始まり
初めまして。
初投稿となります。
まだまだ使い勝手がよくわからないままですが
ゆっくり投稿して行きたいと思います。
よろしければ気長にお付き合い下さいませ。
身体中が痛い。
痺れるような、殴られたような…
鈍痛に近いその痛みは止まることがなく
吐き気のする鉄が錆びたような
匂いと味が口のなかに拡がっている。
痛いと口から言葉を洩らそうにも、出てくる
言葉はなく口からは止めどなくあふれでるソレが
自身の状態を物語る。
それは鉄の錆びた味がするはずだ。
口から洩れるのは自身の血ーー。
一体、どうなったのか。
考えようとしても、痛みが頭を支配していて
身をよじろうとも、身体が動いているか
どうかすら分からない。
痛みに抗っている滲んだ視界には
世界を隔てたかのような喧騒が聞こえる。
それは遠いようで近いようで……。
傍に誰かがいて声をかけているような気が
するのに、ほんとは誰も声をかけていないような…
生きているのか、死んでいるのか。
夢なのか、現実なのか。
ただ、焦げ付いた匂いと、ガソリンのような匂いと
口のなかに拡がっている血の味だけは確かなようで。
痛みのなかで、浮かんだそれはあまりにも自然で
目頭が熱くなったーー。
死ぬんだ。自分はーー
【生きたいか?】
はっきり聞こえたそれは、願望か幻聴かーー。
目から流れ落ちるモノは血か涙かー。
一心不乱に痛みに抗っている頭と泣きたい感情の最中で
聞こえた声はあまりにも胸の辺りを締め付ける。
【もう一度問おう。生きたいか?】
生きたいのかなんて分からない。
ただただこの痛みから解放されるなら…
それが死でも生でもいいから…助けてほしい。
問われたところで声なんて出ない。
喉は穴でも開いているのか声は空気を通したような
音しか発せれない。
【生きたければ、示せ、示せば生かそう】
痛い、痛い、痛い、痛いーー。
何も示せない。
痛いんだよ、気づけよ、何も動かない
視界にすら何も映らない。
自分すら分からない。
痛みに犯された思考回路は焼けついたかのように
頭を巡り、怒りだけが募る。
【では、この手を掴め、貴様の腕は今、我が触れた部分だ】
冷たい感触が感じられた、自身の腕がそれと分かれば
体は不思議と反応した。
掴めば…掴めば…この痛みは消えるのかーー。
もう、痛くないならなんでもいいからーー。
どうか…どうか、この痛みをーー。
微かに力を込めた指先は確かに冷たい感触に触れた。
全ての思いを込めて動かせば受け取ったと言わんばかりに
冷たい感触が握り返してきた。
【しかと、示した。貴様を生かそう、望みを叶えよう】
その言葉が響けば痛みはなくなり、まるで泡沫にいる
ような、夢心地のまどろみが襲ってきて気が遠のく。
【望みは叶えた。次は貴様が尽くす番になる…契約だ】
最後に響いた言葉が何を言っていたのか理解する前に
意識は暗闇に呑まれ暗転に包まれた。
痛みは…なにもなかった。
よかった、これで、もう、痛くないならーー。
水の中にいるような浮遊感が続いている。
もう何も痛くない。
穏やかに耳に入ってくる音は水の中の泡が生まれ
昇っていき消えていく音のみ。
コポコポと聞こえる音は自身の身体に染み渡り
ずっとこのままでいいと思えるほどに気持ちよかった。
そこに、声が響いた。
独特の口調だ。
自分に語りかけているのかはわからない。
ただ、耳に入ってくる言葉を反芻する。
「んん、おかしいなぁ…そろそろ性別が確定しても
えぇ頃合いなんやがなぁ…なんか失敗してもうたか?」
「ったく、ワイは武器はいけるがこういう人体復元は
専門外やっちゅうのに…あー、えーと、こういう場合は…」
性別…人体復元?
