ヒューイ ‐憂いのBL貴公子‐
ピピピピピ。
軽い、電子音。
目覚まし時計だろうか。
ボクは、ベッドの中で脚を伸ばした。
隣にいるはずの彼女は、もうそこにいない。
ゆっくりと起き上がると、部屋を見回した。
「起きた?プリンスくん」
彼女は、ボクを偽名で呼ぶ。
プリンスなんて本名じゃないことを、彼女はきっと知っている。
大きなウェーブのかかった、彼女の栗色のロングヘア。
あれが地毛でないことを、ボクが知っているのと同じように。
「おはよう、サチコさん」
ボクはにこやかに答える。
サチコさんはまだベッドでうだうだしているボクに、軽くキスをする。
「もう仕事なの?」
「うん、まだ一緒にいたいんだけどね」
話をしながらも、彼女は動き続けている。
大手商社で社長秘書をやっている彼女は、いつも多忙だった。
「いってらっしゃい」
「鍵はいつものところに入れておくよ」
そう言って、今度はボクがサチコさんにキスをする。
全裸のまま、ベッドから起き上がって。
彼女の出かけたあと、ひっそりとした部屋でしばしたたずむ。
やがてボクは、身支度をして家に帰った。
久々に帰るボクのマンションも、別に悪くはない。
サチコさんのタワーマンションには負けるが、家賃20万、眺めもいい。
夜景の美しさが売りのバスルーム、その一角にあるバスタブにたっぷりと湯を張る。
温度は少し低めで。
長風呂が好きなのだ。
そこに気の向くまま、ゆっくりと浸かる…。
そのはずが、不意にあるイメージが頭に浮かび、ボクはいつもより早めに風呂を出た。
寝室の隣にある南向きの部屋。
本棚には様々な資料用の書籍が並び、トレース台もある。
ここが、ボクの仕事場。
さっき浮かんだイメージを、ノートにラフに描き出していく。
あっという間に、読み切り1回分のストーリーが完成した。
ボクは漫画家である。
ネームができた旨を担当に連絡すると、今日の午後に早速見に来るらしい。
普通は、自分が出版社に出向くんじゃないかって?
そうだね、普通はね。
ボクは、昔から何でも人並み以上にできる子どもだった。
いわゆる神童と呼ばれるタイプの子は、成長するにつれ、ごくごく普通の大人になっていくことが多い。
しかし、ボクはそうではなかった。
大人になっても、相変わらず人並み以上にいろいろこなしてしまえている。
漫画にしてもそうだ。
特にやりたい仕事もなくて、女性に誘われるままフラフラしていた時期があった。
そんな折、泊まった先で偶然見かけた漫画雑誌。
パラパラとページを繰って、何となく雑誌の雰囲気をつかんだ。
彼女の所からの帰り、大きな文具店で漫画を描く道具をそろえてみた。
雑誌に、漫画賞応募のページを見つけたからだった。
あの雑誌が欲しているような話を想像して作り、絵を描いてみた。
1週間後に出版社に郵送した漫画は、その雑誌の新人賞を獲得。
いきなり担当という人が付いて、漫画家になることが決まった。
漫画を描くのは意外に楽しいもので、ボクは思うままに描き続けた。
ファンからは「神!」とか「千年に一度の逸材」とか言われて崇められ、仕事はどんどん増えた。
とはいえ、相変わらず女性と楽しむことも忘れていない。
そんな順風満帆に思える人生だけど、ふと、何か物足りないような気分になるときもある。
金も名声も得た者がそんなことを言うなんて、わがままだとは思うのだけど。
*****
2~3日足らずで完成した漫画は、さっさと担当に引き渡す。
読み切り作品だったので、またしばらくは時間ができる。
今度は誰と過ごそうかと考えていたが、珍しく誰からも連絡はない。
ボクから女性に連絡することはない。
彼女たちが会いたいと思ってくれれば会うし、そうでないならそれでいい。
