自動販売機に女がへばり付いてるんだがどうしよう(※バッドエンド)【即興習作】
本作は以下のお題を使って書いています。
『ああああ』『自動販売機』『殺人事件』『2000文字以内』
「ああああ」「ああああ」「ああああ」「ああああ」
オレはその女たちを見た瞬間、ヤバイと確信した。
いや、真夜中に自動販売機にへばり付く女たちを見れば、誰もが思うだろう。
ヤバイ場面に遭遇したと。
「ああああ」「ああああ」「ああああ」「ああああ」
足早に駆け抜けよう。大して広くもない一本道。オレの家までは走れば五分もかからない。それが一番の方法なはずだ。
こんなことなら、ちょっと腹が減ったくらいでコンビニなんて行くんじゃなかった。
だが後悔しても遅いのはわかってる。
ゆっくり、まずはゆっくりと近付いて、ある程度近付いたら、全力で走ろう。
「ああああ」「ああああ」「ああああ」「ああああ」
なんなんだ。さっきからこの声はなんなんだ。
女たちが言っているのはわかるが、何を言ってるんだ。
いや、考えるな。何も考えず無心で歩いて、もうちょっと歩いたら全力で走るんだ。
あと八歩、いや五歩進んだら全力で走るんだ。
「ああああ」「ああああ」「ああああ」「ああああ」
あと四歩。
女たちの髪は長いが、乱れきっている。手入れしていないのが丸わかりだ。
「ああああ」「ああああ」「ああああ」「ああああ」
あと三歩。
服装はまちまち、だけど四人とも薄汚れている。靴もなく裸足だ。
「ああああ」「ああああ」「ああああ」「ああああ」
あと二歩。
……顔は見えないが、泣いてるのか?
もう喉が枯れているのか、随分と低く聞こえる。
あれ……そういえばこの自販機って。
「事件があった場所」
「――――」「――――」「――――」「――――」
声が止まった。オレはヤバイと確信した。あと何歩なんて言ってられない。本気で足に力を込めた。
走り出す。後ろから、裸足で走るときの独特の音が聞こえてきた気がした。
振り向いてなんていられない。全力で走る。
――あの自販機で、高校生の男の死体が見つかったのは半年前の事だ。
体はバラバラにされ、あるいは挽肉のようにグチャグチャに潰され、細かくなった肉片は受け取り口に全て詰め込まれていた。
どれだけ悪趣味なのか、目玉はくり抜かれ、釣り銭口に入れられてたそうだ。
確か、あの子どもには母親と三人の姉がいたってニュースで――
「ぁぁぁああああああ!! ああああぁぁぁあああああ!!」
心臓が痛い。息が切れる。だが止まることはできない。
大丈夫、女の足だ。オレの家まではもう少し。このまま逃げ切れる――
油断したわけじゃない。誓って油断したわけじゃない。
だけど、そう思った直後、オレは肩を掴まれて地面に引きずり倒された。
「ぁぁああああ! た、助けてくれ!!」
喚くように叫んだ。周りに人はいないが、叫ぶしかない。
そうだ。オレは死んだ男と同い年だ。必死に謝って助けを求めたら、この人たちも危害を加える気がなくなるんじゃないだろうか。
「ごめん、ごめんなさい! 悪気はなかったんです、助けてください!!」
「ああああああああああああ」
聞こえてきた声は、思ったよりも野太かった。
オレは目を見開く。血走った目、口を押さえてくる力、かすかに聞こえる喘鳴音。
女じゃない、男だ。四人とも男だ。
太ももに激痛が走る。
何をされたのかわからない。わかりたくもない。
朦朧としてきた意識のどこかで、オレはある事を思い出していた。
――そうだ。
あの事件の犯人は、まだ捕まっていなかったんだ――――