青龍伝 お前らの全て、背負ってやる
投稿が4月の始めで、完成が5月20日って・・・・・・。
本当に申し訳ありませんでした。(土下座)
進級とか新作とかいろいろあって、しばらく放置状態になってました。
クオリティ微妙・長さ短め・更新亀並みと、悪いトコばっかですが、これからも何卒よろしくお願いします。
(よろしければ感想もおねがいします)
権力者の腐敗は、この大陸の常。
強者が弱者を虐げ、その弱者がさらに弱者を虐げる。これは、世の理。
ただ、目と手の届く範囲の人々を救っていては「人を救う」とは言えない。
ならば、変える。
常だというなら、新たな常で塗り替えろ。
世の理というなら、そんな世などぶち壊し、新たな世を作り出せ。
そうしたいならば、天下を獲れ。
って、ユージが言ってた。
あの後、更に話を聞いてみたんだけども三人娘は明確な目的を持っていなかった。
「弱者が虐げられている世を変える」という理想は『最終的な目的』ではあるけど、『目先の目的』を持ってなかった。
結果を追いかけ過程を端折ってたのだ。悪く言えば、行き当たりバッタリ。よく言えば・・・・・・よく言えば・・・・・・言葉が見つかんない。
ま、良いけど。
で、オレらは先立つものを稼ぐことになった。収入源は、オレとユージの持ち物。この時代には無い、筆記具やケータイ、硬貨や紙幣だ。
筆記具は便利だから誰でも欲しがるだろうし、硬貨や紙幣も美術関連を当たればいい値がつくだろ。
ケータイなんかは、受け入れられないだろうから、バラして中の金属類を売っぱらう。
天下獲りの構想は順調だ。だけど、最初の一歩を踏み出す前にオレらはある事をやろうとしていた。
いや、これからやろうとしている事が、第一歩なのかもしれないけどな。
三国志マニアの誰かならわかるだろ。
分からないなら、幾つかヒント。
まず、オレらは酒を持ってる。酒屋の女将さんから譲ってもらった。
話は逸れるが、女将さんがえらくカッコよかったな。
自分たちがいつまで生きられるかは分からないが、オレらみたいな大志を抱く者が居れば、世の中は良くなると信じている。そう言って、酒を差し出してくれた。
失礼、話を戻すよ。次に、これからやろうとしている事は、『誓い』だ。
最後に、大ヒント。オレらは、女将さんから言われた所に向かっている。
そこは・・・・・・美しい桃の花が咲き誇る、『桃園』だそうだ。
「この辺り、かなぁ~?」
「女将から聞いた場所はこの辺りですね」
「きっと丘の向こうにあるんじゃないかなー?」
「うし、行ってみっか」
オレはそう言って、先頭に立って目の前の丘を、一歩一歩、ゆっくりと登った。
「おお・・・・・・」
眼下には、一面桃色の世界が広がっていた。
「なかなかのものじゃないか」
「これが桃園かー・・・・・・すごいねー♪」
「美しい・・・・・まさに桃園という名にふさわしい美しさです」
それぞれが、思い思いの感想を述べていく。オレも同じだった。
「ああ、こいつはマジだな・・・・・・。まるで、御苑の桜みてぇだ」
関羽が珍しそうな声で言った。
「ほお・・・・・・誠殿の居た天にも、やはりこれほど美しい場所があったのですか」
「ああ。咲いていたのは桜だったけどな。最高だったよ」
「雅だねぇ~」
なんて、四人でこの美しい風情を楽しんでいたが、
「さぁ酒なのだー!!」
これ以上ないくらい楽しみって顔をしてる張飛が、オレらの周りをくるくる走り回っていた。
「・・・約一名、ものの雅を分からぬ者もいるようですが」
関羽が、やれやれといった感じで零した。
「あははっ、鈴々ちゃんらしいね♪」
「らしい、か・・・・・・まぁ、いい。お前ら準備は良いな?」
「おう!」
「うん!」
「はっ!」
「良いのだ!」
ユージの問いかけに、皆で返事を返す。
そして、それぞれが手に持った盃に酒を注ぎながら、オレはつぶやいた。
「しっかし、まぁ。あの名場面にオレらが同席してたなんて・・・・・・なぁ?」
ユージは、喉の奥でクククと笑った。
「三国志の世界に飛ばされたからには見ておきたいと思っていたが、自分で進行するのは予想外だった」
オレは、わざと意外そうな声を出した。
「へぇ、お前でも予想できない事があるんだなぁ」
「間抜け」
そう返されると困る。
気が付くと、三人娘がこちらを見ていた。
「どうかしたの?二人共」
劉備の問いかけにユージが答えた。
「まぁ、いろいろな。感慨深いというか。これからどうするかも悩みの種だな。方針はあっても、具体的とは程遠い」
「前を向いて一歩一歩、歩くしかないでしょうね」
「立ち止まって考えてても、物事は何も進展しやしないのだ」
「フフ。まぁ、そうなんだろうな」
こいつらの一連の会話を聴きながら、オレは内心ドキリとした。
方針はあるが、具体的でない?
