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メイドさんと買いました

そんなこんなで近くのスーパーにやってきた。

茜さんはメイド服からジーパンとパーカーという、本当にラフな格好に着替えていた。でも頭についているカチューシャを外していないので、あまり印象は変わらなかった。聞くのもおこがましいので、無闇に聞こうとはしないでおいた。

俺が買い物かごを持とうとすると、茜さんが持つとか言い出した。でも俺としてはご主人様である前に一人の男なので、女性に重いものを持たせるのは気が引けると言うと、茜さんは『それがメイドの勤めです』とかなんとか言って買い物かごをがしっと掴んできた。

入口であーだこーだ言っていても仕方ないので、間を取って、カートにかごを乗せて茜さんに操縦してもらうことにした。意外と仕事に真面目な茜さん。でもついカチューシャに目が行ってしまうのは内緒。


俺は茜さんの後ろを歩きながら、ビーフシチューの材料をサクサクとかごの中に入れていくのを見ていた。

そして精肉コーナーでのこと。


「あれ? それ豚肉じゃない?」

「はい、そうですけど」

「ビーフシチューって言ったら牛肉じゃない? 豚肉だとポークシチューになっちゃうよ?」

「あー…では牛肉にしましょう」


そう言って豚肉を置き、牛肉を手に取る茜さん。

茜さんの家ではビーフシチューと言えば豚肉だったのだろうか?

それを聞いてみた。


「いえ…豚肉のほうが安いので私はいつも豚肉を使ってました」


お値段でした。

なんか一気に現実に戻された気がした。

メイドさんとか言われて一緒に暮らすことになって、現実味がないなーとか考えてたけど、こうして家庭的な一面を見てしまうと、茜さんもただの人間なんだと思ってしまう。『メイドさん=なんでも出来る完璧超人』というイメージが強かったせいもあるかもしれないけど。

そして精肉コーナーで牛肉を買い、一通りの物は揃った。

そして缶詰コーナーでデミグラスソースを…ってあれ? 素通り?

と思っていたら、箱に入ったレトルトのルーコーナーでビーフシチューの素をかごに入れた。


「ストップ」

「はい」


『なにか?』とでも言いたげな顔でこちらを向いて止まる茜さん。

ちょっと突っ込みどころが多かった。


「ビーフシチューってデミグラスソースで煮込むんじゃないの?」


そのセリフを聞いて、かごの中を見て、ハッとした風に目を見開いた。

そして普段の表情を作り、軽く頭を下げる。


「申し訳ございません。ついいつものクセで」


クセ? 何、このメイドさん。料理できない系メイド?


「クセって?」

「す、少し前まで一人暮らしだったもので、手抜き料理といいますかなんというか…」


そう言ってちょっと顔を赤くする茜さん。

なにこのメイド。可愛い。

茜さんは普通に怒られてるだけなのかもしれないけど、俺からしてみると、頭にカチューシャがついている状態でしょんぼりされると、茜さんのイメージがガラリと変わって、『もしやドジっ子メイド?』という疑念まで生まれてきてしまう。

でもここでこうしていても仕方ない。

俺は茜さんにいいところ見せることにした。

何も言わずに立ち尽くしている茜さんに背を向けて、缶詰コーナーに戻りデミグラスソースの缶を手に取って、茜さんの横にあるかごの中に入れて、レトルトのルーを棚に戻す。

そしてカートを茜さんから奪い取った。


「今日は俺が作るから。茜さんは手伝って」

「でもそれでは…」

「手伝いなさい」

「…かしこまりました」

「よろしい」


そんなことがあったがレジでの会計も無事に終わり、茜さんが持ってきていたエコバッグに買ったものを入れて帰宅。ちなみに荷物持ちは俺がやった。俺ってばイケメン。


「よーし作るかなー」

「私は何をいたしましょうか」

「じゃあ…じゃがいもとにんじんを切ってくれる?」

「かしこまりました」


そこまでかしこまらなくてもいいのになぁと思ったが、どうせ『これもメイドの勤めですから』とか言わせるのもアレだったので、無理強いはしないことにした。

メイド服に着替えた茜さんが、じゃがいもとにんじんをテキパキと剥いて切ってしている手つきを見ると、料理が出来ることがよくわかった。だてに一人暮らしだったわけではないということか。いや、メイドテクの一つなのか。

俺は玉ねぎと肉を適当に切ると、その頃には茜さんも切り終わっていた。

肉を鍋の中にぶち込んでいる間に、茜さんが慣れない台所で洗い物をしてくれているのを見ると、なんか新婚生活をしている気持ちになってきて、抱きつきたい衝動に駆られたが、グっと我慢して牛肉を炒める作業に戻った。

いい感じに焼けて、野菜をぶち込み炒め、水を入れてコトコトと煮込んだ。あとは煮込み終わったらデミグラスソースを入れて味を整えて完成だ。

フーッと一息ついて茜さんを見ると、真面目な顔をして俺のななめ後ろに立っていた。

そして頭を深々と下げる。


「本日はもうしわけありませんでした」

「何が?」

「スーパーでの失態です」

「そこまで気にしなくていいって。人間は誰でもミスはあるんだし、先は長いんだし次から頑張ってくれればいいよ」

「ありがとうございます。しかし今回の件で何か罰をしていただかないと…」


罰って言われても特に思いつかない。

あっ。


「じゃあ風呂掃除してきて」

「お風呂掃除、ですか?」

「うん。そのまま風呂貯めてきて」

「えっと、その…」


なにやらモジモジする茜さん。何考えてるんだ?

まだ茜さんのことがよくわからない。これから知っていくことにして、茜さんに俺という男を知ってもらうことにしよう。そしていずれはメイドと主人の関係じゃなくて…ムフフ。


「ほら。罰ゲームなんだから早く掃除してきなさい」

「は、はいっ。かしこまりましたっ」


そう言ってパタパタと台所から出ていく茜さん。

あんまり表情は変わらないけど、真面目でちょっとドジな一面もあるということがわかった一日だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


恭介様かっこいいー

次は茜さんの日記の予定です。


次回もお楽しみに!

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