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3人寄らばおかしなおかしな酒パーティー

ある昼下がり。

雨で行き場を失った、ななし荘の3人の男たち。

予定なし3人組は、食堂で飲み会をすることになったのだが…?

6月半ば。

今日は梅雨らしい雨の1日。


「あー、ずっと雨っすねー」

「せっかく、今日は講義もバイトもないのになー」

食堂の窓から雨を降らす空を見て、タローが恨めし気に呟いた。

「梅雨だからねー」

昼食の片付けを終えたハルは、エプロンを壁のフックに掛ける。

「だめだ、今日は珍しくやる気が起こらない」

本人が言うように、珍しくやる気のないヒューイも食堂に顔を出した。

「雨だね」

「雨だなー」

誰ともなくそんな風に言い合い、男3人、厳密には2人と一匹は暗い梅雨空を眺めていた。


気付けば、特に予定のないななし荘居残り組が一堂に会していた。

「そうだ!せっかくなんで、みんなで飲みませんか?」

「ついこの間、母ちゃんが田舎からうまい地酒送ってくれたんすよー」

「飲むって、昼間っから?」

ハルは、休憩スペースで洗濯物をたたんでいる。

「ハルくん、今日は買い物行くの?」

すかさず、横からヒューイが聞く。

「いやー、今日は雨だし、止めると思います」

「食材はストックあるし、毛が濡れると乾きにくいし…」

「じゃあ決定だね、いいね、たまにはこんな面子で飲むのも」

やはり珍しく、ヒューイはワクワクしているようだ。


「せーの、カンパーイ!」

乾杯の音頭は、タローが取った。

3人は食堂の休憩室に陣取り、飲み会をすることにしたのだった。

「うん、飲みやすいね」

ヒューイはご機嫌な様子だ。

何だかんだ言いつつも、ハルもグラスに口をつけている。

「何か、梅ちゃんに申し訳ないな」

ちょっと困ったような顔をしている。

「まあまあハルくん」

「きみだっていつも忙しくしているんだから、たまにはこんなことがあってもいいと思うよ」

「そうですかねー」


タローの地酒は確かに美味しかったが、さすがにただ飲むだけでは飽きてくる。

「つまらないね、女性のいない飲みっていうのは…」

ヒューイは、既にちょっと不機嫌なオーラを醸し出していた。

「だって仕方ないでしょ?梅ちゃんは会社に行ってるし」

「どのみち、一緒に飲んだってすぐにつぶれちゃうよ」

ハルは、グラスをあおる。

「梅子ちゃんて、お酒弱いんすか?」

「そうだねー、物によっちゃ、グラス半分で寝ちゃうし」

「俺はさ、週末に一緒に飲んだりしたいんだけどねー」

酒のせいか、ついつい愚痴っぽくなってしまう。


「そうだ、ゲームやりません?」

「ゲーム?」

「この前合コンでやったんすけど、〇〇(まるまる)くんゲームって知ってます?」

「いや、知らないね」

「女の子なら〇〇(まるまる)ちゃんなんすけど…まあ簡単なリズム系のやつっす」

そう言って、タローはパンパンと手拍子をする。

「こうやってリズムに乗りながら、連想できることを言うんすよ」

「しょうもないっちゃしょうもないっすけど、けっこう盛り上がりますよ」

「あー、俺、そういうのちょっと苦手だな」

「ハルくん、どうせ暇だしやってみよう」

「何事も経験だと、ボクは常々思っている」

ヒューイの妙な押しがあり、3人はゲームを始めることにした。


「じゃあまずオレでやってみましょうか」

「最初は、こうっす」

タローは両手の親指を上げて、その手を前に突き出した。

「タローくんゲーム、イエー!知りたい、イエー!」

本当に、酒の席でやるしょうもないゲームらしい。

ヒューイに関しては、まったくの真顔だった。

にこりともしていない。

「んで、まずは本人から…えーと、タローくん、大学生!みたいなね」

