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5、家で創作おつまみ(自宅)

「ただいま〜……あれ?」


いつも通り帰宅したが、セイルの定番台詞となりつつある「おかえり、我が主」の声が無い。

大抵はジャージ姿のセイルからそれが返ってきて、たまに漫画かゲームのコントローラー片手に立っていることがある。


最近のブームはスラムダンクらしい。


……というか、かぶれ過ぎではないだろうか悪魔よ。


悪魔の配下を何人か持つ結構な爵位持ちなはずなのだが。

最近なんか、変身して服をチェンジさせないで、俺の高校時代のジャージ着てるし。


しかし、返事が無いのは妙だ。

セイルは出かけるとしても、しっかりしているのでコチラに一言声を掛ける。


取り敢えず、リビングへ入ると、


「─────待っていましたわ、下等生物!」


「……ん?」


何か知らないチミっ子少女が机の上で仁王立ちしていた。

ガラスの仮面の貴族役にでも出てきそうなドリル金髪に、黒のゴスロリ服。


面識は無く、そしてセイルは居ない。

つまり、


「まさか、お前…………迷子?お兄ちゃんが交番まで連れてってあげるわ」


「あらご親切にどうも〜……って、違いますの!どこに人のマンション内に迷う迷子がおりますの!」


「いやまあ、おっしゃる通りで」


乗ってくれるとは思わんかったが、見た目と違ってノリいいなあ。

とまあ、ふざけてみたが、漂う魔力から目星はついているが、


「お前、悪魔だろ」


しかも、結構強力な。

見た目に似合わず、おびただしい魔力を感じ取れる。


俺の言葉に、ふんすっと不愉快そうに目の前の悪魔が鼻息を荒げる。


「お前とは無礼ですわよ、下等生物。(わたくし)の名前はシトリー。ソロモン72柱が1人、序列12位。欲情を掌る悪魔ですわよ!」


「序列12位……これまた大層な御方にお会いできて、とてもとても光栄の極みですよ」


シトリー。

セイルと同じ爵位"君主"級の悪魔か。


大層な大御所様ではあるのだが、


「うん……チェンジで」


「失礼過ぎますわ!私はデリ嬢ではなく悪魔でしてよ!」


その見た目しててデリ嬢言うなや。

というか、デリヘル知ってんのね。

流石は欲情の悪魔。


「いや、特に呼んでもいないし。何でいんの?」


そう聞きながら、へそ辺りが痒いのでポリポリとかく。


「け、敬意のカケラも無いわね、この男……!」


「ああ、すまんすまん。セイルと同じ感覚でなってたわ」


何気なしに答えたセリフだったが、何故かそれがシトリーにはカンに触れたらしく。


プルプルと苛立たしげな表情をしており、しかし不意にニヤリ不敵な笑みを浮かべる。


「それもこれも、この下等生物が元凶…………さあ、欲望のままに動きなさい!」


「──────!」





悪魔シトリー。

彼女は美女の姿で現れるし、優れた男の姿でも現れ、老若男女を虜にし、掌の上で操る欲情の権化たる悪魔。


そしてそれ故に、というか唐突だが、彼女は両刀(バイ)である。


又々そしてそして、シトリーはセイルが好きである。

その好きはLikeでもあるがLoveでもある。

いや、むしろLOVE寄り…………うん、LOVEだな。

だって可能なら、くんずほぐれず食べちゃいたいし、むしろ食べられたいし。性的な意味で。


聡明で、優雅に、そして冷徹に人の魂を刈り取るあの姿。


……あの姿には痺れたわ。


初めは崇拝対象であったが、今では捕食対象……じゃなかった、今では恋愛対象。


だが、最近は下等な人間の場所へと入り浸り、セイルは変わってしまった。


この前なんて、あの男装の礼服姿からパーカージャージの代わり様を見てしまい、泣きたくなった。


……なにが「いや、フリーダムで着心地よくてな。つい」ですのよ!


