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第九話!

 一通りの説明の後、俺達一年がカッターを漕がせてもらい、その日の体験入部は終了となった。

「それじゃ、一年はここまでな。実はもう体験入部は予定してないから、今日が最後になったわけだけど…。どうしても見たいって奴がいたら教えてくれ。部員が増える可能性があるならとことんやりたいけど、三年も帰ってくるから俺達も集中して練習しておきたいから。」

 鬼頭(きとう)さんが苦笑(にがわら)いを浮かべながら話している。三年生が艇長(ていちょう)の半田さんと(てい)指揮(しき)の高瀬さんしかいなかったのは、普通科がその二人だけで後の三年生は全員航海科で、入学式のころから練習船での実習の準備に追われ、今は四泊五日の実習の()只中(ただなか)らしい。しかも、実習に行っている三年生は十人いて、Aクルーとして練習できないので、Aクルーで漕いでいる二年生の(うえ)()さんと(みつ)(はら)さんは体験入部には出ないで自主練をしているらしい。そうでないとついていけないほどAクルーの練習は凄いと、寮で上野さんと光原さんに聞いた。しかし、Bクルーの、いわゆる二軍の二年生は体験入部を手伝わない二人に不満そうだった。

「それじゃ、(しゅう)()けに会えるのを楽しみにいてるからな。あー、それと一応言っておくけど今日までのは接待みたいなもんだから、入部したら容赦(ようしゃ)しないからそのつもりでいろよ。休みがあるなんて思うなよ!」

 鬼頭さんが最後に軽く(おど)しを入れてくる。いや、脅しじゃないのかも。瀬戸の話だと練習がきつくて毎年かなり一年生がやめるって言ってたし…。俺は何としてでもやって見せるけどな!そのためにこの高校に来たんだ。

「ロング30枚!用意!」

『おらきた!』

「まえっ!」

 ドン!と音を立ててカッターが再び沖の方へ向かっていく。六人しかいなくてもそんなのお構いなしにカッターはぐんぐん進んでいく。きれいに揃ったオールが綺麗だ。俺も早くあんな風に漕ぎたい!

「これからどうする?帰ると?」

 カッターに見とれていると佐藤(さとう)が俺に話しかけてきた。

「そうだな、やることないし帰るかな。でも(りょう)(めし)まで時間があるなー。」

 寮の食堂は夕方の六時から食べることができる。今は五時を少し回ったところなのでまだ食べることはできない。少しくらいなら早く開けてもらえることもあるらしいが。

「あ、それじゃちょっと話していかねえ?寮生以外とあまりゆっくり話する時ないしさ。もちろん(ひま)だったらでいいけど。」

 俺は、後ろにいた柳原(やなぎはら)(ふか)(がわ)、それと後から来ていた大場(おおば)と真辺に聞いてみた。

「ええよ、俺も入部する気やし。」

「ぼ、僕もいいよ。」

「…俺も大丈夫。」

「もちろん俺も加わるっち。」

 柳原、大場、真辺、佐藤は二つ返事で賛成した。あとは深川だが、そういえば着替えてきてしばらくは鬼頭さんにまとわりつくようにしていたが、カッターに乗ってからは、かなり静かだった気がする。そんなに半田さんが怖かったのか?

「深川さんはどうする?男ばっかりやけど。」

 柳原が聞いてみる。

「え、それは気にしてないけど。…私は帰るわ。」

「…大丈夫?具合悪いの?船酔いとか?」

 乗る前の飛ばし具合から考えるとかなり低いテンションに心配したのか、真辺が心配そうにしている。

「ううん、大丈夫だから。それじゃ。」

 そう言って深川は桟橋(さんばし)を出て行った。本当にどうしたんだろうな?

「まあいっか。じゃあ、まずズバリ聞くけど入部する気な奴は?」

 俺の質問にその場にいた全員が軽く手を挙げる。

「おお!満場一致(まんじょういっち)!じゃあその動機を真辺からどうぞ。」

 隣に座っていた真辺にまず話を振る。

「…俺は親父が漁師やってるから、…少しでも海に慣れようと思って。」

「ふむふむ。大場は?」

「か、身体を鍛えようと思って。そ、それと、スタートがみんな一緒って所に。」

「あ、それは俺も思うたい。見ての通り中学の時に部活はしてなかったと。高校からは続けてやってる方が有利っち。」

 大場の意見に、太っちょの佐藤が一緒に乗っかる。

「あとは、こんな高校に来たから、それっぽいこともありと思うたい。」

「それはまさに俺の理由やな。前は卓球部(たっきゅうぶ)やったけど、漕艇部はここでしかできひんしな。」

「柳原は卓球部だったのか。妙に体が()()まって、体も焼けて黒かったから野球とかサッカーかと思った。」

「ははっ!よく言われる。ただ()(ぐろ)なだけやて。で、加納(かのう)は?」

「う〜ん。一目(ひとめ)()れかな。」

 みんなが首をかしげている。

「去年の夏休みにカッターの練習してるの見てさ、これだ!って思ったわけ。それでこの高校に入ったんだし。」

「まじっすか!そりゃすごかねー!」

「高校まで決めるなんてやりすぎやないか?」

 佐藤と柳原は驚いて声を上げる。大場と真辺も驚いているのが見て取れる。

「その時まで進路とか決めてなかったし、ちょうどいいきっかけになったと思ったよ。それから猛勉強(もうべんきょう)したよ。ここって定員が少ないし。」

 そんな動機の話をした後は、他愛のない話をしているとだいぶ時間が立ってしまったようで、とっくに寮食が開いてる時間になっていた。

「あれー!?加納達まだいたんだ?もう飯食った?」

「おう!まだ!黒木は?」

 桟橋の入り口で話していた俺達に声を掛けてきた黒木は、寮の近くのスーパーに行って来た帰りのようだ。自転車のかごに買い物袋が入っている。

「まだだよ。じゃあ、みんなで行こうぜー。」

「だな、ここにいる奴は全員が漕艇部に決めたんだけど、黒木は決めたか?体験入部はもうしないってさ。」

「俺も漕艇部に入るよ。」

 さも当たり前のように肯定する黒木。

「そうなん?けっこう他の部活見てなかったか?」

「漕艇部が一番わくわくしたんだよ!やっぱりやったことないことってなんだか()かれる!」

 黒木はとてもシンプルな考え方だ。

「だよな!わくわくするよな!よし、じゃあみんなで頑張ろうぜ!」

 これで六人。瀬戸もたぶん入部するだろうから七人か。寮生じゃない真辺と柳原と別れて寮食に行く。次にカッターに乗る時は俺も漕艇部だ!


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