ピンポーン
冬華が続けてセイルの詮索を続けようとした時、インターホンの音が遮る。
……やっと来たか。
その音に晴明は胸を撫で下ろしながら、受話器を取る。
今は誤魔化せたとしても、このままだとボロが出る可能性大。とりあえず時間が欲しい。
そこで、話を逸らすための対冬華用のアイテムを用意していたのだ。
そして、打開すべきそのアイテムとは。
『どうもー、マクド◯ルドですー』
誰もが知ってる超有名なハンバーガーである。
◆
セイルの視線の先。そこにはマクドナルドの紙袋を目の前にし、キラキラと目を輝かせている冬華の姿が。
先程までの凛とした姿とは異なり、テンション上がっているのが傍目でも丸分かりだ。
冬華に聞こえぬようにセイルは晴明に小声で話しかける。
「……なあ、晴明。なんで冬華はこんなに喜んでいるのだ?」
マックなんて何処にでもあるだろとセイルは言うが、分かってないなと晴明は首を横に振る。
「セイル、俺の故郷は田舎でな。信号が一つしかなくて、信号がある理由も子供に信号の存在を教える為という程の田舎だ」
最寄りのセブンイレブンまで車で片道50分。しかも、営業時間は今や絶滅危惧種の朝7時から夜11時。
マックやスタバ、吉野家は勿論チェーン店はなく、学生時代買い食いしようにも店が駄菓子屋のみ。
上京先で好きな駄菓子なんだった?との質問に「ねりあめ。30円の。よく割り箸でねりねりしてたわ〜」と答えると「え、何それ?」とマジトーンで返された。
あれ本当にショックだった。
「しかも分かるだろうが冬華はお嬢様。良いとこの家だ。つまり、ファストフードにほとほと縁が無い環境」
テレビでこそ見たことがあるが、実物を目にしたことがない。
まさに未知との遭遇、UMA、キムタクの主食。
「感情を例えるなら、俺らの前にA5和牛を置かれた時の嬉しさなんだ」
「A5和牛……!あれか、前に奮発しようと焼肉行った時に値段を目にして晴明が静かにメニューを閉じて首を横に振ったヤツだな」
「それは言わんでええ」
「いつか食べるのが私の夢だ」
「ごめんて」
その後のハラミ(650円)美味かったからいいだろ。
文字通り噛み締めて食ったよ。
……って、そうじゃない。折角届いたのだ、冷める前に食べてしまおう。
ハンバーガーやポテトなどを袋から出し、スイーツなどすぐに食べないものだけ冷凍庫で冷やしておく。
「冬華、好きなの選んでいいぞ」
「えっ、ホント!……こほん。良いのですか?」
思わず素の反応が出るあたり本当に嬉しいのが丸分かり。
冬華はまだ決めかねているので、とりあえず皿の上にポテトを出す。
未だに熱々のポテトを一つつまむ。
「これこれ。この味」
ジャンクフードの代表格。
食べ過ぎたら身体に悪いんだろうなと頭では分かっているのに、ついつい手が伸びてしまう。
カリカリの表面にホクホクの中身。その周りには塩が満遍なくかけられているのが更に良し。
ひょいひょいと晴明は食べ進めていると、にょきりと両サイドから二つの手がポテトに伸びる。
「私もいただきます」
「私も」
晴明につられてセイルと冬華の二人もポテトをパクりと食べる。
しばし冬華は至福の表情でポテトを堪能して、一言。
「ポテトが冷めてない……!」
「……まさかポテトの感想でこんなに哀愁を感じることになるとは」
「ポテト、美味いのに冷めるとしこたま不味いからなあ」
ド田舎あるある。子供の頃両親が遠出の土産で買ってきてくれたポテト。時間が経っているので当然ながら冷めてクタクタのヘニョヘニョになっている。
それが当たり前だと思っているので、温かいだけで感動ものであるのだ。
そういや、幼い頃に冬華がアイツと一緒に初めて俺ん家遊びに来た時、丁度親がハンバーガー買ってきててを食べたんだっけか。
ポテトをつまみながら、あの頃を懐かしむ晴明。
……確か、あん時に冬華が食べたのって……
「晴明お兄様。私はテリヤキハンバーガーにしますが、食べてもよろしいですか?」
偶然か、その時と同じものをチョイスした冬華。
断る理由もなく「どうぞどうぞ」と勧める。
