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エピローグ

「なんでだよ!? 異世界に行ったら、全く別の自分になって、訳も分からないままに勇者になれて、慕ってくる女の子がいっぱいで、パーティメンバーも自分以外は全員女の子になってて、いつの間にやらモテモテ! みたいなそんな感じじゃないのかよ! なんで何もかも、全くうまくいかないんだよ!?」


 最後に行った異世界でも駄目だった。普通に自分たちに似たような人間がいて、その世界の言葉が分かり、その世界の人と話すことができたにもかかわらず、自分にできたことと言えば、物乞いをするくらいしかできなかった。

 こんなはずじゃなかった。異世界に召喚されると、突然妖精が現れて道を差ししめてくれたり、たまたま危機にあっていた時に出会った人が良くしてくれたり、何とかうまくやっていけるものだと思っていた。けれど、結局何もできず、帰りたいと願って、おめおめとこの世界に戻ってきてしまった。


「君は異世界をなんだと思ってたのだ」


 苦笑いを浮かべながら、魔法使いの男が言った。


「異世界って言ったら英雄譚だろう!? 勇者と魔王の激闘のエピソード、智謀と戦略、化かし合いで戦局をひっくり返す知将たちに、そんな駆け引き抜きに、ただただ強い一騎当千の猛者たち! そんな場に僕も行って、歴史に名を残したかったんだよ!」


「無茶なことを。そのような人間、その世界にいたとしても、ほぼいないに等しいのに」


 ふんっ。自分にはそれができると思ってたんだよ……全くもって無理だったけど。

 実際のところ、魔法使いの言葉は正しかったのだが、それを肯定することのも嫌で、僕は返事をせずに黙っていた。

 しばらくの間、沈黙が続いていた。太陽が落ち、辺りがだんだんと暗くなってくる。


「少年、少しばかりおせっかいで話をさせてもらうのだが……、君はこの世界でどのようなことができる?」


 突然、魔法使いが何か問いかけてきた。魔法使いが何を伝えたいのかわからず、またしゃべる気分でもなく、黙ったまま魔法使いの次の言葉を待った。


「例えば、木材から、棚やいすを作ることはできるか? 親のこづかい以外から、きちんと働いて報酬をもらったことは? もしくは、何かを育てたことはあるか? 飼ったことでもよい」


 ……どれもできないし、したこともない。だが、それがどうかしたって言うのか?


「この世界でできなかったことが、ほかの世界に行って、突然できるようになることなぞあると思うか?」


 ……あると思ってたよ。それが異世界の魅力だろ。ゲームや本で鍛えた戦略を参考に、戦争を勝利に導くとか、そんな話だってよく聞くじゃないか。


「そんなこと、あるわけがない。いつだって、どこだって、出来ることは突然増えたりしない」


 ……そうだったよ。異世界にいったら、何かが変わると思ってたけど、全然変わらなかった。ギルドに行って、依頼をもらおうと試みたけど、全く持って依頼なんてもらえなかった。

 フリーのものには依頼すらもらえず、だったらどこかに所属するかと意気込んでみたが、何をしても失敗だらけで、どこも雇ってくれなかった。


「まずは、この世界で頑張ってみてはどうだ? この世界の中にでも、冒険出来ることはたくさんある」


「何しろってんだよ。このくそつまらない世界で! 何のためにしているかわかんない勉強を一生懸命やって、高校、大学行って、で、就職して、死んでいくんだよ。で、気晴らしに部活やってたって、どんだけがんばったって上には上がいんだよ。そんなんの何が面白いってんだ!?」


 ここでの人生がつまらなくて仕方がないから、新しい世界に希望を見出してたってのに、この世界で何かをしろって言われても、何もしたいことが思いつかない。


「別に、上を目指すことでなくとも、先ほども言ったが物を作るでも、何かを育てるでも、なんでもやることはある。やりたいと思えば、やれることはたくさんあるのだ。人の一生くらいの時間ではすまないくらいに」


 ……そうなのだろうか。この魔法使いは、一生懸命何かを探せば、きっと自分のやりたいことが見つかるはずだなんていう、自分探しの旅をしろとでもいうのか。

 今、そう言われていろいろ考えてみたけど、この世界で何をしたいのかなんて全く思いつかない。


「もし、何をしたいのかを思いつかないのなら……そうだな、まずは料理をしろ。きっと将来、いい事があるから」


 料理……なぜ、料理なのか意味が分からないが、別にやりたいことがないのだから、やってみることは、いい事なのかもしれない。


「それでは、いい暇つぶしになった。またいつかどこかで会えばな」


 そう言って、魔法使いは手を振り、僕に背を向け去っていった。

 だんだんと魔法使いの背中が小さくなり、やがて見えなくなった。


「……僕も帰るか」


 魔法使いが見えなくなってしばらくしてから、僕はポツリとつぶやいた。そうして、太陽もすっかり落ちて暗くなった道を僕は歩き始めた。










 あれは夢だったんじゃないかって、ちょっとだけ思う時もある。でも、魔法使いがくれた、このミサンガだけは残っている。

 あの後、自分でも単純だなと思ったけど、もうちょっとだけ、この世界で頑張っていこうって、そう、思った。


「ほら! 包丁の持ち方が変! 切る切る! 指を切る! ダメダメ! そんなに厚く切ったら、リンゴ食べるところがなくなっちゃうでしょ!」


 ……ちょっとくじけそうになることもあるけど、ね。

大変短い話ですが、読んでいただきありがとうございました。


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