メイド日記・初日
昨日まで、そのへんのお屋敷で一メイドとして派遣されていた私。
しかし今日からは本格的(?)な24時間体制での住み込み…じゃなくて付きっきりのメイドとして働くことが決まり、これに失敗したら大人しく実家に帰ろうと言う覚悟で、住んでいたアパートも引き払った。ほとんど最低限の荷物だけを持ち、残りの持ちきれない類の荷物は次の雇い主のところに送ってもいいとのことで、お言葉に甘えて送らせてもらった。
給料は雇い主の希望で時給制らしく、1時間1000円の24時間。つまり日給24000円。これが30日だと72万。でも使い道とかあるかしら? 素直に日給計算でいいと思った。雇い主はちょっと頭が足りない人なのかと思った。
そんなこんなでちょっと広そうなマンションの一室の玄関の前に立って深呼吸。
これからここで私の最後とも言えるであろうメイド生活が始まると思うと、ちょっと緊張していた。
インターホンを鳴すと、待ってましたとばかりに玄関が開く。
私は頭を下げて待機し、開いたのを気配で感じ、自己紹介をした。
そして顔を上げると、そこに居たのは…
ただのイケメンでした。
私の好みのタイプでビックリした。
元々雇い主のプロフィールなんかは聞いていたのだけど、写真なんかは全く知らされていなかった。
高尾恭介。私よりも2つ下の26歳。
そんなことを顔や態度に出してしまうと、こちらに好意があって、やる気がないと思われるのも嫌なので、ただメイドとしての職務をまっとうしようと心がけた。
荷物を案内された部屋に置くと、リビングにいた恭介様に持ってきた紅茶を入れて差し上げた。
熱くしすぎたみたいで、舌を火傷してしまったみたい。初仕事で初失態。幸先悪いなぁ。
そして恭介様の希望でビーフシチューを作ることになり、一緒にスーパーへと買い物に来た。
メイド服のまま買いに行かされるかと思ったのだが、そんなことはなく、パーカーとジーンズに着替えての出発となった。急いで着替えないとと思ってキャリーバッグから取り出したのがこれだったから、オシャレとかは度外視。
スーパーでは長い一人暮らしの経験を生かしすぎて恭介様に恥ずかしいところを見せてしまった。恭介様は怒ったのか、『自分で作る』と言ってデミグラスソースの缶を手に取りカートを押して行ってしまった。私は少ししょんぼりとしながらついて行くしかなかった。
その帰り道に恭介様に励まされてしまった。
このままではメイドとしてダメだと思い、名誉挽回しようと家に帰ってから頑張ろうと決めた。
しかし帰ってから着替えようとしたら、カチューシャが見つからなかった。
と思っていたら、頭に付けたままでした。
恭介様が私の頭をチラチラと見ていたのはそういうことだったのか。恥ずかしい。
顔の火照りが落ち着いた頃にキッチンに戻り、恭介様と一緒にキッチンに立って料理をした。
そしてビーフシチューも煮込むだけとなり、私は今日一日を振り返って失態しかしていないのに気がついて、恭介様に何か罰を与えてくださいとお願いしたところ、風呂掃除を頼まれた。
仕方なく風呂掃除をして浴槽にお湯を貯めている間に戻ってくると、恭介様がビーフシチューを完成させていた。
もう頭が上がらなかった。
食事の前にお風呂に入る派らしく、恭介様は溜まったお風呂に入っていった。
出てきた恭介様に『入れば?』と言われたが、さすがにメイドとして主人の前でお風呂に入るということはできないので、寝てから入る旨を伝えると納得してくれた。
そして夕食。
私が食事の準備をしようとすると、『今日は茜さんが来てくれたお祝いということで俺にやらせて』とのこと。私は食卓に座り、スウェットにTシャツにパーカーを着た恭介様がテキパキと準備するのをただ見ていた。
こんなに動ける旦那さんだったら奥さんも幸せだろうなぁと考えていた。
いただきますをして恭介様が一口食べたのを見て、私も食べる。
あれは、今まで食べていたレトルトのビーフシチューなんかの10倍は美味しかった。
愛とか勇気とか希望とかなんかが入った味ではなくて、デミグラスソースで作っただけでここまで変わるものなのかというくらいの美味だった。
そして私はもっと料理の勉強をしようと心に決めた瞬間でもあった。
その後は恭介様がアクション映画を見るというので、私もそばに立って見た。
『一緒に座って見れば?』とも言われたが、さすがにそれはできない旨を伝えると納得してくれた。
そして恭介様がお休みになられてからお風呂に入り、寝巻きに着替えた。
明日から名誉挽回だ。明日からメイドとして本気を出そうと思う。
そしていつかは恭介様に認められて、メイドとしてではなく…いや、考えるのはよそう。
明日は早起きして朝ごはんとか作ろう。よし。
おやすみなさい。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
茜さん視点での振り返りとなります。
短編でやっていたアレを1話丸ごと使っております。
次回もお楽しみに!