タローくんという掛け声の後に、手拍子を2回入れるらしい。

「じゃあ、ヒューイさん、ハルくんの順でやってみてください」


「タローくん、イエー!知りたい、イエー!」

「タローくん、大学生!」

「タローくん、経営学部」

「タローくん、北国出身」

「おっ、ヒューイさんもハルくんもうまいっす!じゃ、2巡目っすよー」

「タローくん、田舎者!」

「タローくん、本名は双葉太郎」

「タローくん…えーと…えー?」

「はい、ハルくんブッブーっす!リズムに乗れなかったり答えられなかった人は罰ゲームっす!」

言いよどんだハルに、タローは両手でバツ印を作った。

「えー、何さ、罰ゲームって」

「飲み会ではデコピンとかっす」

タローがそう言うのを黙って聞いていたヒューイだったが、不意に、その宝石のような瞳に光が宿る。

“罰ゲーム”というワードに、大きく心が動いたようだった。

「デコピンってのも何だし、聞かれた質問に正直に答えるってのはどうかな?」

「それでもいいっすよー」

「ヒューイさん、ハルくんに質問あるんすか?」

ヒューイの前のめりな様子に、ハルは嫌な予感がしていた。


「そうだね…」

考え込むフリをしてはいるが、何を聞くつもりかはもう決めてあるのだろう。

「ボクは、梅子ちゃんのバストは非常に現実的なサイズだと思っているのだけど、ハルくんはどうだい?」

「ブーーーーーーーーーーッ!」

いつか見たような光景が、再び食堂で繰り返される。

「ヒュッ…何でそんな…エホッ」

酒が変なところに入ってしまい、むせて大変苦しい。

「さあ、正直に答えるんだよ」

ヒューイの隠された特殊能力『ザ・サド』が発動したようだった。

「言えるわけないでしょ、そんなこと!」

「てか何です、現実的なサイズっていうのは!」

「あー、でもオレもそれ思ってました」

「え!?」

タローの予期せぬ参戦に、驚きを隠せないハル。

「実は、初めて会ったとき、梅子ちゃんの胸っていいなーって思ってたんすよね」

「確かに、現実的なサイズっての分かるっす」

田舎の純朴少年だとばかり思っていたタローの発言に、ハルは愕然とした。

「そうなんだよ、タローくん」

「梅子ちゃんのバストは、本当に現実的なんだ」

「ちょっと2人とも、いい加減に…」

「いいかい?ハルくん」

「これは、何もエロティックな話ではないんだ」

真面目くさった顔つきで、ヒューイは続ける。


「漫画の世界では、巨乳はひたすら大きく、貧乳はひたすら小さく描かれるものなんだ」

「いわゆる、デフォルメってやつだね」

「もう漫画の中では、バストは極端に大きいか極端に小さいかの二択しかない…」

「しかし梅子ちゃんは現実の存在であり、C80というサイズもその現実味を増す要因となっている」

「この現実世界において、彼女は巨乳でも貧乳でもない…」

「それは、彼女を取り巻く者たちが自由に決めていいことなんだよ」

「おお、その聖母にも似た慈悲深さよ…!」

「分かるかい、ハルくん?」

「全ッ然、分からん!!」

同じく真面目な顔をしてふんふんと頷いているタローは、この際無視することにした。


「で、どうなんだい?」

「C80という梅子ちゃんのカップ数は、きみにとって巨乳かい?貧乳かい?」

「わはは、ヒューイさん!さっきと質問変わってるっすー」

「…」

酒とは本当に恐ろしい飲み物だ。

悪魔の水だ、とハルは思っていた。

普段は善良な住人である田舎少年=タローのことすら、こんな人間に変えてしまうのだから…。

「さあ、答えたまえ!」

RPGのラスボスのように、ヒューイは威厳たっぷりに迫ってくる。

「ヒューさん…あんたはひとつミスを犯しているぜ…」

「何だって…!?」

ハルは、急に勝ち誇ったようにヒューイを見据える。

「梅ちゃんの胸は、C80じゃなくて85なんだよ…!!」

決まった…!


