第十八話!
「あいよー、あい!あいよー、あい!」
艇指揮の声を聞きながら、隣の柳原に漕ぎを合わせる。だいぶ握力が無くなってきて呼吸も荒くなってきたが、ここで合わせられなかったら俺がここに、STにいる意味がない!
「加納ファイト!」
俺が気合を入れなおしたのとドンピシャのタイミングで、おもてから声を掛けられる。
「おっしゃー!」
気合一発返事をして、声を返そうと思って……。今の誰!?誰からの声掛け?名前で声掛けをされたら、名前で返す。ルールがある訳ではないがなんとなくそんな雰囲気になっている。だけど、必死に漕いでると誰か分からない時もあるって!
「お、おもてファイトー!」
そんな時の回避行動、怪しい場所にとりあえずファイト!ちょっと動揺したけど誤魔化せたか?
「おっしゃ!加納ファイトぉー!」
あれ?間髪入れずに返した声は山下さんか?て、ことはさっきのも?
「おっしゃっ!山下さんファイトー!」
「おらきたぁ!このやろー!」
BWの2番山下さん、すこしおどけた言動でみんなを楽しませるムードメーカー。STとBWではカッターの端と端、声を張り上げなければ聞こえない。いやー、二回も頑張らせちゃったな。
BWは一番後ろから他のポジションを見渡すことができる。辛そうにしてる奴を見つけたら率先して声を出すことになっている。俺辛そうに見えた?
「左舷、回頭用意!」
『おっしゃ!』
気合入れる左舷の面々。回頭とはレースで750mの地点で折り返す時に行うUターンのことだ。ポールが立っているのでそれを左回りにUターンしなくてはならない。
「左舷当てんなよ!」
右舷から檄が飛ぶ!レースで相手より早く回頭をクリアするために、艇長はなるべく小回りをするように舵をとる。その時に左舷側のオールがポールに当たってしまうと、即座に失格になってしまう。左舷の緊張する場面なのだ。
しかし、カッターの船体ぎりぎりでポールをかわそうと艇をコントロールする艇長。そのまま漕ぎ続けると確実にオールが当たってしまう。
「左舷、櫂立て!」
山下さんが力いっぱい叫ぶ!その掛け声で左舷のクルーは、漕いでいるオールのグリップを投げるように船底に叩きつける!グリップの反対側のブレードが、シーソーのように跳ね上がる。勢いのついたオールは支点が固定されてないので、ローロックから飛び出してしまうが、うまく受け止めればグリップを船底についた状態でオールが立つ。櫂立ての完成だ!
左舷のオールが船体の内側に収納される。艇長の操るカッターはポールをぎりぎりでかわすことに成功する。左舷はポールが横を通り過ぎて当たる心配がなくなった者から、各自立てているオールを元に戻し、いつでも漕ぐことができるように用意の構えをとる。
回頭中は左舷がオールを立てたりと技術的な作業を行っている間、右舷は艇を回すためにひたすら漕ぎ続けている。
「左舷用意!」
『おらきた!』
準備万端!今回はうまくいった。回頭を終え、艇がゴールに向くかどうかというタイミングで。
「まえっ!」
艇長の掛け声。左舷は再び右舷と共に漕ぎだす。回頭後の一枚目は、まだ回りきれてないからとにかく重い!気合入れてキャッチを取る―――っ!
ゴン!―――っしまった!キャッチをミスった!オールがローロックから外れてしまう。
「おら!加納!早う直せ!」
荒井さんが俺の後ろから怒鳴ってくる。俺は慌てて直す。幸い完全に飛んでしまう前に力を緩めたので外れただけで済んだ。もう荒井さんの股の間はこりごりだ!
すぐさま漕ぎ始める。
「加納!こういう時こそしっかり合わせろ!」
「おっしゃ!」
艇長――半田さんから檄が飛ぶ。確かに柳原を意識できていなかった。あと半分も残っていないんだ、絶対にずらさない!
「Bクルーファイトぉぉ!」
自分に気合を入れるために力いっぱい叫ぶ。
『おっしゃぁぁぁ!』
初めてBクルーはレース形式の1500mのコース、一本を漕いだ。一年生はもとより、二年生も肩で息をしていてかなりきつそうだった。ゴール前ではバテバテで漕ぎはバラバラ。俺は最後まで合わせ続けることができなかった……。




