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第十六話!

 ロング100枚を()ぎ終えたBクルーの面々は、まだまだ余裕の表情だ。…二年生に限定されるけど。

 (かい)栄戦(えいせん)まで二週間と迫って、100枚漕ぐのはなんとか形になってきていた。昨日はロング200枚を漕いだのだが、一年生はバテバテ。俺も最後はST(ストローク)として重要な合わせることができなくて、漕ぐのが遅れたところを10番、つまりは俺の後ろで漕いでいる(ふと)っちょの荒井(あらい)さんに思いっきり返しで背中を、ど()かれた…。半田さんには合わせろって怒鳴(どな)られるし、けっこうへこんだ…。

 対して(となり)ST(ストローク)11番の柳原(やなぎはら)は余裕は無さそうだが、二年生になんとかついていくことができているようだった。差がついてるのが分かると悔しいな。

「100ならいけとると思うねんけど。加納、俺ら()うとるかな?」

「はぁ…、俺は合わせてるつもりなんだけど。ダメだったら半田さんが言うだろ?」

 バテてしまう前は、だいぶ合ってきたのか注意される回数は格段に減った。そのかわり、オールを水につける瞬間にキャッチをしっかり取れとかの追加注文がどんどん来る。

「一年注目〜!」

 8番の鬼頭さんと話をしていた半田さんが一年を呼ぶ。どうやら追加注文っぽいな。鬼頭さんをお手本に説明するのはお決まりのパターンだ。

「だいぶ漕ぎにも慣れたところで、これだけはやってほしいことを教えるぞ。」

 半田さんがそう言って、鬼頭さんが軽く漕ぐ。

「見てほしいのは返しな、返し。返しを完璧にできれば、試合中に流すってことはまずないはずだから。流したらまず試合じゃ勝てないからな。」

 俺も何回か流したことがあるけど、一回オールが水に取られて流れだしてしまうと、艇が止まるまでオールを水から出すことができなくなる。宮下(みやした)さんが流した時に、オールをローロック(カッターのオールをはめている(みぞ)の部分)から無理やり(はず)して体勢を立て直すなんて力技は俺には無理だ。

「返しの時にブレードを(しり)()がりにして返してくれ。引き切った後、手首を使って奥側(おくがわ)に回しこむ感じで。左舷(さげん)は右手、右舷(うげん)は左手でオールをコントロールすることを意識してくれ。尻上がりにしてれば、水切りの要領で海面を叩くだけで絶対に流さないから。」

 半田さんがそう説明すると、鬼頭さんがわざと海面に当たるように返しをしている。なるほど、たしかにブレードの後ろ側が上がっていると水の上をパシャっと叩くだけだ。

「逆にブレードの尻が下がっていると確実に流すから、どんなにバテてもこれだけは死守してほしい。」

 そして鬼頭さんが尻下がりの状態で海面に当てると、ジャブっと音を立てて何の抵抗もなくオールが水に浸かってしまう。このままオールが端まで流されると抜けなくなって艇を止めなくてはならなくなる。鬼頭さんはオールが流されてしまう前に水から上げたが、本気で漕いでいたらまず無理だろう。

「んで、返しを尻上がりにできれば、海面ギリギリに返しても大丈夫ってわけだ。なるべく低く返した方がキャッチ入れやすいから良いこと尽くめだ。これからは一枚一枚意識して漕ぐこと。すこし自主練でもしててくれ。」

 

 え〜っと、返しを尻上がりにして、なるべく低く返す。そして、一気にキャッチを入れる!

「うわ!」

 ビタッ!っという情けない音がしたと思ったら、俺はキャッチを入れるための勢いで後ろに飛んでしまった。

 ゴン!オールがローロックから外れ、俺は荒井さんの足の間に(はさ)まるような形で尻もちをついている。一瞬の出来事でどうなったのかよくわからない。オールだけは握って海に落とすのは回避できた。

「大丈夫か?」

「ちょっと痛いけど大丈夫です。荒井さんのおかげで助かりました。」

 荒井さんに足の間から返事をする。荒井さんがいなかったら後頭部を強打していたかもしれない。しかし、ハーフパンツなのでダイレクトに荒井さんのすね毛が頬に!

「オール離さんかったのはナイス!てか、そろそろのけって。」

 俺だって早く抜け出したかったが時間がかかってしまった。頬の感触を頭の隅にやりつつ、なんとか体勢を整える。

「何で俺、飛んだんですかね?」

「そりゃお前、キャッチ入れるときの角度がいけんわ。水平じゃ絶対入らん。尻上がりで返してもキャッチの角度はいつものようにせんと。」

 荒井さんが海面にブレードを水平にして叩きつける。

 ビタッ!っと音とともにゴン!っとオールがローロックから外れる。荒井さんは身体を使わず、腕だけでやって見せたので飛んではいない。

「水平に叩いたら簡単に外れるけぇ。ブレードは垂直に近いところまで戻してキャッチ!」

 ガボッ!っと音を立てて、ブレードが水の中に入る。

「こんな感じゃけぇ。お前は左舷じゃけぇ、右手はキャッチを取れるところで握ったら動かさん。手首を回してコントロールっちゅうのはそういうことじゃけぇ。返しに合わせて握ったらまた飛ぶで。」

「なるほど、そういうことだったんですね。」

 俺のしょぼいキャッチを入れられる角度で握る。うを!ここから返しを尻上がりにしようと思うと、思いっきり手首を回さないと尻上がりにならん。

 ジャバ!荒井さんのキャッチには程遠(ほどとお)いが、今度は飛ぶことはなかった。とりあえずはこんな感じで練習あるのみかな。柳原に合わせて、返しを尻上がりにして、キャッチを力強く取る。なんか忙しいなー。バテたらそれどころじゃないもんな。キャッチもしょぼいし。あと二週間しかないのに本当に大丈夫なんだろうか?ただでさえ同じ一年の柳原に差をつけられてるっていうのに。

「よーし!自主練はこのくらいにして、ロング50枚で今のをしっかり確認な。50枚くらいは完璧にできるようにしろよ。試合は200枚は超えると思わなきゃ駄目なんだからな。」

 200枚は今の俺じゃ無理だな。漕ぐだけでも厳しいかも。でもまあ、やるしかないもんな。

「ロング50枚!用意!」

『おらきた!』

 いつもの半田さんの号令に全員が答える。俺以外の一年も気合十分だ。俺はSTとして柳原に合わせる。返しを尻上がりにする。キャッチはまだ満足にとることはできないけど、せめて最初の二つは試合までにできるようにするぞ!力が弱くてもできることはあるはずだ。


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