それもこれも間違いなく、この契約者たる男のせいだ。


故に、今日この時、下等生物であるあの男を貶めることにした。


その為、セイルには少しの間、席を外してもらうべく能力を使ったが。


(わたくし)の職能は欲情であり、人の秘めたる欲望を曝け出す能力をもつ。


能力一つで、その人間は欲望に忠実な、理性なき獣となる。


この能力が掛かったあの男はすぐさま外へと駆け出していった。

どうせ、欲情のままに目につく女性に襲いかかっている頃だろう。


「ふふっ、良い気味だわ」


例え、今は性欲よりではなかったとしても、金に目が眩み強盗など犯罪に手を染め、社会的な死が確実。

そうでもすれば男は刑務所の中にでも入り、セイルお姉さまもきっと目が覚めてくれるはず。


「ふふふ……ホーホッホッホッホ!」


「ただいま〜(ガチャリ)」


「早過ぎますわよ!?」


気分良く高笑いしてたら、あの男がものの数分で戻ってきた。





戻ってきたらシトリーがあたふたしてた。


「な、な、何しに戻ってきましたの下等生物!まさか、早漏ですの!賢者化早過ぎますわよ!」


「いや、ここ俺んちだし。ってか、早漏じゃないし、その見た目で早漏言うな。あと、荷物置くから、そこどいて」


「あ、はいですの……ではなく!何故平然としていますの!」


やっぱ素直やなと思いつつも、取り敢えず買ってきた物を机に下ろす。


「いや、あの術掛かったぜ。だから、こうして柄にもなく沢山食い物買い込んでんじゃん」


「ま、まさか……その若さでED、ですの?……あ、あの、良いお医者様でも紹介しましょうか?」


急に慈愛に満ちた目をして優しく接してきやがった。

言っとくがEDではないぞ。


「哀れんで優しくなるな!どうしてそうすぐに性と結べつけだがる?他に欲望あるだろ、代表格で」


そう言いながらも俺が取り出したのは、近くのスーパーで買い込んだお酒、惣菜、スイーツなどなど。


「ま、まさか……お前の秘めた欲望は……食欲ですの!」


「殆ど効いちゃいないが、そうだな」


欲望に任せ、日頃出来ない買い方をしてしまった。

栄養など考えずの、豪遊極まれり。


買ってきた物の立ち並ぶ景観に満足な俺。

それに対してシトリーは愕然としている。


「性欲や金よりも食欲って…………枯れ過ぎですの」


シトリーはマジで驚愕の様子で、信じられないと呟いている。


そこまで言うかい。


「ほら、お前の分もあるし。作ってる間座ってな」


「なっ!どうして、この私が下等生物の餌を食べなきゃいけないですの!?」


「そりゃあ……これはセイルだって食ってんだ。孔子曰く、敵の立場になってよく知れってんだし。試しにどんな物か知ってみたらどうよ」


適当に言った言葉に「む?」とシトリーは呟いて、むすりとしながらも俺が勧めた椅子に座った。


素直やん、マジで。


「それじゃ、今はこれでも食べようぜ」


そう言って俺はシトリーの前に、アメリカンドックを置く。


「……待ちなさい」


「どした?……あ、ケチャップのこと心配してるのか。安心しろ、ちゃんとあるから」


マスタードも常備している。


「ではなく……今からご飯を食べるのですよね。何故ゆえその前に、見ただけで分かるほどに口の中の水分100%持っていくであろうコレを食べますの?」


「へ?食わないかな、普通」


スーパーの揚げ物惣菜コーナー。

あそこを通る度に、匂いに釣られついつい買ってしまう。


アメリカンドックをひとかじり。


「ん〜、相変わらず美味い」


アメリカンドックの何が良いって、周りの生地よ。

外はカリカリで、中は甘いフワフワの生地。

そして中心にはドデカなソーセージ。


甘いケチャップと、子供の頃は苦手だったピリリ辛い粒マスタードの香りにはついつい唾が出てしまう。


あと、ここだけの話。

汚いかもしれないが、俺はアメリカンドックの串に残る根元のカリカリした部分が何気に好きだ。

あれだけラスクみたいに売ってくれないだろうか。


アメリカンドックを食べることで蘇るあの日の子供心。

よくおやつで買って貰ったものだ。


「……ん、やっぱり水分が……。でも、まあ……悪くは無いですの」


文句を言いつつも、ちゃんと食べるのはとても偉いなと思う。

小さな口で食うのに難儀しながらも、口に合わなかったわけではないようで。


「だろ。このちょいジャンキー感がハマるよな」


そう言いながらもアメリカンドックを最後まで堪能した後、調理に取り掛かる。


取り出すのはジャガイモ。

見切り品で少し安くなっていたものを、水でよく洗いラップで包んでレンジで加熱。


その内にフライパンで家にある鷹の爪とニンニクチューブをオリーブ油で炒める。


「……下等生物。お前が料理をするんですの?」


シトリーが意外そうにコチラを見ている。


「そうだぞ。ほぼ食べ専だが、たまには自分で作ったりするのさ」


趣味もあるが、これに関しては職業柄というやつだ。

シナモンやら鷹の爪やら魔術関連で香辛料とか弄るから、その関連で料理が上達した。


俺はふと、気になったのでシトリーに聞いてみた。


「なあ、悪魔って料理得意なのか?」


「何ですの唐突に」


「ちょっとした時間潰しの他愛無いトークだよ」


「ふん、下らない…………まあ、得意と言えば得意ですのよ。私も桂剥き程度なら出来ますわ」


やっぱ意外と良い子ちゃんや。


しかし、桂剥きとは。

技術力高えな、おい。


「なに?地獄にも大根とかあんのか?」


それともマンドレイクとかか?


