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第三話!

 入学式のため学校は午前までだったので終わった後、早速(さっそく)漕艇部へ仮入部するために桟橋に向かった。全長が50mくらいある練習船『海青丸(かいせいまる)』が停泊(ていはく)しているので、迷うことはない。

 桟橋ではすでに二年生と思わしき上級生が数人、部活の準備のために漕艇部が使う小型艇(こがたてい)のカッターにオールを積み込んでいた。

「こんちわーす!漕艇部ってここですよね?仮入部させてください!」

 一番近くにいた上級生に元気よく声をかける。最初の印象が大事だしな。

「おう、いらっしゃい。やっとまともに会話できる奴が来たか。今、準備中だからあっちで話でもしながら待ってな。」

 苦笑しながら指を指した所に、俺より先に来ていた仮入部希望者が二人、桟橋の車止めに腰かけていた。一人は知った顔だ。クラブ説明会の時に入口で声をかけた気弱君だ。もう一人は座っていてもかなりでかいとわかる。180cm以上あるんじゃないだろうか。

「ちわ!そちらさん達も仮入部?俺もなんだよ。よろしく!」

「…どうも。」

 でかいのが、無愛想(ぶあいそう)に相づちをうつ。

「あ、この間の…。」

「おう、お前も漕艇部に興味あたんだな。俺は加納(かのう) 春希(はるき)っていうんだ」

「ぼ、僕は、大場(おおば) (みのる)です。」

「…俺は真辺(まなべ) 洋介(ようすけ)です。」

 ものすごく簡単な自己紹介だったな。名前だけだけど。え〜と、色白で身長が160cm位で長めの黒髪なのが大場で、色黒で身長180cmオーバーの茶髪の坊主頭が真辺だな。大場は人見知りなのか?もう少し、ビクビクせずに話せればいいんだけどな。真辺の方はかなり無愛想に感じるし、色黒に坊主でしかもでかいって少しビビってしまいそうなんですけど…。しかしテンションの上がらない二人だな。なんだか会話も弾みそうにないし、さっきの先輩の苦笑の意味が分かる。どうしようかと思っていると、

「ちわーす!見学に来ました!」

 職員室に呼ばれて遅れていた黒木が来たようだ。二年生に挨拶するなりこちらに走って来た。

「ははっ。遅れちった。おや?そちらさんは?」

「遅かったな。色白い方が大場で、黒い方が真辺。同じ一年だよ。」

「おう!そうなの!大場に、真辺ね。よろしくよろしく!俺は黒木(くろき) 昌吾(しょうご)。」

 黒木が大げさに、指さし確認しながら自己紹介をする。

「よ、よろしくお願いします。」

「…よろしく。」

 例の(ごと)くテンションの低い挨拶をしている大場と真辺。助かった。黒木がいれば重苦しい雰囲気になることもない。

「あれ?瀬戸は?一緒じゃなかったのか?」

「うん?あいつは確か今日はバレー部に行くって言ってたよ。なんか先輩に行きますって言ってたんだってさ。」

「あいつほんと、先輩に()びてるよな。いい神経してるよ。」

「まあ、いんじゃん?それよりさ、二人は何で漕艇部に来たの?」

 黒木が黙々(もくもく)と座っている二人に話を振る。

「ぼ、僕は、船が好きだから…、興味が、少しあって。で、できるかどうか、わからないけど。」

 大場が自信なさげに答える。

「そうかー船が好きなのか。なら大丈夫じゃね?俺なんかたいして理由なんてないしさ。てことはもしかして航海科?」

「う、うん。そ、そうだよ。僕、航海士(こうかいし)になりたいんだ。」

「へえ〜すげえ!もう先のこと決めてんだ。俺は全然考えてないよ。加納もだろ?」

「ん、ああ、何も考えてないわ。」

 言われて思ったが、この漕艇部に入ることが最近の俺の目標だったわけで、その先のことは全く考えてないな。大場のことを気が弱い奴と思っていたが、それはただ単に自信が無いだけで自分をしっかり持っている芯の強い奴なのかもしれない。

「だよなー。夢があるのはいいことだよな!そんで真辺は何で漕艇部?」

「…親父が漕艇部だったから。」

「へー、親父さんここの卒業生なんだ。じゃあ、親父に憧れてってやつ?」

「…うん。親父みたいな漁師(りょうし)になりたくて。」

 真辺が少し笑って言った。なんだ、けっこう優しい笑顔ができるんだな。無愛想に見えるのは、口下手なだけかもしれない。

「真辺は漁師か〜。二人ともいろいろ考えてんね。その方がやりがいあるんだろうね。俺もちょっと考えないとな〜。それじゃあ、真辺も航海科なんだ?」

「…うん。そうだよ。」

 そんな三人を眺めながら、俺は物思いにふけっていた。大場も真辺も将来の事を考えてこの学校を選んだようだ。漕艇部に入りたいだけでこの学校に来た俺には、二人がとても立派に見える。今の俺では将来のことは全く考えられない。それに俺は基本的に今が良ければいいや(てき)な考え方なのだ。そういうのは無理に見つけようとしても見つからないしな。俺は俺だ。マイペースでいこう!

「お〜い。加納!なに自分の中に引きこもってるん?」

「おう。別に、ぼーっとしてただけだよ。」

「ふーん、てかさ、先輩達が呼んでる。準備できたみたい。」

 確かに、先輩がこちらに手を振って、こっちに来いってジェスチャーをしていた。やっとカッターの用意が整ったようだ。

「よし!行こうぜ!」

 さあ、お待ちかねの漕艇部の時間だ!


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