6.矢巾のコッペパン(岩手)
晴天の下、近所の公園でジャージ姿のセイルと晴明がベンチに座り込んでいた。
特に話し込むでもなくぽけーとしている2人。
どこからかチュンチュンとスズメの鳴き声が聞こえてくる。
「………平和だな我が主」
「………そうだなあ」
日差しが気持ちいい。
しかし、悪魔の口から平和なんて言葉が出るとは。
なんとも似合わんワード。
「こう何もなさ過ぎると、あれだな……世界を震撼させる大事件起こしたくなるな」
「…………そうかなあ?」
やっぱり悪魔だ。
とんでもないことに同意求めてきやがったが……なんだその目は、ノリ悪いみたいな顔するな。
俺は寒い日にコンビニで肉まんとアイス買って食べるような幸福に包まれた平穏が好きなの。
「どうした急な破壊衝動なんて?らしくない」
「……準備したのにこれではなと思ってな」
ふーとため息を吐きながらベンチに深くもたれかかったセイルが公園を睥睨する。
セイルが少しヘソを曲げているのには理由がある。
事は少し遡る。
◆
『主よ、運動しよう』
カツオを誘う中島ばりに急なお誘いを受けた俺。
特に最近はキツい依頼もなかったし、予定も無し
。
セイルから誘いがあるなんて珍しいと思いつつもセイルに連れられて移動。
しかし、公園に着くなりセイルは呆然として、
◆
「何故公園にベンチと鉄棒しかないのだ!」
「海外と比べるとなー」
いつになく感情を出しているセイルであった。
どうやら海外の公園をイメージしていたらしく、筋トレに使える健康器具があるものとばかり思っていたようだ。
最近は日本でも公園に健康器具系の設置は増えてきたが、またまだ希少。
ウンテイやジャングルジムが無い公園なんてざらにある。
「ウクライナのカチャールカを見たことが無いのか日本人は」
「知ってるのクイズ王しかいねえんじゃね」
都内の公園にあのレベルを求めるなよ。
というか、ウクライナのジム公園を何故知ってるのだこの悪魔。やはり今時はどこもグローバルか。
まあ、同様に知ってる俺がツッコミ入れるのもおかしな話だが。
……そう言えば、
「今更だけど悪魔なのに筋トレする必要あるのか?体格なんか魔法で自由自在だろ」
太った悪魔の姿絵とかあるから悪魔も太るんだろうが、あんまり必要性が見えない。
その質問にセイルは的確な答えを考えながら、
「変えれると言っても魔力で常に意識する必要がある。……あれだ、健康診断や銭湯の場で見栄で腹を凹ませてる感覚だ」
「魔法の神秘が一気にショボくなったな」
すげー分かるけども。
しかし……それだとあれだな。良く物語にあるような敵役が攻撃受けて化けの皮剥がれる展開って、腹凹ましてる時に脇腹突かれたみたいな感じなのね。
次からその展開を映画で目にする度に「……ああ」ってなるの困るのだが……。
結局、根本から解決しないとダメってことか。
「しっかし、そんな体動かす必要あるかセイル?太ってるようには全然見えないんだが」
「……その台詞を真に受けるか真に受け止めるかで今後が変わるのだぞ、主」
「お、おう」
妙に実感こもった言葉に、男が容易に踏み込んではいけない気がした。
そこで会話は一旦止まり、朗らかな時間が再度流れ、
「……お腹が空いた」
「動いていないのにお腹空いてしまうのはホント何でだろうな」
現在10時。
運動をする予定だったので朝食は軽くしか入れてない。
このまま時間が過ぎるのもいいが、ここらで栄養を補給したい。
食べ物のチョイス、今回はセイルの要望を聞いてみるのもいいか。
「セイル、何か食いたいものあるか?」
「ん、私か?…………………」
俺の言葉にセイルはしばし考えて、
「コッペパン」
「ん〜……………コッペパン?」
「コッペパン」
「コッペパン」
セイルがポロッと答えたのは、コッペパンだった。
◆
ジャージ姿のまま移動した2人は店先で看板を見上げていた。
「というわけでやって来ました福田パン」
岩手県で栄えている盛岡市……からまあまあ離れた矢巾。
閑散とした道路の途中に福田パンはあった。
恰幅のいい髭を生やしたおじさんの看板イラストが笑顔で俺らを出迎える。
福田パン。
それは岩手県での有名ローカルパン屋であり、老若男女に愛させれているコッペパン───正確に言えばコッペパンサンドのだが───の専門店である。
因みに本店は盛岡市にあり、旅行客の人も沢山来店する。
本店は混んでいるが、こちらの矢巾店は車が無いと来るのがキツイしメニュー数も本店とさして変わらないのでこっちに来店。
「コッペパンの専門店などあるとは。聞いた感じでは、ニューヨークのベーグル店みたいなのだな」
「……しっかし、今更だけど何でコッペパン?」
1日過ごしてふと「あ、コッペパン食べたい気分」なんてあるかね?