なんの話だろうか…もっと、話を…。
聞こうと意識が浮上して、目を開けた。
拡がる世界は水の中。
視界は黄緑色に染まっている。
理解が追い付かず身体を動かそうと息を吐けば
酸素マスクをしているのだろうか、視界に泡が一面に拡がり
白い世界が写し出される。
「お、待て、待て、もう目ぇ覚めたんかい
今、水抜いてやるから大人しいするんや」
声と同時に大きな振動が響き、水は足元の小さな穴から
抜けていく。
水で歪んでいた世界はやがてガラス越しで曲折して
見えるものの薄暗くて機械だらけの、工場のような
風景になる。斜め下では見たこともないような
キーボードを弄る男性。そいつは頭を掻きながら
此方へ視線を向ける。
酸素マスクだけではない、自分の腕や脚が視界に映れば
たくさんの針で刺された管が繋がっている。
それと同時に自分の姿が裸であることに気付き慌てて
局部を隠そうと試みるも、胸と局部を触っても、胸も
なければ局部すらない。
「まぁ、隠すもんは何もついてへんで、安心せぃ
性別どっちか、覚えてるか?」
何が安心なのだろうか。
見られる心配は確かにないが、この身体は今、どうなって
いるのだろうか。
「もう、酸素マスクも取ってええで喋れるやろ?
喉はちゃんと復元したはずやからな」
どう行動すればいいのかわからない。
自分の身がどのような立場でどのような理由でここに
いるのだろうか。
先程までの記憶を辿って見ようにも、痛みがないことに
安堵していた記憶以外、はっきりいって何も思い出せそう
にない。
だが今、自分が確証を持って答えれることは
確かにある。透明の柔らかいマスクを耳から外して
空気を吸い込めば、ヒュッと鳴った喉は確かに声を紡いだ。
「私は女性です」
「え、嘘やろ、気は確かか、お前、男やで?」
「え?」
確証を持って答えた台詞に、斜め下から見上げる男性は
呆れたように返答を返す。
確かに確証を持って答えたと言うのにのっけから否定
されてはどうにも言葉を返せない。
だが、自分が女性なのは間違いない筈なのだ。
痛みがないと安堵していた記憶以外ないのだから
性別が違うと言われても否定する要素はない。
ないのだが、確かに自分が女性なのは間違いない。
「いや、女性です」
「あー…と、つまりはアレか。心は乙女とかそういう…」
「いや、オカマじゃない!女性です!」
何を気遣ったか、戸惑いがちに告げられた言葉を遮る。
その返答をどうとったのだろうか、男性はため息を一つ
漏らして近くの机からバインダーを持ち上げてペンを
走らせる。
「っかしいなぁ…ワイは男や、聞いてたんやが
まぁ、お前、グチャグチャのバラバラやったからな」
どっかで間違えたんやろ、と呟きを残すと、真下の赤い
ボタンをポチっと押す。
すると、ガラスに包まれていた世界が一転する。
ガラスは下へと収納され、閉じ込められていた空気が
解き放たれ、薬品の噎せ返るような匂いが鼻をつく。
「んじゃ、ま、その栄養補給器外させて貰うで」
そういうと男性はバインダーを持ったまま、こちらへと
手を伸ばしてくる。
よく見れば男性は研究者か何かなのだろうか。
衣服は黒色だが白衣のような造りのもので、ポケットから
医療器具やら実験器具やら判別のつかないものが
覗いている。
思わず後ずさろうとすれば足場はなく、どうやら円形の
ガラス装置にどこかのSF映画さながらバイオ実験のように
閉じ込められていたらしかった。
「あぁ、ほら、動くなや、千切れてコード壊されたら
たまらんわ、大人しいするんや」
男性は距離をグッと詰めて円形の装置に足をかけてくる。
伸ばしてくる腕には、今まで見たこともないような、
強いて例えるならば武器だと思われる等身大のものが
嵌められている。男性はその腕のバンクルを外して
近くの棚に立て掛けると鉄の指サックらしきモノを
着けた手で管を手際よく私から抜いていく。
瞳は炎と同じように赤く、両耳にいくつもの
炎をあしらったような赤いピアスを引っ掻けている。
金髪と赤茶が入り交じったような髪の毛は
オールバックにされそこから更にワックスでボサボサに
跳ねさせたようなヘアスタイル。
口調の悪さもあいまって研究者と言うよりは
柄物のシャツさえ着させればただのチンピラと変わらない。
どちらにせよ、この男性がチンピラなのか研究者なのか
変質者なのか、理解が追い付かないところではあるが、
私は女性のはずなのだ。
まるで肌色に塗られたデッサン人形のような姿であれ
中身が女性と言い張るのだから躊躇いがちに服をかけると
言う動作があってもおかしくないと思うのだが、男性は
気にも止めずに身体の管を抜き終えるとバインダーに
ペンを走らせる。
「さて、と、これで動けるやろ。どや?
