第七話!
学食に行くと制服に着替えた黒木がカレーうどんができるのを待っていた。
「あれ?加納に瀬戸じゃん。もう先に行ってたのかと思ってたよ。」
「ちょっと話しててさ。おばちゃん!二人分追加ね〜!」
調理場からあいよー、と返事が返ってきた。寮生は学食でも寮生用の定食があるので並ぶだけでいい。ちなみに寮生以外は食券を買うシステムになっている。持ち込みもOKなので時間帯によってはかなり込み合う。今はもう昼休みもあと少ししかないので空いている。しばらくするとカレーうどんが出来上がったので、それを持って席に向かう。下級生は一番入口に近いエリアの席に座らないといけないという寮生ルールがあるので、その一帯の席に向かう。その他にもエレベーター使用禁止など、よくわからないルールが寮生には適用される。席に行くと先客が何人かいて、その中に柳原を見つけた。ちょうどいい、漕艇部に興味あるらしいから少し話をしておこう。
「柳原となりいいか?」
「ええよ。今から飯か?遅いんとちゃうか?」
「ちょっとのんびりしちゃってな。授業には間に合うよ。」
挨拶をかわしながら隣の席に腰掛ける。黒木は俺の正面に座りカレーうどんを恐る恐るすすり始める。白いシャツに散ると悲惨だよな。誰にでも苦い思い出があるはずだ!瀬戸は見知った上級生がいたらしく、二年生に混ぜてもらっている。あいつは本当にすごい能力を持ってると思うよ。まだ入学してから一週間しかたってないのに。
「あいつ瀬戸だよな?あいつっていつも先輩にひっついてんか?」
「そうだな、大体はな。寮でもあんな感じだよ。」
柳原も瀬戸が気になったようだ。柳原は他県出身だが寮には入らず、近くに下宿しているらしい。このように寮に入っていなくても、学校の近くには下宿するところが多くある。一人暮らしと言うと反対されるが、下宿で大人の目があると言うので容認する親も少なくはない。寮に入れば全て解決すると思うけど。寮もいろいろと面倒くさいこともある。とくに上下関係。廊下で上級生とすれ違ったら挨拶して礼をするとか、風呂場では下級生は私語禁止だとか、とにかく上級生は神様だ!みたいな雰囲気が流れている。昔はもっとすごかったと上級生は言うが、俺達にとっては今が全てだ。
「その瀬戸が二年生に聞いたって言ってたんだけど、漕艇部に興味あるんだって?」
「もう知ってんのか?この前桟橋に行ったら今日はやってないって二年生の人に言われたから、その人に聞いたんかな?せっかくこの海青院に入ったんやから、それっぽいことでもやってみようかと思うてな。実はヨット部にも行こうと思うてん。」
この海青院の特徴的な部として、漕艇部のほかにヨット部もある。風を帆に受けて走る船で、一人乗りか二人乗りのヨットを使うらしい。インターハイにも出場するレベルらしく結果を残している部だ。漕艇部はと言うと、そもそもインターハイというものがなく、いきなり全国大会らしいのだが全国と言っても海青院高校の姉妹校のような高校が集まってやるものだ。しかも、全国で五校しかないのでかなり寂しいものがある。その中で我が海青院は昔は凄く強かった時があったらしいが、最近は三位になるのが精一杯だと聞いた。
「漕艇部は今日は体験入部やらないって言ってた。明日一緒に行くか?」
「行く行く。あともう一人、気になってる奴がいてるからそいつも連れて行ってええかな?」
「俺としては少しでも仲間がいた方がいいから大歓迎。黒木も行くだろ?」
黙々とカレーうどんを白いカッターシャツに散らさないように格闘中の黒木に聞いてみる。
「あぶな!俺?明日はパス。体育館の部活を見に行くんで。」
「え?漕艇部にするって言ってたよな?」
「今のとこはね。でも一通りは見るだけ見てみようと思うんだよ。」
「んー、了解。て言うか、裾に散ってるぞ。カレー。」
「ウソッ!うわ!最悪だ〜。」
「さきに着替えてくるからだよ。」
一生懸命に食っていたのにかわいそうに。そんな話をしていると予鈴が鳴る。
「やべ!まだ俺着替えてないって。早く戻ろうぜ!」
「いや、わいらはそこまであせらんでええから。」
「加納だけだよ急がなきゃならないのは。」
「くそ!お先!」
そういうが早いかダッシュで食器を返し食堂を出る。柳原か、やっぱり一緒に部活やる仲間は多い方が絶対楽しいからな。もう一人連れてくるって言うし、少しでも興味持ってくれたらいいな。ヨット部より漕艇部を選んでくれ!