「よくよく漫画やドラマでこそ見かけるが、私は食べたことが一度も無いからな。気になったのだ」
「そういや海外に無かったな」
サブスクの影響かと納得した晴明は頷く。
そもコッペパンとは日本独自のパンである。
日本の製パン技術の普及に貢献したと言われる田辺玄平。
その彼が日本陸軍へ納入するため食パン生地を使って開発したパンが現在のコッペパンの原型とされている。
そして、コッペパンが全国的に認知されるようになったのは、戦後しばらくして始まった学校給食から。
米と違って皿も要らないし食後の洗い物も無いので最適。
余談ではあるが。
アメリカでもホットドッグでコッペパン使用されてるじゃないかと思われる方いらっしゃるかもだが、あれ地味に違くてしっかりしたパンでちょい硬いのだ。
「どうした晴明。入らないのか?」
「お?ああ、すまんすまん」
セイルの声に上の空から戻る。
希望で言うだけあって心なしかセイルの声がウキウキしてる気が。
福田パンへいざ入店。
◆
「いらっしゃいませ〜」
自動ドアをくぐると、おばちゃんの小さな声が2人を出迎えた。
中はシンプルな作りであり、入り口からはカウンターで遮られた調理場が見える。
「ほれ、あれがメニュー」
「ほう」
そう言って晴明が指さした先はカウンター上。
そして貼られたメニューを数秒見たセイルが一言漏らした。
「…………寿司屋に来た気分だぞ晴明」
「わかるわかる。最初はメニュー数に面食らうよな」
視線の先、そこにはメニュー名が書かれた札が値段別にズラリと並んでいる。
ジャム、チーズクリーム、コーヒー、メンチカツ、コンビーフ、あん、ブルーベリークリーム、バター、バナナ、スパゲティナポリタン、かぼちゃ、クッキー&バニラ、ポテトサラダ、……etc.etc.
まだまだメニューは続いている。
季節限定やら店舗限定なんぞもあるが、おおよそ50種類ほどか。
セイルが寿司屋と言うのも頷ける。
内容は大雑把にまとめると、種類は甘いのと惣菜の2つ。
安いものでコーヒーやバターなどの139円。
高いものでもエビカツやバジルチキンの395円。
セイルは数あるメニューをしばらく見つめては、「むぅ……」と唸る。
「ジャムやメロンクリームはまだ分かるが………。【カボチャ】に【シャンティラムレーズン】、それに【れんこんしめじ】?しかもキャベツ付き……どんな代物か容易に想像出来んぞ晴明」
「甘いヤツは大体がジャムかクリーム状になってると思えば良い。で、れんこんしめじは炒めた蓮根としめじをサンドしてる」
「…………それは美味いのか?(こそこそ)」
「結構好きな人は多いぞ」
セイルは晴明の説明を聞いて、気をつかってか小声で確認してきた。
そんなセイルに苦笑いしていると、自動ドアの開く音が聞こえ、見ればツナギ姿の男性が入店していた。
「えーと……先イイっすか?」
「あ、どうぞどうぞ」
「ども」
まだ決まってない2人は男性に譲り、邪魔にならないよう店の隅っこに移動。
男性は受付前に移動すると慣れた様子で注文する。
「すんません。オリジナル野菜サンドにエッグハムカツトッピングで」
「カラシどうします?」
「入れちゃってください」
「はーい。注文は以上で?……はい、レジの前までどうぞー」
「ういっす」
男性と店員とのやり取りを見ていたセイルはこちらに顔を向けて表情で疑問を送ってきた。
「……トッピング?」
「ここでは2つのメニューを掛け合わせる事ができんのよ」
例えば、福田パンの人気メニューである【あんバター】
これは単品である訳ではなく、バターにあんこをトッピングしたものである。
