第八話!
「ちわっす!今日もよろしくお願いします!」
桟橋に入って、すぐ近くにいた田口さんに挨拶する。
「なんだ加納か…、いらっしゃい。」
「なんだは酷くないですか?今日は新顔を二人も連れて来たって言うのに。」
そう言って後ろについて来ていた二人を並ばせる。昨日柳原と約束した通り、柳原の言っていたもう一人の、佐藤を加えて体験入部に来ている。
「おお!いや〜さすが加納だよな!お前は見所があると思ってたぞ!」
バンバンと俺の背中を叩きながら大絶賛。これが田口さんの十八番、THUGOUII!
「お、加納。そいつらが昨日言ってた柳原と佐藤か?」
「あ、荒井さん。ちわっす。そうですよ。」
オールを積み終わった荒井さんが声を掛けてくる。
「柳原 勇介です。」
「佐藤 啓太です。よろしくお願いします。」
柳原と佐藤が軽く頭を下げて挨拶する。この二人は敬語を使うと口調が標準語っぽくなる。普段は柳原は関西弁で、佐藤は軽くだが九州のなまりが入っている。佐藤は、背が俺より少し高く165cmに届かないくらいだ。体型はかなり太っていて運動をしていたようには見えない、そして顔がでかい。佐藤は寮生で同じクラスだ。昨日の夜に話をした時、顔の小さい黒木と並んでいるのを見てかなりの違いにビックリした。髪は黒く真ん中で分けている。
「おう、よろしくー。加納、あれもお前が連れて来たんか?」
荒井さんが顎で自分の後ろのカッターの近くを見るように促す。見るとカッターの準備をしている鬼頭さんと桟橋では初めて見る女子がいた。着ている制服のスカートが短くて中が見えそうだ!
「鬼頭さんは好きなものなんですか?食べ物とか。」
「ん、ああカレーかな…。」
「へえ〜、カレーって私作るの得意なんですよ!私はケーキ大好きなんです!でもすぐ太っちゃうからあまり食べられないんです〜。」
「ああ、そうなんだ…。」
鬼頭さんが引きつった笑いを浮かべている。ああ、あいつは深川だ。そういえば深川にも昨日体験入部のことを聞かれたな。瀬戸の情報が正しかったわけだ。しかし、鬼頭さんがあんな表情をするのは初めて見た。いつも自然な笑顔ではつらつとしてるのに、今は疲れた笑いがにじみ出てしまっている。
「いや、昨日体験入部のこと聞かれただけですよ。マジで来たんですね…。」
「さっきから鬼頭にへばり付いてるけえ、どうにかしてくれんか?わしらじゃ無理。」
「う〜ん、深川のことほとんど知らないんですよね。まあちょっと行ってきます。」
そう荒井さんに言って、鬼頭さんと深川の近くに行く。
「ちわっす!鬼頭さん、今日もよろしくお願いします!」
「あ、加納かちょうどよかった!」
鬼頭さんのすがるような目が俺に向けられている。鬼頭さん、かなり参ってたみたいだ。深川のアタックはそれほどまでに激しいのか!
「鬼頭さん、荒井さんが呼んでましたよ。なんか出艇するまえに決めたいことがあるって…。」
「そうか!わかった、すぐ行く!てか行くわ!じゃ!」
脱兎の如く走っていく。
「ちょっと!邪魔しないでくれる?」
「いや深川さん、邪魔とかじゃなくてカッター出すの遅れるから。それより、そのスカートでカッター乗る気?」
「なによ、文句あるわけ?いーじゃない別に、減るもんじゃなし。」
「女のセリフじゃないし。ちらちらしてたら気が散るって言ってんの。あと、これから来る三年生は男子寮の寮生会長の半田さんだから。」
「えっ!マジ!うわ、乗るのやめようかな…。」
思ったより聞いてる。ほんと半田さんて、見た目とか寮での態度が厳しいから怖がられるよな。ちなみに男子寮と女子寮は同じ敷地内にある。女子寮はセンサー付きの柵に囲まれていて、男子が侵入したのがばれると即退寮となる。食堂などの一部の施設が男子寮側にあるのでそこまでは、女子は入っても大丈夫だ。寮生集会は男子女子一緒に行われるので、深川も半田さんを知っている。
「いきなりやめるん?そんなにビビらんでも。」
「だって、寮生集会で見たあの眼は二、三人は殺ってると思う…。」
「いや、殺ってない!半田さんは部活の時ははっきり言って別人。寮では見た目通り怖いけどね。カッター乗る気があるなら着替えてきなよ。」
「う〜ん…。わかった。着替えてくる!鬼頭さん!お色直ししてくるから、待っててくださいねー!」
急に決心したと思ったら、寮に向かって走り出した。鬼頭さんへのアピールも忘れない。あ、白だった。…しまった!別に乗るのを勧めなくてもよかったんじゃあ…。ああ、鬼頭さんがガックリと肩を落としている。すいません鬼頭さん俺の力が足りないばかりに。深川は俺には抑えられそうにありません。