人恋しい夜があれば、出会うために外を歩けばいい。
季節は、夏の終わりというところ。
夏から秋に変わりゆくこの時季が、ボクは何となく好きだった。
暇な時間に背中を押され、ボクはふとぶらぶら歩いてみようという気になった。
何も特別なことはない、10月のある日。
その散歩が今後の人生を大きく変えるものだとは、このときのボクはまだ知らなかった。
*****
気の向くままに電車に乗り、気の向くままに知らない駅で降りてみた。
下車した先の街はベッドタウンという雰囲気で、駅の近くには古びた商店街もある。
ボクは、どこに入るわけでも何を見るわけでもなく、ただぶらぶらと街を歩いた。
しばらく歩き続けていると、少し開けた場所に出る。
遊ぶ子どもがいるのかは定かではないが公園があり、道を挟んだ向かいにあるのはアパートだろうか。
外観はかなり古そうだが、今もこんなアパートがまだあるのか。
妙に興味がわいて、ボクはアパートのすぐ前まで行ってみた。
2階建ての小さなアパート。
マンションではなく、アパート。
この中の部屋は、きっとうちのバスルームくらいの大きさなのだろうな。
そんなことを勝手に思いながら突っ立っていると、中から人が出てきた。
いや、人ではなかった。
犬…いや、オオカミだろうか。
そういう感じの被り物をかぶったようなヤツが、ちょっと暗い顔をして出てきたのだ。
手には、何か紙を持っている。
それを、アパートの門柱に貼り付けたいらしい。
ボクは、そいつのことが気になって、しばらくじっと見ていた。
被り物のほうは、ボクには気付いていないようだった。
何やらブツブツと口の中で言いながら、相変わらず暗い顔をしている。
急に吹いた風が、いたずらに紙を巻き上げる。
犬の被り物をしたヤツが「あっ」という顔をし、飛ばされた紙はボクの横っ面に貼り付いた。
既に裏に糊でも付いていたのか、顔がぬるっとする。
「あーーー、すみません!」
どうやら男のようだ。
暗い顔の男が、急いでボクのところに飛んでくる。
「いや、大したことじゃないよ」
ボクはそう言ったが、実際顔は糊で汚れていたし、犬の男も焦っているようだった。
「ちょっ、梅ちゃーん!」
男は、アパートのほうに呼びかける。
「急いでタオル持ってきてくれない!?」
しかし、今度はアパートのほうから悲鳴が聞こえる。
「キャーーーーーッ!」
「何!?どうしたの!?」
「出たぁ、カマドウマ!!」
「やだやだやだやだ!!!」
「もう、カマドウマはいいから!タオル早く!」
「ヤダーーーーッ!早く追い出してよーーー!」
カオスとは、このようなことを言うのだと思った。
かくしてボクは、ボロアパートの一室に通されることとなった。
部屋というか、どうも食堂のようだった。
顔の糊はタオルで拭くことができたし、今は何も問題はない。
「本当に、すみませんでした…」
恐縮しきりという感じで、犬の男はボクにお茶を出してくれた。
お茶の横には、たい焼きもある。
たい焼きなんて、本当に久しぶりだ。
「お詫びというわけではないんですが、よろしかったら召し上がってください」
「じゃあ…遠慮なくいただきます」
そう言って、ボクはたい焼きを頬張った。
素朴ながら、旨いと正直に思える味だった。
「日本語が通じてよかったね、ハル」
「海外の人かと思っちゃったね」
男の横では、可愛らしい女の子がニコニコして座っている。
海外の人、というのはボクのことらしい。
日本語を流ちょうに話すことに、安堵されたり驚かれたりするのには慣れていた。
ちなみに彼女、年のころは20代半ば、バストはCの80か85ってとこか。
別にいやらしい目で見ているわけではないが、女性経験が多いと、一目で大体のことが分かるようになる。