「いえ、そうではなく。地獄に堕ちた亡者を刻んだりしてますし。ですから、刃物の扱いは必須科目ですのよ」


わーい、予想の斜め45度。

一気に血生臭くなりましたわ。


「意外と肉を綺麗に切るのは難しいですけど。上級者ですと、無駄な傷を付けずに部位ごとに切り分けるぐらいの技能は持ってるですの」


「……聞いたのは俺だけどエゲつねえ」


「悪魔なら全員、桂剥きだけでなく微塵切りや銀杏切りくらいなら義務教育でお得意でしてよ」


いえす、すぷらったー。


「学校で受けさせられる英検か何かかよ」


「10秒以内の爪取りが10級、全肝臓を2分以内に取り出せたら準二級ですの」


やって良かった、みんなで受けよう拷問検定……ってか。

爪を鱗取りみたいに言うなや。


「冗談だったが、マジであんのかよ検定……しっかしエグいねえ」


「何を言ってますの。人間も牛や豚の舌や心臓を余す事なく切り分けるではないの」


「いや、そうだけど。一応、死んでからだし」


「こっちも死んでから切り刻んでますわ」


……あり?……そう言われればばそうだな。


地獄にいるのは全員死んでますわな、そりゃあ。


などと言いながらも、料理の手は止めない。


レンジで蒸されたジャガイモを取り出す。

まだ少し硬いが、炒めるのでまあ良しとしよう。

一口サイズに切り分け、炒めていたフライパンに投入。


「そういえばセイルどうした?」


この場に居ないセイルの事を聞きつつも、晴明は料理の手は止めない。


ジャガイモがすっかり火が通り、油と絡まった所で隠し味を投入。

()()は焦げやすいので箸で回しながら炒める。


あとは買っておいたピザ生地に炒めた具材とチーズをまぶし、トースターへ。


「……今更聞くのですね、それ」


シトリーが呆れた表情をしているが、別にセイルのことをぞんざいに扱っているわけではない。

ただアイツの実力を知っている分、心配する必要がないだけだ。


「いや、アイツの実力は知ってるからさ。それに契約のパスも未だ繋がってるし」


パスが繋がっている限り、向こう側のある程度の安否は分かる。

しかし、シトリーはその答えに不満のようだ。


「はぁ……お姉様はこんな人間のどこを気に入ったのやら。そもそも、何故(わたくし)の能力が効かないのよ」


「それはどうしてだろうなあ……よし、出来た!」


話を逸らすのも兼ねて、仕上がった料理を差し出す。


「何ですの、これ?」


「磯風ジャーマンピザだ」


ピザ生地は生地だけて売られていた物を購入。


ほんのりと焦げ目のついたチーズに、少しトッピングしたマヨネーズが加熱によりプスプスと音をたてている。

ニンニク香り、胡椒によりピリ辛な味付け。

そして極め付けは隠し味に少し特別な物を入れている。


「スンスン……何か変わった匂いがしますの。魚介の……アンチョビのような?」


ハズレ、けど言い線行ってる。


熱いうちに雑に6等分に切りわけ、その内1切れを小皿に乗せシトリーに手渡す。


「熱いから火傷に気をつけな。ほれ」


「…………」


少し警戒されている。

まあ、見た目少し紫がかってるからな。


「味には自信あるぜ。一応、セイルのお墨付きでもある」


「………………あむ」


その言葉が発破となったのか、シトリーがピザにかぶりつく。


「ん?ん〜」


とりあえず一口と齧りついたは良いものの、チーズは切れることなくとろーりと伸びる。


チーズによる伸びる光景はなんと心躍るのだろうか。

見てるだけで旨い。というか辛抱堪らん。


行儀悪くも我慢できず、すかさず俺もピザを手に取り食し、ビヨーンとチーズを伸ばす。


熱々のマヨネーズとチーズに口の中が火傷しそうになり、それに気をつけながらもモグモグと2人は咀嚼する。


味は作り慣れているので間違いないが、シトリーのお口に合うかやら。

ちらりと見る。


「どうよ、出来の方は?」


「……ま、まぁ、そこそこですわ」


などとシトリーは言いながらも、次の一切れへと手を伸ばす。


顔には出さないが、ヨッシャ!と心の中でガッツポーズ。

自分の料理を褒められれば誰だって嬉しい。


「ほれ、コレ飲むか?」


冷蔵庫から氷結を取り出して見せる。


「見た目そんなんだけど、飲めんだろ」


「ワインが欲しいところですが……まあ、折角ですし頂きますわ」


プルタブに指を引っ掛け、缶を開けるゴスロリ少女。

コンプライアンス的に引っかかりそうだが、悪魔なので安心してください。