「更に組み合わせでは"ミックス"と"半々"が選べてな」
「……まだあるのか?」
はいとも。
選択肢まだあるんです。
ミックスはパン断面の上面下面が違う味、つまりはパンを食べた時に2種類の味が同時に口に入る。
対して、半々はパン右側左側が違う味であり、食べた時に1つの味だが、パンを180度回転してやればもう一つの味が味わえるのだ。
つまり、よくある「2つ食べたいな」と迷った時に半々が役に立つわけだ。
「ちなみ、甘い系トッピングは2種類の内で高い方に合わせて、惣菜系はトッピングする品によってプラスされる金額が決まってる」
「なんだか………小学校の問題にでも出そうだな」
太郎君はリンゴとブドウ何個買ったかってやつか。
懐かしい。
当のセイルは俺の説明を受けて更に眉を寄せて何を注文すべきか迷走している。
無理もない。
メニューは増えたり減ったりするが、基本的に50種類前後。
組み合わせ幅は広大で自分の好きなカスタムができるし、噂では2000通りあるなんて聞いたが真実は分からん。
※甘い系と惣菜系の組み合わせは不可能
「まあ、必ずしも組み合わせしなきゃいけないなんて決まりはないし。一旦落ち着いて腹に手を当てて考えてみな」
こういう時こそ、有名孤独なゴロウちゃんを見習うべし。
メニュー迷子の時、惑わされず自分の腹の虫と正直に向き合うのが肝心だ。
子連れの2人、仕事着のオッさん、おばあちゃんコンビ、メモを握ったママさんが次々と注文していく中、俺ら2人は隅でうんうんと悩む。
「……晴明よ、互いに半分ずつシェアしないか」
「断る理由がないな」
◆
しばらくして、購入を済ませて店を出た俺らは家に帰……らずに別の場所に来ていた。
「私はかまわないが、何故牧場?」
「家で食うってのも味気ねえしな」
現在居るのは小岩井牧場。
ベンチに座り、その目の前に広がる草原では家族連れがフリスビーをしている。
同じ岩手県内であり、セイルに頼んで少しだけジャンプしてもらった。
住宅に囲まれた公園で食うより、爽快な景色が調味料となって飯も上手くなるってもんよ。
「ここはあれだ。よく銭湯とかの牛乳で有名な小岩井」
「小岩井………ああ、あれか。瓶牛乳でよく見る」
「そそ。というわけで瓶牛乳買っといた」
「いつのまに」
俺、給食の名残りでコッペパンと言えば瓶牛乳のイメージなんよな。
他の知人は紙パックのイメージだ言ってたが、粉のミルメークどうやって入れてたのやら。
話がそれた。
取り敢えずコレで準備OK。
「さてと食いますか」
悩みに悩んだ結果買ったのは計4品。
まずは俺。
・オリジナル野菜&ウインナー
・ゴボウサラダ
対してセイル。
・エッグハムカツ
・あんバター
セイルはビニール袋で包装されたエッグハムカツ入りのコッペパンを見ながら呟く。
「人が注文した物ほど美味しそうに見えるのは何故だろうな」
「あるあるだよな」
そんな話をしながらも手際良く半分に分ける。
まずは先鋒、俺のゴボウサラダ。
パンを掴み持ち上げると指がパンに沈み込む。
その感触に感動しながらも、ガブリとかぶりつく。
噛むたび噛むたびシャキシャキとゴボウの音が鳴り、口だけでなく耳も幸せに。
名前の通り、コッペパンの中に入ってるのはゴボウサラダ────だが、それだけではない。
「……本当にポテトサラダも入ってるのだな。ゴボウにはと疑問だったが意外に」
セイルはそう言いながらモクモクと食べる。
ポテトのほくほく感とカラシの適度な辛み。
やっぱりここのゴボウサラダが好きだ。
大きめのコッペパンにサンドするメニューが"ゴボウサラダ"。
