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3回目の異世界

「あ、あれ? 僕生きてる?」


 意識が戻った時、僕は再度、元の世界に戻っていた。 目の前には先ほどの魔法使いを名乗る男が立っている。

 やはり時間はほとんど経っていないようで、辺りの景色も、太陽も異世界に行く前とほとんど位置が変わっていない。


「どうだったのだ? 異世界へ行った感想は」


「……どこかの森に立った後、何かをし始める前に、空を飛ぶカバに食われたような。……って手!? 腕!? 腕……あ、ある。あ、ああよかった。ほんとによかった」


 最後、記憶にあったのは、腕が噛み砕かれた記憶。一瞬のものすごい激痛の後は、自分の記憶がない。

 その後は頭をかみ砕かれたりしたから、もう記憶がなくなっているのだろうか。頭を噛み砕かれて、脳みそがぐしゃっとはみ出してしまっている自分の顔……うぅ、想像しただけで気持ち悪くなってきた。これ以上、先ほどの事を考えるのはやめよう。


「そうか。君の願いはこれでかなったわけだな、そこそこの暇つぶしにはなった。それではな」


「ま、待ってくれよ!」


 去ろうとする魔法使いを慌てて僕は呼び止めた。こんなことを僕は望んでいたわけじゃない。

 魔法使いは足を止めて、振り返った。


「なんだ? もう君の願いはかなえた。これ以上ほかに何を望むという訳でもあるまい」


「あ、あともう1回、もう1回だけでいいから異世界へ飛ばしてくれ!」


 こんな異世界体験だけでは、何のために異世界に行ったのかわからない。

 最低限、異世界らしい異世界に行って、何かしら冒険をしたい。


「ふむ……。そうそう何度も何度も異世界に行っても、結果はそんなに変わらないと思うのだが」


「そんなことない! 今までは選んだ異世界がまずかったんだ! 今度はしっかり異世界の要望を言うから、そういうところに連れてってよ!」


 自分でも、無茶な要求を言っている気はする。が、絶対に叶えたいんだ。


「まぁ、どうせここで帰っても、まだ暇であるからな。わかった。が、これが最後だ。どのようなところに行きたいというのだ」


 よし、願いがかなった。

 ここからは慎重に僕が行きたい世界を魔法使いに伝えないと。


「まず、普通の人がいるところ。僕と同じような人がいるところだね。それでいて、きちんと僕の言葉も通じるようにしてほしい」


「……それならば、異世界に行かずに、日本に居続ければいいではないか。何のために異世界に行く?」


 魔法使いの言葉に僕はがっくりとうなだれた。

 なぜ、これだけで僕の言いたいことが伝わらないんだ。異世界と言ったらそういうものじゃないか。


「冒険するためだよ! 様々な苦難を乗り越えて、冒険の間に成長を遂げて、英雄になるんだ! そんな事、日本にいちゃ、そんな冒険できないじゃないか! だから、自分が今から行く世界は、そんな感じに冒険がたくさんできるような世界にしてよ」


「……少年、君が言う冒険がたくさんできるような世界とはどのような世界を言うのだ?」


 ……何でわからないんだ。ファンタジー的な異世界と言われれば、想像するのは誰だって指輪物語やナルニア国物語のような、人と、亜人と、モンスターが混ざり合っているような世界に決まっているじゃないか。

 もしかすると、魔法使いだから、世間の情報には疎いのかもしれない。

 僕は根気強く説明を続けることにした。


「まず、冒険者がいるんだ。で、冒険者はギルドに集まる。そのギルドで、冒険者たちは色々な人から受けたクエストをこなしていく。そのうちに、ランクが上がって、どんどんと難しいクエストを受けられるようになり、最終的にはギルドのメンバーで結成したパーティで、この世界を恐怖に陥れている魔王との戦いに挑み、世界に平和をもたらすのさ!」


「最後のほうは意味がわからなかったのだが、つまりはギルドという名前の、日本の言うハローワークのような場所に、クエストという名の職を求めて集まるということでよいのだな? ますます他の世界に行く理由が分からないのだが」


 ハローワークとは違う! ハローワークがどんなところか知らないけど、そんな会社みたいな雰囲気じゃなくて、ギルドってところはもっと泥臭くて、もっと豪傑な男たち、男勝りな女たちが集まってる所なんだ。

 魔法使いがハローワークという俗世間な言葉を使うのはとても不自然な気がしたが、それも気にせず自分の思い描いた異世界を魔法使いに話し続ける事にした。


「時代雰囲気は、中世ヨーロッパのような世界がいい。まだ、機械が発達していなくて、電気なんてものはまだまだこれから発達していく分野だ。街路にともっている光は、電灯ではなくて、ランタンみたいなもので明かりをとるんだよ」


「ふむ、そのような世界はあるのかどうか……ああ、いくつかはあるな。だが、日本語を使うような世界はない」


「そこをどうにか!」


「……まあ、いいだろう。普通は異世界語を解することなぞ出来ないが、君にこれを渡すことにしよう」


 そう言って、魔法使いは僕の手に何かをのせた。

 なんだろうと思って、手の上に載っているものを見てみると、糸で編みこまれた輪っか状の物があった。


「……ミサンガ?」


 どこからどう見てもミサンガだ。

 このようなものを、一体どうするというのだろう。


「ああ、それを身に着けていれば、相手の言葉を理解することもできるようになるし、相手に自分の言葉を渡すこともできるようになる」


 おお、これはすごい。このような物があるなら、日本にある英会話教室を全てつぶしてしまう事もできるじゃないか。


「それでは、本当にこれが最後だ。準備はいいか?」


 僕はミサンガを腕につけて、こくりとうなずいた。心の準備はいつだってできている。

 これから僕は、新しい冒険に旅立っていくんだ。


「それでは行くぞっ!」


 魔法使いの掛け声とともに、再度僕の周りが光り出した。

 まぶしくて目が開けられない中、心の中はわくわくがいっぱいになっていた。









 目を開けると、僕はどこかの街の道のど真ん中に立っていた。

 辺りを見渡すと人、人、人……。けど、それは普通の人だけじゃない。

 エルフのように耳がとがっている人もいれば、ホビットのように背の小さな人もいる。

 そして獣人族のような尻尾が生えた人もいる。


「これだよ! これが僕が来たかった世界なんだ! いよし! 絶対にやってやるぞ!」


 まずは冒険者ギルドを見つけなきゃ! 意気揚々と僕は道を歩き始めた。

浅く考えると、冒険者ギルドってハローワーク、もしくは派遣会社っぽい気がします。

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