見るからにワクワクした表情でテリヤキバーガーの包み紙を開いていく冬華。
俺はそんな冬華を見守り、セイルもガサゴソとどのハンバーガーにしようか吟味しながらも横目で眺めている。
「では、いただきます」
はむりとテリヤキバーガーを口にし、もふもふと咀嚼する。
初対面のキリッとした表情はどこへやら、その表情は至福でとろけている。
「……牛肉と違って豚肉の柔らかいハンバーグ、クセになる甘い照り焼きのタレ。そして、これでもかと入っているマヨネーズのコク」
決して冬華が暮らす家の食卓では出されない味。
明らかな栄養の偏り。申し訳野菜要素のレタスこそ入っているが、コレを毎日3食食べ続けたら体に悪いということは見るからに分かる。
けれども、
「何故こんなに次も食べたくなるのでしょう……」
洗脳の呪いでも施されているのかと思ってしまうほど、冬華はテリヤキバーガーに魅了されている。
子供時代に初めて食べた時もそうだ。
箸ではなくワシッと手掴みで齧り付き、ジャンキー増し増しの品を食しているという罪悪感が更に食事を美味しくさせ、幸福感でトリップ。
夢中でテリヤキバーガーを食べ続ける冬華。
その姿に微笑ましく思いながらも、ナゲットの箱を開けて一口。
黙々とテリヤキバーガーの味を堪能しながらも、しっかり着物にソースが付かぬよう気をつけているあたり日頃の育ちの良さが分かる。
しかし、口周りに一切ソースが付かず上品に食べる様は器用なものだ。
冬華の良い食いっぷりを見たことで晴明の食欲も刺激される。
晴明のチョイスは、
「じゃ、俺はビッグマックで」
開封せず湿気ってしまうと見た目がスケールダウンするので、急ぎ目で開封。
包み紙と違い、格上感を漂わせる箱。それを開ければそこにはビッグマックが。
晴明は崩さぬように掴み、ビッグの名に相応しく大きく口を開けてかぶりつく。
「もぐもぐ……うーんボリューミー」
シンプルなハンバーガーただ重ねただけ。
そう宣う者がいるが、その者は阿呆であるかビッグマックを食べた事がない者だ。
ビッグマックの特筆すべきことはパンズとパティによる多層構造か?
たしかにそれも目を惹く。
その巨体を崩さないために紙の包装ではなく、箱で鎮座ましましている出立ちには期待が膨らむ。
しかしビッグマックの根幹たるは、パンズでもパティでもなく、何と言っても中のソース。
ビッグマックソースがこのバーガーの主軸だ。
「見た目だけならマヨネーズとケチャップを混ぜたオーロラソースに似ているんだけどな」
「前にビッグマックを食べる機会に恵まれたので、今回はテリヤキにしましたが……やはり、ビッグマックも食べたかったです」
テリヤキバーガーを食している冬華がこちらの食すビッグマックを少し名残惜しそうに見つめる中、晴明は更にもうひとかじり。
このビッグマックソース、簡単そうに見えて中々再現出来ないのだ。
ビッグマックソースこそが、ビッグマックをビッグマック足らしめている!
ほのかな酸味を伴うスパイシーな味。ピクルス、細切りされたレタス、オニオンのシャキッザク感。
2枚も入ったパティにとろけるチーズ。
俺だけかもしれないがビッグマックを食べるとマック感を1番堪能できた気がする。
ちなみに、ビッグマックソースだけは世界共通らしい。
冬華の食し方と比べると無造作に食べる晴明はあっという間にビッグマックを完食。
そしてポテトをつまむ。
……うまい。さっきビッグマックが1番堪能出来ると思ったが、ポテトが1番マック食べてる感味わえるな。
ナゲットをつまみ、冬華もつられてナゲットに。
「晴明、私にもナゲットをくれ」
「はいよー…………うん?」
箱ごと渡しながらチラッとセイルのチョイスしたハンバーガーを見ると、
「今回はシンプルな構成だなセイル。ハンバーガーとチーズバーガー、あとナゲット」
「うむ、最近見かけて気になった食べ方があってな」
そう言うとセイルはおもむろにハンバーガーの上のパンズだけを取った。
何をするのかと冬華が興味津々に見つめる中、セイルは残った下のパンズとパティ、その上にチーズバーガーを躊躇せず乗せたではないか!