「それで、これは何ですの?」


氷結をチビリと呑みながら、ピザを指差し聞いてくる。


加熱した油に次なる品を投入しながら、ピザの具に入れたものを見せる。


「これだよ。ほれ、イカの塩辛」


「……なんですの、これは?イカの吐瀉物ですの」


「吐瀉物て……」


流石にそれは言い過ぎでは?


作り方は簡単。

電子レンジなどで蒸したジャガイモを皮を取り、一口サイズ。

あとは、熱したオリーブ油にスライスしたニンニク、ジャガイモ、塩辛を入れて炒めたら、胡椒をかけて具は完成。


ピザに乗せず、そのままでも十分なおつまみだ。


ジャガイモと塩辛のコンビネーションは抜群。

それは炒めても変わらず、むしろこっちの方がイカの塩辛苦手な人でも行けて万人受けするね。


すかさず、もう一切れ。

ピリッと効いた胡椒のスパイシーさが鼻を通り、コク深い磯の旨味が口に広がる。


イカのコクとジャガイモのホクホク。

本来出会う事のない、海と陸のコラボレーション。

それがイタリアという黒船に乗り、胃の中へとあっという間に飲み込まれる。


ピザの味に満足しながら、次なる一品。


「ほれ。追加でUFO揚げ」


UFO揚げと呼ばれた料理は、狐色の中心が膨らんだ円盤状。


「まて変テコなものを……。で、これは何ですの?」


「簡単に言うと、餃子の皮2枚で具を挟んで揚げたやつさ」


熱いぜ、と注意をしながらシトリーにフォークを渡す。


ネーミングは俺なんだけどな。

ちなみに名前は見た目から。


とりあえずと、シトリーがフォークでUFO揚げにフォークを刺すと、パリリッ!と音が鳴る。


「……ぱく」


一口では収まり切らず、サクリと音を立て狐色のUFOに歯形が付く。

その隙間から、トロリと顔を出したのは何とグラタン!


「はふ……ほぅ…、まるで小さなパイね。名前のセンスからは想像つかないほど、良い出来ですわ」


なんか皮肉混じってなかったかい、おい。


「それ褒めてるか?」


「褒めてますわよ、下等生物」


矛盾してないかい、その否定。


UFO揚げはいたって簡単。

お弁当用の冷凍ミニグラタンをレンジで解凍して、餃子の皮に挟み色づくまで揚げるだけ。


お弁当用冷凍食品は冷めても美味しいように味が濃い目のため、UFO揚げに向いているのだ。


「さてと、ひと段落したし……よっこいせ」


「……ちょっと。私の前に汚い顔を晒さないで頂戴」


酒片手にシトリーの対面に座り食卓についたら、開幕言われた一言。


……ピザと氷結持ちながら、辛辣な言葉言ってきたよこの悪魔。


スタンス、ブレないなぁ。


「折角飯を一緒にするんだし、寂しいこと言うなよ。……ほら、コッチでのセイルの暮らしぶり教えるから」


「……しょうがありません。特別に許可してあげますわ」


チョロいなこの悪魔。


そうは思いも口に出さず、酒を傾け喉を潤す晴明であった。





「この、コタツという暖房器具……悪魔的ですわね」


「お。悪魔のお墨付きとは、こりゃめでたいねぇ。で、このコタツと組み合わせて食べるのが雪見だいふく」


ハーゲンダッツも良いけどな。


「まだ食べるんですの、お前?」


「なんだ。要らないのか?」


「……食べますわよ」


食卓から移動して、コタツにIN。

酒が入っていたのもあり、シトリーに促されるままセイルについて話し続けた。


そして、アイスで休憩を入れていると、玄関の方から音がした。


シトリーがその音に反応し、その姿はさながら仕事帰りの父親に反応した愛犬か。


そして、足音がこちらのリビングへと近づき、


「今戻ったぞ、我が主」


「あ、お姉さ『Gate!』あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………(ドガン!)」


セイルに飛び掛かろうとしたシトリーであったが、けんもほろろにセイルによって作り出された落とし穴へと落ちていった。


ドップラー効果がかかりつつ声は小さくなっていき、最後の方で奥底と激突する痛そうな音がした。


セイルはすぐにシトリーが落ちていった穴を閉じ、何事も無かったかのように手に下げた袋を置いてコタツに入ってくる。


「ふぅ……生き返る」


「それだけかよセイル。知り合いに対しての挨拶とか、俺への心配とかさ」


「シトリーと話す事はない。我が主は心配するだけ無駄であろう」


シトリーに対して容赦ねえな。

しかし、心配するだけ無駄というのはどういったことで?


