一番隊副団長エリック
頭痛。
練習場に足を踏み入れると、二番隊の団員達が一斉に私を見た。
「ヒナ様どうしたの~‼」
何故か初日に締め上げたナラハに"ヒナ様"と呼ばれている。
「ちょっとね!野暮用。」
「それ終わったらメシ食いに行こ~‼」
「嫌よ!」
「奢るよ‼」
「い~や!」
「奢らせて下さい!」
私はクスクス笑って手を振って誤魔化した。
気を取り直して、練習場の中心に目を向けると団長達が固まって話をしているのが見えた。
「お待たせしました!」
「おそいぞ!」
「こんな短時間も待てないの?ちっちゃ‼器ちっちゃ‼大事な事だから何回も言ってあげるわ‼ちっちゃ‼」
「煩い黙れ!」
エリックは眉間にシワを寄せて叫んでいた。
こんな性格には見えなかったんだけどな?
見た感じでエリックは女の私を見下している。
仕方ないと思う。
私が顔だけで採用されていると思い込んでいるんだから。
私は余裕そうな笑顔を向けた。
「じゃあ、やろ!」
「………謝るならいまだぞ!」
「悪いと思ってないのに謝れるほど私、安い女じゃないの!鼻血ふいても謝らないから本気でやってね‼まあ、鼻血出すのは貴方の方だけど!」
「泣かしてやる‼」
顔をひきつらせる団長と呆れ顔の副団長、オロオロするロンシャス団長をしり目に私はエリックから距離をとって言った。
「誰がゴングかけてくれるの?」
「俺がやる。」
副団長が私とエリックの間に立った。
「ウルガルド!お前の女だからといってぬるい判定をしたら解っているな‼」
「いや、俺の女じゃないし俺がぬるい判定をしたらコイツがキレるからな。好きにやれ!」
副団長!男前‼
本気でぶっ倒す‼
私はエリックに向かって言った。
「じゃあ、やろ!」
「かかってこい‼」
エリックがニヤリとして構えると副団長が左手を高々と上げ、一気に降り下ろした。
私はそれを合図にゆっくり踏み出し、一気に走りだした。
エリックは私が一撃食らわして来るのを待って居るように腕を胸の前でクロスさせて防御の姿勢だ。
私はエリックの脇を足だけで少しスライディングして一気に後ろに回り込むと膝裏を思いっきり蹴り、体制を崩したエリックの襟首を付かんで後ろに引っ張り仰向けに倒した。
そしてそのまま、エリックのお腹の上にまたがって座り言った。
「女に見下ろされるのも良いもんでしょ?」
「なっ!」
一気に真っ赤になるエリックの顔面にグーを降り下ろそうとした所で後ろから脇に手を入れられ子供のように抱え上げられた。
「勝負あり。」
「え~一発殴りたかった‼」
「狂暴すぎだ。ストラにばらすぞ‼」
「おとなしくするので、それだけは勘弁して下さい。」
「よかろう。」
私を抱え上げていた副団長がゆっくりと私を下ろしてくれた。
「おヒナ~お前凄すぎ!何でも出来すぎて惚れ直した!結婚しよう‼」
「ヒナ、団長の鼻の骨折って良いぞ。」
「了解です‼」
「ご、ごめん!冗談です‼」
私達のやり取りに苦々しげに起き上がったエリックを見て私は言った。
「エリック、あんたが負けたのは私を女だと思って見下してたからだよ!真面目に本気でやってたら私なんて軽く捻られるでしょ?手加減とかするから足元すくわれるんだよ!」
エリックは唇を噛んで黙ったままだ。
私はエリックの元に歩いていくと彼の頬を両手で挟んで変顔にさせた。
負けたからなのか抵抗はしない。
「私も悪かった。ごめんね。」
変顔させたままなのが謝ってると判断してもらえるか解らないけど、私は一応謝った。
ゆっくりと両手を外すとエリックは困ったような顔で言った。
「僕も悪かった。」
「仲直り!」
「好きだ‼付き合ってくれ‼」
私は一気にエリックから離れると言った。
「無理!」
「何で?僕のどこが悪い?」
う~わ面倒臭い‼
「ウルガルドがそんなに良いのか?」
「いや、副団長と付き合ってないし!」
「なら、何故!」
「う~ん………何故って言われると~………」
私が返事に困っているとナラハ達、二番隊員の皆が私とエリックの間に立ちはだかった。
「こーら一番隊!うちのヒナ様に手を出そうなんざ俺らが黙ってねえからな‼」
「そうだそうだ!ヒナ姐さんとメシ食いに行くだけでも争奪戦なんだそ‼順番でいったら3ヶ月待ちだボケ!順番待ちなめんな‼」
じ、順番待ち?
「私聞いてないけど?」
「ああ、あいつらが勝手にやってることだ気にするな。」
副団長の呆れた声が冷たい。
「君が好きなんだ‼」
まだ言っているエリックに私は苦笑いを浮かべて言った。
「ごめんね!私、エリックを恋愛対象に見たことないから!友達じゃ駄目?」
「………」
「だって、私エリックの事何にも知らないし!だから友達から。」
「友達なら食事に誘っても良い?」
「あっ………三ヶ月後で良い?」
エリックはそのまま項垂れてしまった。
私にはどうすることもできなくて苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。
結構簡単な戦闘シーンになってしまった。