声からして、さっきカマドなんとかで大騒ぎしていたのは彼女らしい。
「梅ちゃん」
「通じてよかったね、じゃないよ」
「すぐにタオル持ってきてほしかったのに」
「だって、カマドウマがお風呂場に出たんだもん…」
梅ちゃんと呼ばれた女の子は、軽く唇を尖らせている。
「そんなもん、パッとつまんでどっかにやればいいじゃんか」
「いやだよ、あんな気持ち悪いの」
「カマドウマだってね、梅ちゃんのこと怖がってるんだよ」
またカマドなんとかのことでカオスが巻き起こりそうな気配がする。
ボクは、話題を変えることにした。
「アパートの方ですか?」
てんやわんやのうちにアパートに通され、タオルで顔を拭いたりしていたので、目の前の彼らについての情報は何もない。
「あっ、すみません、申し遅れました」
犬顔の男は、ガタイのいい体を揺らしてはっとしたようだった。
恐縮するなら、まずはその被り物を脱いだらどうだと思うのだが。
「ハルといいます」
「ここの大家をやってまして」
「こっちは弥生梅子で、俺の幼馴染です」
梅子で、梅ちゃんか。
古風な名前ではあるが、彼女にはぴったりな気がする。
「さっき…何か広告でも貼ろうとしてたんですか?」
「あー、そうそう」
「そうなんです…入居者募集のチラシを…」
ハルとやらは、ふうっとため息をついた。
一体、何が問題なのだろう。
「もう一部屋あるんでぜひ入ってもらいたいんですが、なかなか…」
こんなボロアパートでは、入居者が来ないのも納得ではある。
ボクは逆に興味が出て、大家の男に申し出てみた。
「あのー、よければ少し部屋を見せてもらっても?」
「アパートって、住んだことないもので」
こうして、ボクは空き部屋だという2階の一室に通された。
部屋の狭さは、予想していたのとさほど変わらない。
うちのバスルームのほうが、若干狭いというくらいのものだった。
さっきの食堂もそうだったが、アパート内は意外に近代的ではあった。
この部屋にも、古臭さは感じられない。
ふーんと言いながら部屋を眺めていると、例の梅子ちゃんが声をかけてきた。
「あのー、興味がおありでしたら住んでみませんか?」
「え?」
そんなに興味がある風を装っていたわけではなかったが、そんなに興味ありげに映ったのだろうか。
「ちょっと梅ちゃん!急に失礼だって!」
「でもさ、ハル」
「この人なら、いいんじゃないのって思うよ」
「だって、ハルのこと…何も言わないでしょ?」
ひそひそ話のつもりかもしれないが、梅子ちゃんはけっこう声が大きい。
「そうだけど…いきなりそんなこと言われても、この人困るって」
「えーと…何の話かな」
話が見えずに、ボクは思わず割って入った。
「ボクがここの住人に向いてるって考えるのはどうして?」
「いや…向いてるっていうか」
犬面は何やらもごもご言っている。
ボクはちょっとイラッとした。
「あの、わたしがそう思ったんです」
梅子ちゃんが犬を押しのけて、前に出る。
「うちのアパート、名前もダサくて見た目もボロボロなんですけど、食事は朝夕出ます!」
「はあ…」
「ハルはこんな感じで大きいですけど、家の仕事はちゃんとやってくれます!」
「はあ…」
アピールポイントだろうか。
今どき、大家が食事を出してくれるアパートも珍しいが。
「それで、あの…」
「ハルがオオカミなのを気にしないのであれば、けっこういい物件だと思うんです!」
梅子ちゃんはそう力説した。
「はあ…」
「…」
「はあ?」
「何?オオカミって」
「ほらね…」
犬ではなくオオカミフェイスの大家は、やってしまったという感じで顔を手で覆っている。
「オオカミって、誰が?」
「ハルが」
「え?」
この子、天然そうに見えたけど、まさか不思議ちゃんだったのか?