だが、それだけでは止まらない。
チーズバーガーの上に、あろうことかバーベキューソースをたっぷり付けたナゲットを乗せだした。
そして、先程取り外していたパンをナゲットの上にライドオン!
それを崩さぬようむんずと掴み、セイルは勢い良くかぶりついた。
「そ、その食い方は!」
「知っているのですか晴明お兄様?」
金に限りある学生が同じようなメニューを頼み続けた結果、バリエーションを変えようとアレンジして大体辿り着く答え。
「高校で1人はやってる食い方だ」
かくいう俺もごくたまにやる。
「良くある食べ方?なのですね」
「……セイル。何で顔が赤くしてんの?」
「そう言われると少し恥ずかしくなってきてな」
咀嚼を終えたセイルは表情こそ変わらないが、頬を少し赤らめながらそう呟いた。
と言いつつも食べる手を止めないのはセイルらしいが。
「アレンジしていくのもマックの醍醐味だし。食い方なんて人に迷惑かけなきゃ自由だろ」
……ま、俺もアレンジするんだけどね
溶けないように冷やしておいたマックフル◯リーオ◯オクッキーを取り出す。
あまり長時間冷凍庫に入れ過ぎるとカチカチになってしまうので、意外に取り扱いが難しい。
机に置き、目当ての物を棚から持ってくる。
「晴明お兄様、それは?」
「オヤツに買ってた素焼きナッツ」
このままでも十分に美味しいのだが、少し一手間。
素焼きナッツを粗めに砕き、パラパラと上から散らす。
そして、プラスチックの匙でひと掬い。
「あむ……」
しばし無心で咀嚼し、口内で奏でられる音に耳を傾ける。
オ◯オクッキーのサクサク感に続いて、アーモンドやピスタチオのカリカリ感が共鳴する。
今や俺の口内はコンサートホール。
ねっとりしたソフトの甘味と、ナッツの微かな塩味がもっとよこせとアンコール。
その心の要望にすかさず応えて、もう一口。
「うま」
お持ち帰りだからこそ出来る食べ方。
もうちょっとナッツかけても良いなと思っていると、セイルが声をかけてきた。
「晴明、一口くれ(ちょいちょい)」
「ちょい待ち……ほいよ」
ナッツを忘れぬようひょいとひと匙掬ったスプーンをセイルに方に差し出すと、パクリと食べる。
「あ……」
誰かの声が漏れた気がしたが、そんな事気にせずにしばし咀嚼して有りか無しか吟味するセイル。
「……有りだな。晴明、私のにもナッツかけてくれ」
「はいはいっと」
どうやらお気に召したようで、晴明の方にカップを差し出す。
そのセイルのカップにパラパラとナッツを掛けていると、意を決したように声が挙がる。
「は、晴明お兄様!」
「ん?」
「その……私にも、一つ頂けないでしょうか」
冬華の声に一瞬晴明は笑顔で応じる。
「全然いいぜ」
パラパラ(冬華のカップにナッツをかける音)
「そんな恥ずかしがらなくても言えばあげるって。ほれ、食べてみ」
「……あ、ありがとうございます」
……あれ、なんかしょんぼりした。なして?
ナッツをご所望だったのではと疑問符を浮かべる晴明の横っ腹に、しばし呆れていたセイルが肘を軽く入れる。
「いてっ……なんで?」
「なに。ただ代弁しただけだ」
ちなみに、落ち込みながらも冬華はナッツかけたフルーリーの味に満足したそうです。
◆
マックを堪能した後、セイルに関して諸々話合いを行った晴明と冬華の2人。
話が終わった頃には日が既に傾き、晴明は冬華を見送りに駅前に来ていた。
ちなみにセイルはお留守番だ。
「あの自動改札前で1時間おろおろしていたあの冬華が、今では1人で電車に乗れるなんて……人って成長するもんだな」
「もう!晴明お兄様、その事を蒸し返すのはやめて下さい!」
晴明が冬華をからかうと冬華は顔を赤くして異議を申し立てる。
その反応が面白くて晴明がからから笑っていたが、冬華からの反応が無いかとに気づく。
笑いすぎたかなと反省をしたが、どうやら違った模様だ。
「……晴明お兄様」
「ん?」
冬華は振り返りざまに晴明にそれとなく切り出した。
「……御兄様とはまだ会えませんか?」
「──────会えないじゃない。会いに行かないだけだ」
晴明が淀みなくそう言うと冬華の顔は寂しげに曇り、妹分のその顔を見てバツが悪そうに晴明は頭を掻く。
「そんな顔すんなよ。まあ……子供の時の話だ。いつかはお前ん家行って解決するよ」
「そう、ですか……。その日を待っています、私」
「おう」
それで一旦会話は終わり、冬華は切符売り場に足を向ける。
セイルの件も含め申し訳なさがあるので、帰る前に土産くらい持たせようと考える晴明。
「あ、そう言えば」
……ん?
