メイドさん、来ました
「初めまして。今日から恭介様のお世話を致します、メイドの茜です。要件要望なんなりとお申し付けください」
そう言って玄関先で頭を下げる茜さん。
こうして俺と茜さんの生活は始まった。
宝くじが当たり大金を手に入れた俺は、長年の夢だった『メイドさん』を24時間体制で雇ってみた。
もうどこかの掲示板にでも投稿したらそれなりの反響がありそうだが、これは俺が一人で楽しむために雇ったものであって、誰かに見られるのも教えるのも嫌だ。
大家さんには一応話は通してあり、この2LDKのマンションにもう一人住人が住むことを了承してもらっている。まぁ結構な老人で『めいどさん? なんじゃそりゃ? 冥土の土産か? ばかにしおって』とか言ってたのをなんとか説明に説明を重ねて、とりあえずOKだけもらったのだ。きっと明日になったら忘れているのだろう。でもちゃんと書類にサインももらったから大丈夫だ。問題ない。古いか。
そんなこんなで、早速メイド派遣会社『メイド・イン・ヘブン』という時を加速させそうなイメージがある怪しげな会社に連絡をし、1週間後の今日からメイドさんとの共同生活がスタートとなった。
一応条件としては『綺麗な人』『可愛い人』『料理が出来る人』『24時間でも良い人』『真面目な人』などの条件を提示させてもらった。
本当はもっと細かったんだけど、紹介しきれない。例えば『好きな靴の色は?』とかって項目もあったけど、そんなの気にしてたら何か色々とダメになりそうな気がしたので見なかったことにした。
そして様々な審査(?)をくぐり抜けてやってきたのが、この茜さんである。
黒くて綺麗なセミロングの髪を後ろでまとめていて、真面目そうな印象を感じさせる目にはフレームなしのメガネが掛けられていた。だがメイド服である。
俺が想像していたのは、もっと『いらっしゃいませぇご主人様(はぁと』な感じだったんだけど、茜さんはロングスカートのメイド服で、フリルなんかは全然ついておらず、ホントに洋館とかにいそうなメイド服を着ていた。
まぁこっちのほうが茜さんには似合っている気がするので、全然問題ないと思われた。
俺の第一印象としては、とても好印象だった。というか超好みのタイプだった。その場であんなお願いやこんなお願いをしたかったのだが、せっかく始まった夢の生活に自らピリオドを打つのが怖かったので、さすがに自重した。
玄関で軽く挨拶をしたあと、書斎(笑)として使っていた部屋を片付けておいたので、そこへ案内して荷物を置いてもらった。わかんなかったから、とりあえずベッド一式とタンスだけは準備しておいた。
ってゆーかメイド服でここまで来たのか。すげーな、メイドさん。
荷物はキャリーバッグ1つだけだったが、明日また少し送られてくるらしく、荷物は増えるとのこと。
まさかメイドさんと一緒に住める日が来るなんて思いもしなかった。まるで夢のようだ。宝くじを買ったら夢を掴みました。今度宝くじ売場の宣伝文句にしてもらおうかな。『これを飲んだら彼女ができました』的なアレで。
荷物を運び終わり、家の中をザッと案内し、リビングのソファに座ると、茜さんが自前で持ってきたティーカップに紅茶を沸かして入れてくれた。茜さんはソファのそばで立ったまま待機。
いつもはマグカップでインスタントなコーヒーを飲むぐらいだったので、『なんで紅茶?』と思ってしまった。
だがしかし。茜さんに第一印象でカッコよく見られたいと思った俺は、優雅に紅茶をすすったのだが、
「あちぃ」
「大丈夫ですか? 申し訳ございません。熱すぎましたか?」
と、心配されてしまった。とほほ。前途多難である。
紅茶は失敗だったので、『会話をして茜さんとお近づきになろう作戦』に切り替えた。
「茜さんは…って座らないの?」
「京介様が座っているのに、私まで座るのは禁じられています」
「禁則事項的な?」
「はい」
い、意外と手ごわい。
仕方ない。
「茜さん」
「はい」
「座りなさい」
「…はい」
しぶしぶといった具合で、俺の向かいのソファに腰を下ろす茜さん。
『命令口調で言うとメイドさんは従ってくれる』と『メイド・イン・ヘブン』の公式マニュアルに書いてあったので、早速実践してみたのだが、まさか本当に効くとは思わなかった。
じゃああんなことやこんなことも…いや、まだ焦るような時間じゃない。じっくりだ。じっくりいこう。
浅く腰かけ、いつでも立ち上がれるような着席具合な茜さんに質問をする。
「茜さんはいくつ?」
「27です」
「おー」
何が『おー』なのかはわからないけど、出てしまった声は戻ってこない。
「得意料理は?」
「外国の変わった料理以外なら和洋中一通りは作れます」
「じゃあなんでもリクエストして大丈夫ってことね」
「はい」
「じゃあ今日はビーフシチューが食べたいな」
「かしこまりました。では材料を買いに行きたいのですが、よろしいですか?」
「その格好で?」
「……はい」
間があった。完璧に間があった。
さすがにメイド服で外を出歩くのは恥ずかしいんだ。
さっきから無表情で淡々としていたのに、今の質問の時だけは目線が俺からそれた。そのぐらい茜さんを見ていたってことだけどね。
「じゃあ私服に着替えて買い物に行きましょうか」
「恭介様のいらっしゃるんですか? 私一人で十分です」
「こんなに綺麗なメイドさんに重いものを持たせるなんてできないって。俺も行くよ。それにスーパーの場所もわからないでしょ?」
「…では、よろしくお願いします」
こんな感じで茜さんと俺の共同生活は始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
なんやかんやで連載までこぎついちゃいました。
赤丸ジャンプに載ったと思ったら本誌連載しちゃった気分です。
打ち切りにならないように頑張ります。
…えっ? 赤丸はもうない? NEXT?
次回もお楽しみに!