「いやいや、ご冗談を」
ボクは、努めて明るく振舞った。
彼女が不思議ちゃんを通り越して精神的に病んでいるとしたら、無下に否定するのは正しい対応でない気がしたからだ。
「本当です!」
「信じられないなら、顔とかしっぽとか引っ張ってもらっていいですから!」
彼女にそう言われ、どうしたものか迷った。
仮に引っ張って中から人間が出てきたにしても、ここは彼女の言う通りだったことにしよう。
そうして、お茶を濁して逃げよう。
ボクはそう思っていた。
ギューーーッ。
まずは、手始めに耳を引っ張ってみる。
「いたたたたたたたたた」
大家はリアルな芝居をしている。
触り心地は、かなり本格的だった。
先月ある女性のうちに泊まったときに飼い犬を撫でたが、その感触に似ていた。
口を開けさせ、口内も見てみる。
犬歯というのだろうか。
大きな牙がずらっと並んでいて、手の込んだ作りをしている。
どうやら、匠の技が光るマスクらしい。
次に、しっぽをつかんでみることにした。
そういえば、犬はしっぽの付け根を触られるのが好きらしい。
何でも、しっぽを振るときに筋肉が凝りやすくなり、しかも自分では触れにくい場所だからだそうだ。
そんな記事をネットで読んだのを思い出し、しっぽの辺りをつかんでみた。
ぎゅっ。
「…うっ」
何だこの表情…という表情を大家はしていた。
やはり、気持ちいいというのは本当らしい。
いやいや、それは、彼が本当に犬かオオカミだったらの話だよね。
そんな細かいキャラ設定も守っているなんて、この男は真性だと思った。
ただ…出てこないのだ。
人間の肌が。
ボクは、こうなったらおふざけも承知でとことん付きやってやることにした。
「じゃあ、全部脱いでください」
そう言い放つ。
しっぽをナデナデされてちょっと気持ちよくなっていた様子の大家は、びくっと体を震わせた。
「こ、ここでは無理です…梅ちゃんもいるし」
ボクの目を見ないで、そんなことを言うのか。
「じゃあ風呂場に行きましょう」
「見るのが、ボクだけならいいでしょう?」
いつのまにか、普段は隠しているSっ気が出てしまっている。
ちょっと怯えたようにボクを見てくる、このワンコロ。
とことん辱めてやりたくなった。
自分では見えないようなところまで、しっかりはっきり見てやろうと思った。
そして、彼が人間であることを確かめるのだ。
*****
ボクは敗北した。
彼の体のどこを見ても、人間らしい部分はまったくなかった。
生まれたままの姿を晒させ、まるで刑務所の看守がごとく、体の隅々まで調べたというのに。
彼の体は、1枚の毛皮で全身が覆われていた。
毛皮の下には筋骨隆々の肉体があり、そこには血液の流れも感じられるようだった。
これがもし人工物だとしたら、作り手は人間国宝レベルに違いない。
ボクに全身をチェックされたハルくんは、耳もしっぽもたらんと垂らして、憔悴した様子で風呂場から出てきた。
脱いだTシャツは、まだ着ないで胸に抱えている。
梅子ちゃんが、その顔を心配そうに覗きこむ。
「大丈夫?痛いことされなかった?」
「痛いこと…うっ…」
その問いに目が潤み、彼は胸のシャツに顔を埋める。
ボクはそんな茶番には目もくれず、今目の前にあるこの現実をどう受け入れたものかと考えていた。
事実は小説より奇なりと言うが、漫画よりも奇なりのようだった。
「では…とりあえず今日は帰ります」
ボクは内心穏やかではなかったものの、冷静を装ってそう言った。
あのとき、はっきりとさようならを言えばよかったかもしれない。
オオカミがアパートの大家をしているなんて、正気の沙汰ではない。
もう関わらないに越したことはなかったはずだった。
しかし、彼らとの間にできた関りを断つことが、なぜかそのときのボクにはできなかった。
マンションの部屋に帰ると、固定電話に留守録があった。