何が喜ぶかなと考えていた晴明に、冬華が思い出したように話題をあげた。
「最近、不審な術師が居るとの噂ですのでお気をつけ下さい」
「不審な術師?土御門の管轄外の?」
そう聞くと冬華は頷いて肯定する。
たいていは日本内の陰陽術師や海外から派遣された魔法使いは総じて、御偉いさんの土御門家を通して活動ライセンスを発行する。
中にはそこを通さず、フリーランス又は非合法の術師もいるが。
「危ない奴なのか?」
「いえ、今のところ。……しかし、妙でして」
危ない奴なら対処しようかとも思ったが、妙と来た。
冬華自身、何と言っていいものかと悩みながら説明を続ける。
「非合法の術師を標的に襲っているのですが、その襲撃の目的がどうやら金銭らしく」
……金銭?
一般ならさしておかしくない動機だが、こと魔術師に関しては妙な話だ。
手段を選ばなければ、わざわざ危険な魔術師相手を襲わずとも、盗みや贋作、詐欺など方法はいくらでもある。
「しかも、襲われたのが懸賞金のかかっていた危険な者ばかりで。正直此方としては有難い話でもあるのですが、行動不能にした後に財布から現金を抜き取るだけなのが不可解なんです」
「なんだそりゃ。ヒーローなのかコソ泥なのか分からねえな、ハハハハハ」
金目当てなんでおかしな奴もいたものだ。
何か欲しいものでもあったんかね……………あれ?
あれ〜?
ふと、最近出所不明の金を持ってる同居人の顔が脳裏にふわ〜と浮かび上がり、晴明の笑いが尻すぼみになる。
……いやいや、同居人を疑うなんてどうかしてるぜ俺。どっかでバイトしてるに決まってるさ。
と自分に言い聞かせながらと不安が拭えない晴明。
「……なあ、そいつの特徴とかなんか無いか」
「もしかして、セイルさんをお疑いしていると思ってます?」
晴明の質問に、冬華は安心させるように笑いながら否定する。
「大丈夫ですよ。その可能性はありませんから」
自信満々に冬華がそう言い、「あれ、違うの?」と安心すると共にセイルに申し訳ないと思う。
「そ、そうだよな。良かった良かった勘違いで」
「そうですよ。なんと言っても犯行が短時間の間に日本各地で行われているので単独犯では難しいんです。一人でしたら瞬間移動でも出来ない限り無理ですね」
「へー」
「しかも、皆が口を揃えて美青年に襲われたと言うのです。それも馬の式神を使役していたそうです」
「ふーん」
なるほどなるほど。
「なので女性であるセイルさんは違いますよ」
「そうなんだ〜。それはよかった────ところで冬華」
「はい?」
「今買いたいの言ってみ。何でも買うから」
冬華を見届けた後、犯人の悪魔を叱りに即座に戻った晴明であった。
裏陰陽師A
「ククク。この呪物で俺を見下したアイツらを、日ノ本を火の海に!」
謎の悪魔
「金よこせ」
裏陰陽師A
「あべし!?」
◆
裏社会魔術師B
「諦めな。ウチのオーナーからの依頼でね。目撃者は全員殺せと命じられててな。何をしなけりゃ痛みもなく殺し」
悪魔
「財布」
魔術師B
「ひでぶっ?!」
◆
ネクロマンサー
「この卑弥呼の遺骸があれ」
セイル
「長い」
ネクロマンサー
「まだ1行も喋、ぐじゃば!」