バイト始めます
いや、おかしいだろ?
何故か施設の近くにある高校の体育倉庫に連れていかれ、私は滅茶苦茶焦った。
何コイツ!
私をこんな所に連れてくるなんて変態か?
すると、緑川は体育倉庫の中に向かって言った。
「道君。」
こんな中にミッちゃんが居るって言うの?
助けないと、コイツ変態だ!
私は急いで体育倉庫に向かった。
いや、体育倉庫だったよね?
体育倉庫の中は空中?
スカイダイビングする前の飛行機の外の風景に似ている。
おかしい。
そう思った次の瞬間、私は緑川に蹴りをいれられスカイダイビング開始。
いや、パラシュート無しでスカイダイビングあり得ない。
悲鳴をあげたい気持ちとは裏腹に冷静になってしまっていく頭が怨めしい。
「雛ちゃん、乗ってく?」
見れば私の落ちている横を真っ赤なドラゴンが緑川を乗せて飛んでいた。
「早く乗せなさいよ‼」
緑川はニヤッと笑って私の腕を掴み引き寄せてドラゴンに乗せた。
「道君は大絶叫だったのに雛ちゃんは大丈夫そうだったね?」
「叫びたい気持ちはあったわよ………って言うかミッちゃんにまでこんなことするなんて………」
「道君は今あそこに居るよ。」
緑川が指差す方を見るとD…ランドのCD…城みたいなお城がそびえ立っているのが見えた。
「城?」
「そう、魔導神の弟子で婚約者って地位に居るのが道君だ。」
「まどうしん?」
「魔法が神レベルで使える者!カッコ俺!カッコ閉じ。」
目眩がした。
だがドラゴンは容赦なく城に向かって下りていく。
私は考えるのを止めた。
「ドラゴンさん、なんか、乗せてもらってありがとうございます。」
現実逃避にドラゴンに話しかけてみた。
ドラゴンは私の言葉に反応したように高らかに鳴いた。
「雛ちゃんもコイツに気に入られたみたいだね。」
「そ、そうなの?あ、宜しくね。」
ドラゴンはゆっくりと城の回りを旋回すると中庭みたいな所に降り立った。
私を軽く姫ダッコしてドラゴンから下ろすと緑川は言った。
「道君はここではストラーダって呼ばれてるからそのつもりで。」
「あんたは?」
「俺は魔導神か、ライガイヤ。」
「ライガイヤ、覚えた。ミッちゃんの所に早く連れてって。」
「了解。」
ライガイヤについて行くと、そこは闘技場のような場所で難いの良い男達が剣をふるったり体術の訓練をしていた。
「ここは騎士団の訓練場だよ。道君は多分副団長のウルガルドの所だ。」
ライガイヤは訓練場を素通りして訓練場の脇にある小さな部屋のドアを叩いた。
「はーい!あれ?先生帰ってくんの早かったね!」
「道君と離れたくなくて。」
「ウザ!」
「泣いても良いかな?」
懐かしいミッちゃんの声に安心する。
「ミッちゃん‼」
「へ?え?ヒナちゃん?何で居るの~会いたかったよ~。」
ミッちゃんはライガイヤを押し退けて小走りで私に抱きついた。
「ミッちゃん‼妊婦なんでしょ?走るのも抱きつくのも駄目だよ‼」
「はぁ?私、妊娠してないよ?ってかまだ乙女だよ。」
ミッちゃんは呆れたようにライガイヤを見た。
「先生、変な嘘つくの止めて下さいよ。」
「暫く向こうに行かなくて良いように裏工作でしょ‼」
「もっとマシな嘘無かったんですか?」
「だって!婚約者は合ってるし、そのうち子供出来る予定だろ?」
「興奮して鼻血ふかなくなってから言ってくれます?」
「興奮しないなんて無理!道君が可愛過ぎるのが悪い。」
「あ~はいはい。」
ミッちゃんはライガイヤを軽くあしらって私に向き直った。
「ヒナちゃんはいつまでコッチに居られるの?」
「え?」
「え?仕事あるから何時までもこっちに居られないんだよね?」
私はついつい忘れてしまっていた失業を思い出して、ミッちゃんから視線を外した。
「ヒナちゃん?」
「あ、いや、その………クビに………」
「はぁ?」
「だって!あのチビデブうすらハゲが愛人になれとか言うから!………ムカついてお前のなけなしの髪の毛全部引きちぎるぞって言って辞めてきた。」
