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メイドさん、妄想しました。

仕事帰り、コンビニに立ち寄った。

なんか仕事で疲れたのか、からだが甘いものを求めていた気がして、ついつい街灯に集まる虫のごとくコンビニに寄ってしまい、気が付けばシュークリームが2つ入ったビニール袋を持っていた。

まぁ買ってしまったものは仕方ない。

ところで茜さんは甘いものとか食べるんだろうか?

初日のドジっぷりがまるで嘘のような2日目以降の働きっぷりを見ていると、なんでか初日のあれが嘘のような気がしていた。さすがメイドさん。

そんな茜さんが来てから4日目。

帰ったら茜さんお手製のオムライスが待っている。きっとケチャップでハートとか描いてあるんだろうなぁ。

それで


『恭介様、これが私の気持ちです』


なんてもじもじしながら言ってくれるんでしょ?

わかってるっての。

そんで、


『俺はこのオムライスを食べることができないよ』

『どうしてですか? 私のオムライスは食べられないということですか?』

『だってこれを食べてしまったらこのハートが壊れてしまうじゃないか。茜さんの心を壊すようなことはしたくないからね☆』

『恭介様っ!』


、ってなるんでしょ。

俺ってば天才ね。

いやいや。それよりもこのシュークリームどうするか。

いや、どうするかって食べるんだけどさ。

ハッ…食べる以外に使う…!?


『茜さん。シュークリームだよー。はい、あーん』

『そんな食べかけのシュークリームなんてこぼれちゃ…』

『あっ』

『ほらーこぼれちゃったじゃないですか。しかも上手いこと服の中に入ってきて…ひゃん、冷たい』

『シミになったら困るよ! 早く脱がないと!』

『えっ、恭介様?』

『風邪引いちゃうから温め合わないと!』

『恭介様…いやん』

『自主規制』


こんな使い方もあるな。

でも食べ物粗末にしたらダメだ。うん。俺がそのあとで美味しくいただくかもしれないけど、ダメだ。うん。ダメだ。

とにかく茜さんとの関係を半永久的に続けていきたいんだから、こんなやましいことを考えたらダメだ。

茜さんにシュークリームを1個あげよう。

無意識ながらも茜さんの分も買ってあげるとかかなりこの生活にも慣れてきた気がする。

昔から適応力が高いとか言われてたもんな。なんでも受け入れちゃうタイプだし。

きっと茜さんがいるこの生活もすんなりと受け入れちゃったんだろう。

とにもかくにも早く帰ろう。茜さんが心配しているかもしれないし。

…それはないか。


ともあれ我が家に到着。


「ただいまー」


玄関でそう言うと、靴を脱いでいる最中には茜さんが玄関へとやってくる。


「おかえりなさいませ。恭介様」

「うん、ただいま」

「お風呂を貯めてありますが、お食事とお風呂、どちらになさいますか?」


ここは『食事』と『風呂』と『あたし』という選択肢があってもいいと思った。

現実は甘くなかった。


「お腹減ったし、先にご飯にしようかな。食べてから入るわ」

「かしこまりました」


そう言って靴を脱ぎ終わった俺の後ろについてくる茜さん。

そしてネクタイを外し、スーツのジャケットを脱いで、食卓につこうとした。


「恭介様。手を洗っておりません。帰宅してからは手を洗ってください」

「あー忘れてた。ごめんごめん」


事務的に言う茜さん。

時々ロボットみたいな、淡々とした声になるんだよな。ちょっとこわい。

でも言ってることは正しいからなんとも言えない。

手を洗って、今度こそ食卓についた。茜さんは俺の向かいに座る。

2日目に茜さんが、


『メイドは主人と共に食事は摂りません』


、って言ってきたから、命令系で一緒に食べるように言ったら、渋々一緒に食べてくれるようになった。

今まで茜さんが務めてきたところは、そんなに厳しかったのだろうか?

そんなことを考えながら、食卓に置かれているオムライスを見た。


「茜さん」

「はい」

「ケチャップは?」

「これからですが?」

「そっかー」


良かった。まさかのケチャップかけないで食べるのかと思った。妄想どころじゃなくなるところだった。

そして茜さんが美味しそうなオムライスの上に、これまた美味しそうにケチャップで波線を描いた。

うんうん。そうそう。これって食品サンプルでもこうなってるから、超一般的だよねー。


「ってちがーう!!」

「えっ、なにか間違えましたか?」

「もっとこう、絵とか描いてくれるもんだと思ってた」

「も、申し訳ございません。そこまで配慮できておりませんでした。でしたら私のオムライスに描きましょうか?」

「茜さんの?」


そう言うと、茜さんがケチャップでオムライスの上に曲線一筆掻きで、見事な何かを描いた。

…なんだこれ??


「茜さん? これなに?」

「こ、これはその…ハ、ハトサブレです! ほら、こうやって足を描いたら…」


謎の曲線にピッピッと短い線を付け足して、立派な鳩サブレのシルエットを描いてくれた。

もう茜さんのチョイスがわからない。


「…上手だね」

「…ありがとうございます」


茜さんってば、絵下手なのか?

俺はその言葉を口にできないまま、悶々とオムライスを食べ、デザートのシュークリームを茜さんと美味しくいただいた。

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