初見の方の中には「食ってる途中で味に飽きそう」、「他のトッピングと比較するとパンチがな」と思う方もいるかもしれない。
そんな事はない。
ゴボウサラダは十分な満足感を与えてくれる。
芋とゴボウ、同じ根菜同士が合わないはずがない。
あっと言う間にゴボウサラダを完食。
ここで終わっても良いのだが、メインはまだまだ残ってるので食事を続ける。
次は中堅、セイルチョイスのエッグハムカツ。
カットされた半円状のハムカツがキャベツと共に縦にサンドされている。
ハムカツサンド。
この名前だけで心が躍ると言うのに、頭に“エッグ"まで付いてるなんて。おいおいおい正気かよ。
ソースが口の周りに付くなんてお構いなしに、これまた行儀悪くパンを大口で迎え入れる。
ザクッ、シャキッシャキ、ザクリ。
まずは音、そして追従するように濃いめのソースの味が舌を占領していく。
皿の上であれば塩辛く感じてしまうソースの量。
しかし、パンに挟む上ではBestな答え。
パン用の惣菜は濃いめの味が鉄則である。
衣のザクザクとソースによるじっとり、2つのテクスチャー。
それに包まれたのはハム。
ハムカツにはハムの厚め薄めあるが、ここのは薄めハム。
ハムにパン粉付けて揚げただけで、なのに食べれば隠しきれない存在感。
これだけでも美味いが、これは更にその先へ。
2口目、ついにそれに届く。
頭についたエッグ。
それは茹で卵をスライスした物か、マッシュした物か────いや、そのどちらでもない。
どうやらセイルも卵に届いたようで、少し驚きながらパンの断面を見る。
「む……半熟卵か。いや、これは……ハムカツに入っているのか」
そう。このハムカツ、卵も一緒に入って揚げられているのだ。
しかも半熟、黄身がとろっと溢れている。
「これ、どうやって揚げてるのだろうな?生のまま……な訳ないだろうしな」
「ほんと教えてほしい」
などと半熟に感動しながらも、食べ進める2人。
甘酸っぱいソースとハムの旨味、その両方を吸った衣が半熟の黄身も纏い、完全武装。
旨さの勢いに、俺の手はただ従ってコッペパンをどんどん口へ口へと侵攻させる。
キャベツとカラシにより油のくどさは全く無い。
元はパンだったパン粉が、肉と油を引き連れてまたパンの中へ里帰り。
揚げ物を初めてパンにサンドした人に、俺はノーベル賞を授与したい。
間違いなく世界の食文化に貢献した人だ。
2つ目もスルスルと完食。
「はいよ、ウェットティシュ」
「うむ。すまぬな晴明」
口の周りについたソースと黄身を拭きながら、後半戦へ。
副将は俺のウインナーandオリジナル野菜サンド。
ゴボウサラダ、エッグハムカツと来ての、ウインナー。前の2つに比べ、よくあるようなウインナーを選択したのか。
それではただのホットドッグでは?
福田パンを侮るなかれ。
半分にパンをカットしたセイルがチラッと中身を見てみる。
「キャベツにピーマン、トマト、玉ねぎ……更にチーズか。これだけでも十分豪勢ではないか」
中には少量ではなく野菜がギッシリ詰まっている。
しかし、その大量の野菜よりも目を引くのが主役であるウインナー。
それがなんと、
「品名が"ダブルウインナー"とあったが本当に2本入ってるとは。奮発しているのだな福田パン」
そう、ウインナーが2本。
短いのが縦に1列で2本ではない。長いのが横2列だ。
給食時代、コッペパンのウインナーセットでの登場は何度か経験してる。
その度に、指か箸でコッペパンに切れ目を入れ、長めのウインナーをサンド。
それを食す度に思わなかっただろうか。
コッペパンの面積に対してソーセージの占める割合が小さくスカスカ、ということを。
いつも不完全燃焼。
しかし!