「それまたどうして?」


「外ならいざ知らず、この住まいは魔法使いの工房。奇襲対策の仕掛けがあるんだろ。そして、勿論悪魔用のもだ。それも幾重に」


私が気づいてないとでも?と付け加えながら、お茶を飲む。


……結構本気で隠匿してたんだけどな……。


セイルの言う通り、一見普通のこの部屋、魔術的対策が何重にも手を加えている。

シトリーの能力も殆ど効かなかったのもコレが理由である。


これに関しては予見があったとかではなく、魔法使い特有の職業病だ。

闇夜の奇襲上等、不意打ち覚悟完了。

それが魔法使いというものである。


まるでセイルを信用していないみたいで少し申し訳なさを感じていた為、セイルに表立って言ってなかったが気づかれてたか。


「そんなバレやすかったか?力作なんだが」


「そんな事はないが。……私クラスの悪魔が長い事居れば流石にな」


セイルはそんな事を言いつつ魔法を行使し、コタツに入ったまま冷凍庫から雪見だいふくを取り出す。


人間はコタツに入ったら出たくなくなるが、悪魔も例外では無いようで。


……ポッターでもそこまで魔法で横着せんと思うぞ、俺。


ロン辺りならやりそうだが。


セイルは雪見だいふくを手に取り、慣れた様子で蓋をぺりぺり開ける。


「よく雪見だいふくが有るって分かったな、セイル」


「我が主が雪見だいふくを食べていた形跡が見受けられたからな。なら、私のも有ると思ったまでさ」


そう言って、串に刺したアイスをはむりと口に入れる。


その言葉は自分にとって少し意外であり、セイルが居るのが当たり前になりつつあると納得する。


……なるほどな……確かにシトリーの言葉も一理あるか……。


しっかり自分の思いを認識しながら、セイル用に残しておいた夕飯を温め直しにかかる。


作業をしていると背中にセイルから質問が来た。


「で、何か変なことをされたか?」


「騒がしい奴だったが…………まあ、悪い奴ではなかったかな」


性癖が拗れてたが、まあ悪魔だし。

そこは仕方ない。


それに意外と素直な奴で、食べた時のリアクションも分かりやすい。


……機会があれば、また呼ぼうかね。


なんて事を考えていると、セイルがどこか面白くなさそうに半眼で雪見だいふくを頬張る。


「私という悪魔がいながら……贅沢ものめ」


「ん?何か言ったか?」


「何でもない、あむっもぐもぐ」


……何かしたかね、俺?


「ところでよ。セイル、どこに行ってたんだ?」


「…………」


そう聞くとセイルのピシッと手が止まり、無言になる。


ふと……セイルが帰宅と同時に置いたビニール袋に目を向ける。


とても大きな袋で、中には長く角ばった物が入っているのが伺える。

しかも、その袋は見慣れた物で、BOOK OFFと書かれていた。


レンジに料理を入れてから、袋の中を覗けば、


「……スラムダンク全巻セット」


全巻(新装版)セットで11000円。

しかも状態良し、綺麗でほぼ新刊状態。


セイルには俺のクレカを渡しているわけだが。

チラリとセイルの方を見るが、こちらと目を合わせない。


「……シトリーの不意打ちを食らってしまってな。いやはや、必死に抗ったわけだが、流石は序列12位。欲望を抑える事が出来なかったな」


「…………」


その説が通ると、奥底の欲望が漫画買いたい悪魔のレッテルになっちまうワケなんだがセイルよ?


「……セイル。お前、シトリーにかこつけて自分の買いたい漫画買っただけだろ」


「………………」 


「おい、こっち向け悪魔」


セイル本人も無理があるとは思っていたようですね、はい。





後日、急遽一件仕事を追加した晴明であった。


ちなみに、被告の言い分としては。

書店でなく、中古で安く手に入れたからと減刑を求めてきたが、裁判官たる俺はそれを認めず、先にスラムダンクを堪能する権利を得た。


結論。

名作は読み返しても名作でした。

体調の方、お気をつけ下さい。

辛い時期ではありますが、皆様の無事をお祈りしております。

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