「…何で、ハルくんはそんなこと知ってるんだい?」

恐ろしく冷めた目で、ヒューイがこちらを見ている。

「ボクは、憶測で彼女のカップ数を語っているけれど、きみはなぜ、()()()数字を知っているんだい…?」

「ブラのタグ、見たんすか?」

タローが確信を突く。

ハル、ヒューイ大王と村人・タローから会心の一撃を食らう。


そう…確かについ見ちゃったけども…。

中学生の頃はスポブラだったのに、高校生からワイヤー入りのブラになって…。

近頃では胸を締め付けないノンワイヤーブラを使っていることを、洗濯物を干しているハルは知っている。

そして、その小さなタグに「C85」と記されていたことも。


「梅ちゃんは…俺がブラを洗おうが下着を洗おうが、本当に無頓着なんです…」

気付けば、ハルは罪を告白する罪人のように、2人の前で畳に手をついていた。

「うんうん、分かるよ」

ヒューイは優しくその肩を抱いている。

「たたんだ洗濯物…つい一番上が下着になっちゃっても、ありがとーって笑顔で言うだけなんです」

「きみも辛かったろう」

「それでつい、彼女の水玉模様のパンティを自室の引き出しにしまったわけなんだね?」

「はい…って、そんなことしてねえし!!」

「わー、ハルくんがご乱心っすー!」

やんややんや。


*****


雨粒のガラスを叩く音が大きくなっていた。

夕方以降は雨脚が強まるでしょう。

確か、朝の天気予報で言ってたっけ…。


ハルは、食堂の畳の上で目を覚ます。

休憩スペースはきれいに片付いていて、小さな丸テーブルには、ハルのグラスが置いてあるばかり。

頭痛がする。

さすがに、飲みすぎたらしい。

ゆっくりと起き上がると、壁の時計が目に入る。

pm 7:17

「しまった!夕食!」

大きな傘を持って、梅子を駅まで迎えに行くつもりもしていたのだった。


「あ、起きたの?酔っ払いー!」

見れば、頭にタオルを巻いた梅子が、買い置きしておいたカップうどんを食べている。

もう入浴を済ませたらしい。

「梅ちゃん…おかえり…」

どうやら、酒を飲んで眠ったことはバレているらしい。

梅子は、ちょっと機嫌が悪そうだった。

「別にいいよ?ハルだっていつも頑張ってくれてるし、お昼からお酒飲んだって」

「はい…」

「だけどさ、わたしがびしょ濡れになって帰ってきたのに、お酒臭いまま寝てるのはちょっとショックだった…」

「夜ご飯もないし」

梅子はいじけたように言い、うどんをすすっている。

「ごめん…梅ちゃん」

「もういいよ」

「そっとしておいてあげてって、ヒューイさんにも言われたしね」

どうせなら起こしてほしかったと思ったが、ヒューイなりの心配りだったのかもしれない。

昼間は酒の席であんなことがあったけど、彼なりにハルを思ってくれているのかもしれない。


「と・こ・ろ・で!」

汁を飲み干したうどんのカップを、梅子は叩きつけるようにテーブルに置く。

「何で、わたしの洗濯物置きっぱなしにしたの!?」

「え?」

「え?じゃないよー!」

「いつもたたんでくれるのは助かるけど、何も、パンツを一番上にしなくてもいいじゃん…」

「ヒューさんやタローくんに見られるとこだった!」

いつもは温和な梅子が、珍しく怒っている。

今日は珍しいことづくしかな?

そんな風に思いながら、ハルは昼間の記憶をたどった。

確か…飲み会の前に洗濯物をたたんでいて…あー、そのまま隅に置きっぱなしだったかも…。

たたんだのがクマちゃん柄の下着だったのは覚えている…。

履き心地がいいのかもしれないけど、小学生じゃあるまいし…と思ったのも覚えている。

しかし、それを一番上に置いただろうか?

もしかして…。


「あの、梅ちゃん」

「今日はいろいろ悪かったよ」

「もういいよ」

「ハルはお酒臭いから、わたしもう部屋に行くね!」

そう言って、梅子はうどんのカップをゴミ箱に放り込み、使った箸を洗って食堂から出て行った。

後には、ハルがひとり取り残される。

まるで、思春期の娘にクサいと言われた父親のように。

その様子を、食堂の入り口からそっと見ている者がいる。


「ハルくん、災難だったね」

「ヒューさん…もしかして…」

「ヒューさんじゃないんですか?梅ちゃんのパンツを一番上に置いたのは…」

どうせそうに決まっているが、一応聞いてみた。

「ハルくん…」

ヒューイは、ハルの肩にそっと手を置いた。

「罰ゲーム」

「だろ?」

それだけ言うと、爽やかな笑みを残して、ヒューイは食堂から去っていった。


ハルは、しばらく断酒しようかと思い始めていた。



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