朱雀伝 適材適所だ
再開します。
誓いの後、俺達はひとまずその町を離れた。
規模の割には、あまり商売が活発でなかったからだ。
運よく、変わった物を収集している小金持ち(こんな時代にお気楽なやつらだ)が多いという町が近くにあったので、そこに移動した。
「さて、とりあえず、俺達の持ち物を全て売ろう」
「どんなものを持ってるの?」
桃香がたずねてきたので、俺は説明してやる。
「まずは、俺達の世界の金だ。大きく分けて、小さい紙に装飾が施された『紙幣』という物と、こっちの世界とほとんど同じ『硬貨』という物がある。紙幣の装飾は精巧だから美術品好きに、硬貨はこっちじゃ珍しい素材を使ってるからそこらへんの商人にでも売ってやればいいだろう」
そういいながら、俺とマコトは財布を出し、中身を出してみた。運のいい事に、数日前にデカイ仕事を片付けて報酬を受け取っていたのでかなりの金額が入っていた。
千円札、五千円札、一万円札、五百円硬貨、百円硬貨、五十円硬貨、十円硬貨、五円硬貨、一円硬貨。
数の少ない二千円札以外は大体そろっている。二人分でかなりの数なので、けっこうな額に化けるはずだ。
「その紙幣とやらには人の顔が描かれているようですが、彼らは誰なのです?」
愛紗がたずねた。
俺達の時代の偉人だ、といった。
「えーと。病気の研究に一生をかけた医者に・・・・・・超有名な作家に・・・・・・なんかよくわからないけど、頭のいいオッサン。だったと思うぞ。たぶん」
マコトがこっちを見てきた。
「まぁ、そんなもんだ」
説明するならするでいいが、ちゃんと自分が理解したうえでやれ。そういって微妙な間違いを訂正したかったが、今、この話は関係ないので話をあわせておく。あーあ。おかしな説明のせいで三人の頭の上にクエスチョンマークが乱れ飛んでる。
財布をしまおうとすると、マコトがいった。
「ん?ユージ、財布は売らないのか」
「ああ。こいつはこのまま使おう。新しい財布を買うのも面倒だし、金と違ってたいした額にならないだろう」
それもそうだな、といって、マコトもジーンズのポケットに財布を突っ込んだ。
あとは・・・・・・
「次はこいつだ」
俺とマコトは携帯電話を取り出す。
「それはどんなものなの?」
と、桃香。
「これは、携帯電話。これ一つでいろいろなことができるんだが、まぁ要するに、遠く離れた相手と話をしたり、文を送りつけたりできる道具だ。説明しても絶対に理解できないだろうから仕組みは聞くな」
俺の話の途中から、三人が目に見えて興奮しだしてきた。
「すごーい!!」
「魔法みたいなのだ!!雄二兄ちゃん、これ鈴々にちょうだい!!」
「いや、だめだろ。こいつは売りにだすんだぞ」
三人の中でも、比較的冷静な愛紗が言った。
「たしかにこれはすごいですね・・・・・・。破格の値段がつくでしょう。しかし、このような便利な道具であれば、お二人が使ったほうがよろしいのでは?戦においても、迅速な情報伝達が可能になります」
さすが、頭がいい。だが、それは無理だ。理由をマコトが説明した。
「残念だけど、そいつは無理だよ、愛紗。簡単に言うと、これは目に見えないものに声や文を乗っけて送るようなもんなんだ。だけど、その目に見えないものは仲立ちみたいなのが必要だ。この世界に仲立ちは無い。だから使えねぇってわけ」
「そういうことだ。俺たちは、なにもこいつが便利だからって売るわけじゃない。この中には、貴重な鉱物がぎっしりと入ってる。それを取り出して売りつけるんだ」
そのあと、三十分近くかけて、俺達の持ち物を確認した。少ない持ち物を確認するのに、なんでこんなに時間がかかったかというと、桃香と鈴々が、一々すべての道具に反応し、あれこれ質問してくるからだ。対応に疲れてしまった。
まぁ、何にせよ、準備は整った。あとは役割分担だ。
「愛紗、お前はこのボールペンを全部行商してこい。思い切りふっかけていいぞ」
「わかりました」
「桃香、鈴々。お前らは、俺と一緒に鉱物と金を売りにいくぞ。手分けして、できるだけ高い値段で売るんだ」
「「わかった(よ)(のだ)」」
よし、これで分担できた。
「じゃあ皆、日の入り頃にまたこの店にあつま「おい」何?」
マコトが口を挟んだ。
「俺は?どうすればいい?」
「ああ。お前はなにもしなくていい。別にやってもらうことがある。体力を温存しておけ。退屈に耐えられないなら、愛紗の手伝いをしてもいいが、万全の状態で夜を迎えてくれ」
マコトが不思議そうな顔をした。
「何をさせる気だ?」
俺は歯をむき出しにして笑って言った。
「適材適所だ。相棒」