晴明はモガリと齧り付く。
パリッとウインナーが裂ける音がWで響く。
キャベツのみでなく、トマトのジューシーさ、ピーマンの苦味、そしてダメ押しにチーズ。
このコッペパンのどこに隙間などがあろうか。
大人になって、まさか給食時代の不満が完全燃焼されるとは。
福田パン、ありがとう。
日本全国のホットドッグ、これにならねえかなあと夢想しながらも3つ目もペロリと平らげる。
さてさて。
大変長々とお待たせしました。
「次が最後か」
「やっぱり、ここに来たら外せないメニューだよな」
福田パンで決して欠かすことの出来ない超王道メニュー。
あんバター。
何気にあんこ初体験のセイル、訝しみながら観察している。
確かに、豆が甘いって世界的に見ると非常に稀だ。
「他と比べると、シンプルに感じてしまうな」
断面図も薄いし少し寂しいなと言いながら、セイルはあんバターを口に運ぶ。
しばし、モグモグと咀嚼。
俺も追うように一口。
「「…………(もぐもぐ)」」
あんバター
"名は体を表す"とは言うが、これほどまでにその表現とマッチングする物があるだろうか。
餡子とバター。
ただそれだけなのに。
ただ塗っただけなのに。
パンと一緒なだけなのに。
「これは、あれだな。あむ……ハマるな」
「だろ」
脂と糖の過剰摂取による罪悪感と相まって、なんと甘美な中毒性。
気分は最高にハイってやつだ。
「アメリカンケーキのように砂糖の甘さのみかと思っていたが、甘過ぎなくて豆の風味が分かるな」
そう言ってセイルはもう一口。
そんなセイルに紙蓋を取った瓶牛乳を手渡す。
「ほれ、牛乳も」
セイルは受け取ると、嚥下した後に牛乳を飲んだ。
「ぷはっ……いいな。銭湯とはまた違った趣きがある」
「快晴の下、牛乳片手にのんびり。贅沢なシチュエーションだわ」
牛乳を喉を潤し、再度あんバターを堪能。
甘味と塩味の対立する味が、シンプルな構造にも関わらず互いが互いにに高め合っている。
甘すぎてもダメ、控えすぎてもダメ。
この丁度良い塩梅が簡単に見えて実はそうではない。
しかし、あんバターの味もさることながら、何よりも1番特筆するのは中身ではなく根幹たるコッペパン。
ふわふわもっちもち。
なのにずっしりしっかりボリューミー。
パンを持ち上げた時、コッペパンが自重により指に沈み込む。
押すと乾燥した唇みたいにヒビが入る給食コッペパンとは、まるで違う柔らかさ。
こんなコッペパンが給食に出た日には、2度とあのボソボソパサパサコッペパンに戻れまい。
モチモチでは表現しきれない、………そう例えるなら"むっちり食感"による抱擁力。
柔軟にして盤石たる土台があるからこそ、自由度の無法地帯であるさまざまなトッピングを受け止められるのだ。
そして、このコッペパンが糖と脂肪の両刀を手にした日には、白旗全面降伏せざるを得ない圧倒的破壊力。
4つあった大きなコッペパン。
確かにあった物は、しかし、あっという間に2人の腹の中へ。
「ふぅ〜満腹満腹〜」
「流石に私もお腹一杯だ。だが、美味だったぞコッペパン。来て良かった」
食べ終えた2人は満足げな顔をして、ベンチに寄りかかり太陽の温もりを存分に受ける。
これ以上の充実した時間があるだろうか。
しばし、幸せを胸に惚けて………
「────俺ら運動するつもりで家出たよな。めっちゃ炭水化物と脂質取っちまってんだけど」
「……言うな晴明」
隣のセイルが苦虫を噛み潰したように重く呟いた。
やっぱセイルも思ってたか。
「……ちなみに福田パンのあんバターは1000キロカロリーなんて噂が」
※女性1日の必要摂取は約2000kカロリー
「…………ふんっ!」
「痛ぇッ!悪、悪かったって!?だから食った後にわき腹やめッ、あべ!」
しばらく拗ねたセイルからの攻撃は続くのであった。
晴明コッペパン小話
給食で出てたコッペパンで揚げパンが1番好きであったが、1番好きな味のココア揚げパンが全国的給食メニューでなくローカルメニューだった事が地味にショック大きかった。
次回、静岡