第一話!
「次は何だっけ加納。昼飯まだ?」
教室で簡単なHRをしている時、後ろから話しかけられた。
「え〜っと、クラブ説明会じゃなかったっけ?視聴覚室だろ。昼飯はそのあとだな。」
俺は加納 春希。入学式を終えたばかりの高校一年生だ。短く切った髪は染めたことはない。とくに必要性を感じなかったからだが、今どきかなり珍しいらしい。身長はやや低く160cmちょっと。コンプレックスを軽く感じてしまう。
「もうおなかペッコリンだよ〜。加納は部活決めてたっけ?」
机に突っ伏して唸っているのは、黒木 昌吾。少々軽い性格だが、これぐらいが気楽でいい。クラスメイト30人のほとんどは、入学式というのと一年生ということで髪を黒く染め直してきた者が多いのだが、黒木の短髪は明るめの茶髪だった。単に染めたばかりで、黒くするのがもったいないからだそうだ。身長は俺より高く165cm以上あるようだ。体格は細いと言っていい。人懐っこい笑顔が特徴的で、誰とでも仲良くなるのが得意そうだ。
「俺は漕艇部だって言ったろ。黒木はどうすんだ?」
俺達の入学した海青院高等学校は、船員を育成するための専門学科がある特殊な高校なので、遠方の県外からの入学希望者も多い。そういった生徒のために校舎から少し離れた、練習船桟橋のすぐ近くに寮を備えている。俺も黒木も他県からの入学なので、寮に入っている。入学式の二日前から準備で寮に入っていたし、黒木とは同じ二人部屋なのでいろいろと話をしていたのだ。
「どうしようかな〜。野球部もいいけどサッカーもいいしな。バスケも捨てがたいし。」
「全然決まってないんじゃん。じゃあ漕艇部にしようぜー。」
「ええー、何か全く想像できないし。それにマイナーだよ〜。モテないよ。」
「いやいや、この学校では結構有名らしいぞ。体育会系丸出しで、入部しても辞めていく奴が毎年半分くらいいるって。寮生会長も漕艇部だってさ。」
話に割り込んできたのは、黒木の隣の席の瀬戸 太一だ。こいつも寮生で部屋が俺達の向かいの一人部屋なのだ。身長は175cm以上ありかなり高い。短めサラサラヘアーを真ん中で分けている。若干細い目には黒縁眼鏡をかけているが、その整った顔立ちによく似合っている。背も高く控え目に見てもイケメンの部類に入る瀬戸は、すでにクラスの女子から注目を集めている。
「げっ。寮生会長って、入寮式の時に挨拶してた人だよね?半田さんだっけ?ニラミきかせてて、むっちゃ怖かったし。」
黒木が一昨日の入寮式で挨拶していた半田寮生会長を思い出して、いやな顔をする。顔が怖いうえに体格もいいので、黒木が嫌がるのも無理ないかもしれない。
「確かに厳つい人だったな。私語してた奴にいきなり怒鳴った時は、かなりビビった。」
「そうか?話してみると面白い人だぞ敦さんは。」
「敦さんて?」
「半田さんの名前だよ。」
「もう名前で呼んでんのかよ…。さすがだな…。」
俺は少し呆れた返事を返してしまった。こういう具合に瀬戸は先輩などに受けがいいようで、入寮してわずか二日の間に二年生はおろか、寮生会長とまで仲良くなってしまったようだ。だが、同級生にはそんな瀬戸が調子に乗っているように見えるらしく、疎んでいるものも少なくない。俺はそんなのは、個人の長所を活かした結果だと思っているので気にしない。まあ、瀬戸がどう思われているかも関係無いのだが。
「全員視聴覚室に行くように。そのあとは各自、食堂で昼食をとりなさい。以上、解散。」
どうやら、HRが終わったようだ。担任の声に促されて、ぞろぞろとクラスのみんなが移動を始めた。担任がこちらをちらっと気にしていたみたいだった。隠しもせずおしゃべりをしていたのだ、入学早々チェックされたかもしれないな。今度からは少し注意しよう。
「よし、早く行こうぜい。いい席なくなっちまうぞ。でもマジで腹減ったな〜。先に食堂行っちまおうか?」
黒木が冗談を言ってくる。
「あほか。とりあえずクラブ説明は見とかないと後で困るだろ。俺は漕艇部一本だけど。そういや瀬戸は決めたの?」
「いや、今のところはどこにも入る気ないかな。特にやりたいこともないからな。」
「そうか、まあ何か気に入るのがあればいいな。」
「期待はしてないけどな。」
などと話をしながら、俺達新入生があふれる視聴覚室に向かった。




