第四章 狂剣乱舞(9)
ヴィユーニが去った後、全ての力を使い果たして倒れていたルーンの元に、二人の影が近づいた。
「おっ、まだ生きていやがる」
一目でナバラ系とわかる長身の男がそう言うと、もう一人が慌ててその男の袖をつかんだ。
「戻ろう、ロローイ。誰かに見られるとまずい」
「ヴェム、お前もしかして奴が俺たちを生かして返すと思っているのか?」
「どういうことだ?」
ヴェムは相変わらず周囲を気にしている。
「口封じだよ。危ない仕事には付き物だ。でかい前金で釣っておいて、後金を取りに来た時にばっさりとやっちまうのさ」
「まさか――」
「おいおい、先日俺たちがどんな目に遭ったか、忘れちまったのか?」
ヴェムはしばらく考え込んでいたが、不意にロローイがルーンに近づいたので驚いた。
「何をするつもりだ?」
そう言った頃には、ロローイは既にルーンの胸をはだけようとしていた。
「何をって……役得だろ?」
「役得ぅ?」
「俺たちはもう王都で仕事はできねえ。ああ、確かにあの野蛮な男が助けてくれなかったら死んじまってただろうよ。だが、一度失った信用はもう二度とは元にもどらねえ」
確かにロローイの言う通りである。傭兵ともなれば敗戦くらいは経験するものだが、盗賊相手に雇い主を見捨てて自分だけ逃げ延びたとなれば、そのような者に仕事をやろうとする物好きはいないだろう。
「今回はそれなりに稼がせてもらったが、しばらくは温けえものは食えないね。女にしたってそうさ」
ヴェムはようやくロローイが何を言いたいのか理解し、息を呑んだ。
「心配ねえ。誰も見ちゃいないさ。全部あのヴィユーニがやったんだ」
ロローイが腰ひもを解き始めたのを見て、ヴェムも覚悟を決めたらしい。あるいははだけた女の柔肌に見せられたのか、渇いた唇を舐めた。
「いい服着てやがる。これもいただいちまおう。さて、俺が先だな。何、すぐにお前と代わってやるからちょっと見張っててくれ」
ルーンの付き人であるサシャが半裸のままで昏倒している主を見つけたのは、二人が去ってから少し後のことである。
第四章「狂剣乱舞」了
第五章「七本鞘」へ続く