「ヒナちゃんらしいけど………」
私は苦笑いを浮かべて言った。
「気持ち切り替えたら、次探すから暫く此方に居られるよ。」
私の言葉にミッちゃんがハッとしたのと、ミッちゃんの後ろから人が現れたのは同時だった。
藍色の瞳に藍色の髪の毛の落ち着いた雰囲気のガッチリ系のイケメン。
「ヒナちゃん‼ここで働かない?前にヒナちゃんの話したら騎士団に欲しいって言われてたんだよ!ウルさん!うわ!突然背後に立たないで下さい。心臓止まるかと思っちゃいましたよ‼」
「すまん。………ここで、副団長をさせてもらっているウルガルドだ。」
「ヒナって言います。」
「噂はストラから聞いてる。うちで働いてくれないか?仕事内容は簡単な計算書類の処理だ。それさえしてくれれば給料は弾む。」
悪い話じゃ無さそうだが………
「1つ良いですか?」
「なんだ?」
「セクハラされたらグーで殴ったり思いっきり蹴ったりして良いですか?」
「勿論だ‼」
良いんだ‼
「ウルさん、ヒナちゃんはグーで殴ったり『鼻を折る勢いで!』思いっきり蹴ったり『男性の急所をねらって』って言ってますけど良いんですか?」
ミッちゃんの的確な指摘にハッとする。
「………それぐらい構わない。俺達は鍛えているし、セクハラするようなアホはフルボッコにて構わない。」
え、スッゴい良いじゃん‼
「あ、やります‼」
「じゃあ、早速頼む。」
副団長さんは私を部屋に招き入れた。
私が部屋に入るとライガイヤがミッちゃんを抱き締めて言った。
「騎士団所属って事は、部屋も用意してくれるよね?じゃあ、ヒナちゃんの事はウルガルドに任せたから‼」
「は?ちょっ!ライガイヤ殿?」
ライガイヤは一瞬にしてミッちゃんと一緒に姿を消した。
「やられた。あの人は本当にストラにしか興味が無くて困る。………君の部屋は直ぐに用意しよう。暫く俺の実家で預かっても良い。じいさんとオバサン二人しか居ないから安心だろう。」
この人はかなり面倒見が良い人だ。
「あの、ご迷惑をおかけします。」
「いや、君はもう俺らの仲間だからな。気にするな。」
私はとりあえず、旅行用鞄から電卓を出して言った。
「何を計算しましょう?」
計算………楽すぎて30分もかからなかった。
私は顔をひきつらせている副団長さんに向かっていった。
「これで終わりですか?」
「本当にストラより計算が早いんだな。」
「ミッちゃんも早いですよ‼」
副団長さんは腕を組んで少し考えると言った。
「………騎士団を案内しよう。後、騎士団員に必要な知識も話しておきたい。歩きながら少し話そう。」
「はい。」
副団長はドアを開けて、レディーファーストとばかりに部屋を出るように促した。
「まず、騎士団は二種類あって一番隊と二番隊だ。一番隊は貴族や有名商家の人間で出来ていて王族の警護が主に、二番隊はそれ以外の犯罪や魔物の討伐等を行う。一般庶民が多い実力主義の隊だ。ここは勿論二番隊だ。」
副団長さんはさっき素通りした訓練場の入口付近で足を止めた。
「副団長さん、じゃあ、一番隊はいけ好かないって覚えとけば良いですか?」
私の言葉に副団長さんはプッと吹き出して後ろを向いて肩をプルプルさせて笑いを堪えているようだった。
「そんな面白いこと言いました?」
「………す、すまない。ツボに入った。」
副団長さんは深呼吸してから気を取り直して訓練場の中に入っていった。
私はそれを追いかけた。
「隊長!」
「なんだ?ウルガ………誰だその神秘的な美人は?」
「ストラの姉のヒナです。書類整理のために雇いました。」
「ああ!こんな美人だったのか!お嬢さん、自分はこの隊の隊長をしているランドールと言います。恋人は居ますか?」
「ヒナ、殴って良いぞ。」
え?そんな簡単に殴って良いの?
私が戸惑っていると隊長さんが言った。
「可愛い‼俺と付き合おう。」
「殴って鼻折って良いぞ。」
私は何だか可笑しくなって笑ってしまったのだった。
道君と先生は相変わらずです。