たしかに、口に出しているのはそうかもしれないが、コイツのことだ。もう五、六歩先の絵図まで思い描いてると思っていたのだ。
すぐにさっきの言葉が、三人に対する誤魔化しに過ぎないと分かったが、本当に焦ってしまった。
ユージの確固たる計画がなけりゃ、天下獲りなんて夢のまた夢のさらに夢のあたりだ。
「そうそうなのだ!・・・・・・それより、お兄ちゃん」
張飛の言葉で、現実に引き戻された。そうだ、今更焦って、悩んでも仕方が無いだろ。
ユージの絵図に沿って、ただひたすらに進んでいく。
昔からそうしてきたんだから、今更変える必要は無い。
「ん?」
「なんだよ」
「お兄ちゃん達は、鈴々たちのご主人様になったんだからちゃんと真名で呼んでほしいのだ!」
ご主人様ねぇ・・・・・・。いつの間にかそんな風にされているけど、なんか・・・・・・ヤダ。
まぁ、そいつはどうでもいい。なんだ、真名って?
「その、真名とは何だ?」
ユージが尋ねた。
「我らの持つ、本当の名前です。家族や親しき者にしか、呼ぶことを許さない、神聖なる名・・・・・・」
オレは関羽の答えに率直な感想を言った。
「おお、なんか大層なもんみてぇじゃんか」
「その名を持つ人の本質を包み込んだ言葉なの。だから親しい人以外は、例え知っていても口に出してはいけない本当の名前」
劉備が夢みるように言った。
ユージがオレにだけ聞こえるような声で言った。
「つまり、忌み名みたいなものだな」
オレは無言で頷いた。
「だけど、お兄ちゃん達になら呼んでほしいのだ!」
「真名ねぇ・・・・・・」
誰でも呼べるほど、軽くは無い。多分だが、そいつの人生とか、そういったモンも包まれているような、特別な言葉。
そいつをオレらに許すということは、それだけ期待されているってことだ。
いや、期待なんて言葉じゃ軽すぎるかもな。
彼女達は、オレらに全てを懸けてくれている。命、理想、信念。そういったものを全て。
「・・・」
ユージも同じような事を考えているのだろう。真剣な顔で黙っている。
ハッキリ言って、自信なんて無い。ユージも同じだろう。
なにしろ、オレらは二日くらい前まで、町の便利屋に過ぎなかったのに、今じゃ英雄達と共に天下を獲ろうとしている。
確かに、三国志の知識を持ってるのは、大きなアドバンテージになる。
けど、そいつもあまり頼りにならないかもしれない。
英雄が、年端も行かない女の子になっていたり、そこにオレらが紛れ込んだり。
そんな、言ってみりゃイレギュラー世界で、オレらが知っている三国志の通りに事が進む可能性がめちゃくちゃ低いのは、バカなオレでも良く分かる。
だからって、逃げるのか?
冗談じゃない。逃げたって元の世界に戻れるわけじゃないし、普通の生活に戻るには、オレもユージも刺激のある生活に慣れすぎちまってる。
望まない人生を生きるのは、自分の心を殺してるようなモンだ。
そんな半分死んじまった人生なら、この三人の全て。そして、これからオレらと同じ道を歩いていくやつらの全てを背負って険しい道を歩んだ方がよっぽどオレらしい。
「分かった。お前らの全て、背負ってやる」
オレはゆっくりと、そう言った。
「そうだな。これで、良い重石が出来た。これからは、半端は許されない」
ユージも、覚悟が篭った声で言った。
「うし。んじゃ、えーっと?」
オレが言い淀んでると、向こうから切り出してくれた。
「我が真名は愛紗」
「鈴々は鈴々!」
「私は桃香!」
「愛紗、鈴々、桃香か・・・・・・」
オレが、それぞれの真名を復唱する。
「さて、これから何が起きるのか、それに対して何をしていけば良いのか、さっぱり分からんが、俺達はお前らの力になる。どんな事になっても、俺達はそれを強く願い続ける」
と、ユージが言った。オレも同じ気持ちだ。乗ったからには。背負ったからには。そいつを降りることはないし、投げ出しもしない。
時代を変えるか、時代の波に飲まれちまうか。二つに一つ。
「そうだな。これから・・・・・・よろしくな!」
オレが色んな思いを乗っけて、叫ぶように言った。
「じゃあ、結盟だね!」
「おう!」
「よし」
桃香の言葉に強く頷き返すオレと、優雅に頷き返すユージ。
気持ちは昂ってるんだろうが、どんな時でもどこか上品。ユージは、どの世界でもユージだった。
すると、愛紗が持っていた盃を、空に向かって力強く突き出した。
「我ら五人!」
「姓は違えども、兄弟姉妹の契りを結びしからは!」
「心を同じくして助け合い、みんなで力なき人々を救うのだ!」
「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」
「願わくば、同年、同月、同日に死せんことを!」
「ここに・・・・・・誓わん!」
単なる宴席でも、兄弟、姉妹の契りを結ぶだけでもない。もっと重大な『意味』。
そいつを胸に刻み込みながら、オレらは、戦乱に満ちた歴史に、『時代との戦い』に、小さくて大きな一歩を踏み出した・・・・・・。
『桃園の誓い』
桃園結義とも。
劉備、関羽、張飛の三人が義兄弟の契りを交わしたという、三国志の名場面。
正史の方には、一切記述は無く、三人の人気からの創作であるとされている。
ちなみに正史では、関羽伝に、『先主(劉備)からの恩愛は兄弟のようであった』(要約)
張飛伝に、『関羽が数歳年長であったため、張飛は彼に兄事した』(要約)
とのみ、記されており、義兄弟の契りを交わしたのかどうかさえ不明瞭になっている。(作者個人の感想です)
ちなみに、契りの際の『同じ時に死ぬ事を望む』(かなり要約)
は、当然ながら果たされなかったが、三人の死亡年数はかなり近く、乱世においてはかなり珍しかった。