身体動かして見ぃ、痛いとことか、反応せん部位はないか?」
まるで実験生物かロボットを見るような視線に思わず
自分が何者なのか、分からなくなる。
とりあえず言われた通りに手を開けて握り直したり足を
上げ下げしたり首を回すも違和感はどこにもない。
「ん、大丈夫そうか、身体の大半は元通り復元してる
ようやし、一回死んでる組織の再生に関しては
問題なさそうやな。」
死んでる?先程からポロポロと零れ出てくる言葉に反応
すれば、男性は赤い瞳をこちらに向ける。
「なんや、自分がどんな立場か分かってないんか?
記憶辿って見ぃ」
そう言った男性になんと答えればいいか分からず首を横に
振れば男性はしばらく視線をさ迷わせて答える。
「あー、まぁ、反応見てわかったわ、自分、記憶がないんやな
通りで反応が悪い思たわ…しゃあないな、じゃあ、まぁ、
説明したるさかいこの用意した服着ながら聞いてくれや」
近くの棚に畳まれた白い服の中から手頃なサイズの服を
手に取った男性は、そのまま投げ捨てるように渡してくる。
慌てて慣れない手つきで服をキャッチして広げてみれば
それはよく柔道やもしくは剣道で使うような袴だった。
これを着るのかと戸惑いがちに男性を伺えば、男性は理解
出来なさそうな瞳でこちらを見つめ返してくる。
「なんや、言いたいことあんのやったら言葉にせい」
「あ、いや、これ、袴と胴着ですよね、これを?」
「文句あるんやったらそのまま居れや、ここにはこの服
しか置いてないんやからな」
男性はさも不機嫌に言い捨てると、先程外していた武器の
付いたバンクルを再び腕につけ始める。
武器と言っても自分が知っているような剣や銃の類いでは
ないのは確かなようで、例えるならば大砲と槍と斧が融合
したとしか表せないような武器である。
重たそうな鉛色の武器はどう使うのかすら理解が出来ない。
「さて、んじゃ、まぁ、ワイの自己紹介からってのが
礼儀やろ。ワイは怪人A.Kダークネス」
「どう呼べば……」
「ダークネスでええで」
呼びにくいことこの上ない。「かいじん」と言う言葉すら
正直、理解に苦しむ。記憶なんてほぼないのだから
違和感と言っていいのかわからないが、その名前が
常識的に当てはまっていないような気がする。
勿論、記憶がないのだからコレも気のせいかも知れない。
記憶がないなら見ている全てが非常識に感じるのは
当たり前ではないだろうか。
考えてみても堂々巡りだ。
とりあえず、記憶が曖昧でもこうして考えられるのだ。
どちらかと言えば、自分がどうやってこうなったのか
経緯や過ごした時間が、抜け落ちているだけのような
感覚がする。
だから、彼、ダークネスの自己紹介に
答えるべき名前すら思い付かない。
「あぁ、いい、気にすんなや。ワレが名前言われへん
のは分かっとる。どちらにせよ、ワレが名前覚えてた
としてもココではその名前は使われへんからの。
ダウス様に新しい名前貰うんやからそれまでワレの
自己紹介はいらんで」
「ダウス…様?」
「ワレも一度会っとるやろ、あぁ、思い出せんのか。
ワレはこれからダウス様に仕えることなるんや。
ワレは、そういう契約をダウス様としとる。
で、今からワイと一緒にダウス様に謁見する
ことになっとる。っても、まだ目覚める時間やない
思たから謁見時間はまだやけどな」
ダークネスはそこで一旦区切ると、
苦笑して肩をすくめる。
「まぁ、その顔は理解が追い付いてない顔やな
記憶がないんやから当たり前か、待っとけ
今、一息つけるよう一杯用意したるさかい」
ダークネスはそう言うと近くの棚を開けて紅茶の缶を
見せびらかして赤い瞳を人懐っこそうに細めたの
だった。
如何でしたでしょうか。
ここまで読んでくださり誠にありがとう御座います。
背景描写やセリフなど拙い部分もあるかと思います。
感想やご意見、また改行が見にくいなど御座いましたら是非お伝え下さいませ。
全て、次回投稿の参考にさせていただきます。
本当にご覧いただきありがとうございます。
よろしければ、また次回もご覧くださいませ。