ボクは、女性にスマホの番号を教えることはしない。
伝言は、サチコさんからだった。
また会えない?と聞いていた。
ボクはそのまま伝言を消去し、彼女に連絡を取ることもしなかった。
バスルームに入ると、電気もつけずに湯の張っていないバスタブに深々と座り込む。
眼下には、宝石を散りばめたような夜景が広がる。
昼間覗いた、あのアパートの一室を思い出していた。
どうやら、あのままバスタブで眠っていたらしい。
目が覚めたのは、次の日の早朝だった。
ボクはバスタブから起き上がり、そのまま仕事部屋に向かう。
ネーム用のノートを開くと、何かに取りつかれたように鉛筆を走らせた。
そうして瞬く間に、また1本の作品が生まれた。
しかしそれは、今までの物とはまったく異なったものであった。
*****
数日後、ボクは再びあのアパートの前に立っていた。
手には、皮のボストンバッグ。
他の荷物は、既に部屋に届いているはずだった。
あの朝、ネームを描いたボクは、担当の矢島に連絡をした。
そこで新たに構想を練った漫画について説明し、今の雑誌で連載できるか尋ねた。
彼は上司と相談してみると言い、数時間後にはOKが出たとの折り返しがあった。
こうしてボクは、新たな人生を踏み出した。
このななし荘で、ハルくんたちと共に。
*****
ハルくんは、今朝もご機嫌斜めのようだ。
それは、ボクがトイレ文庫に自分の漫画を置き忘れたからだった。
梅ちゃんが見たらどうするんだ!と、彼は怒っていた。
ボクは言ってやりたい。
まさに梅子ちゃんのような子たちが、ボクの読者層なのだよ、と。
ななし荘に越してくる直前にボクが描いた漫画は、読み切りながら雑誌史上空前のヒット作となった。
タイトルは、「犬と風呂場とカマドウマと」と付けた。
カマドウマについては、ネットで詳しく調べてみた。
キリギリスのような姿の、あまり気持ちのいい昆虫ではなかった。
梅子ちゃんが大騒ぎするのも、無理はないだろう。
ストーリーはこうだった。
自分を犬だと勘違いしている、アメフト部のホープ。
彼を部活に集中させたい若き監督は、彼の目を覚まさせるため、部室のシャワールームで体を調べる。
そこから2人に尋常ならぬ情熱が芽生え、あんなことやこんなことになってしまう。
ラストカットは、行為で汗を流す2人の足元にカマドウマがいるコマにした。
それが妙に詩的だと、ネットでバズッたらしいと担当から聞いた。
そう、ボクはBL漫画家に転向した。
ボクは昔から、何でもそつなくこなしてしまうのだ。
*****
「まったく、嫁入前の女の子もいるってのに…」
ハルくんは、まだブツブツ言っている。
手に持っていた漫画をぺらぺらとめくっていたが、やがてわなわなと震え出す。
「ちょっと、ヒューさん!!」
本日2回目のお小言らしい。
「何すかコレ!この…春男とか梅太郎とかいうの!!」
「春男はアメフト部期待の星、梅太郎は部の監督だよ」
ボクは朝食の厚切りトーストを食べながら、しれっと答えてやった。
「だーかーらーー」
「これって、俺と梅ちゃんから取ったんじゃないですか!?」
「そんなことないよ、よくある名前だよ」
ボクはなおも、シラを切り通す。
「だって、この風呂場のシーンとかあれだし、カマドウマもそうでしょうが!!」
ボクがトイレに置き忘れたのは、「犬と風呂場とカマドウマ」が収録された単行本だった。
そしてこの伝説的なヒットを飛ばした作品は、もちろん、あの日のことを元に作ってある。
「あー、その話って、ヒューイさんのだったんすか?」
「同じ学科の女の子たちが前に話してましたよ」
「ポエムっぽくて泣けるBLだって…」
「ちょっとタローくんは黙ってて!!」
ハルくんは、珍しくタローくんにも八つ当たりをしている。
やれやれ、こんなことじゃとても言えないよ。
ボクの新しい作品のほとんどは、きみを参考にしているなんてね。