2回目の異世界
「……あ、あれ?」
意識が戻った時、僕は元の世界に戻ってきた。目の前には先ほどの魔法使いを名乗る男が立っている。
時刻もさほど立っていないようで、太陽の位置もほとんど変わっていない。
「どうだったのだ? 異世界へ行った感想は」
魔法使いが聞いてきた。異世界……え? 僕は異世界に行っていたのか?
「え? いつ?」
「今、異世界に行ってきただろう?」
え? 今僕は異世界へ行ってきたってのか? そう言われ、僕はさっき起きた出来事を一生懸命思い出そうとした。
確か、突然まばゆい光が自分の体を覆って……その後、目を開こうとしたら、突然地面にたたきつけられたような……一瞬、何かしらの建物があったような気がするけど、それ以外にどんな風景が広がっていたか全く覚えていない。あれが、異世界に行った結果だったって言うんだろうか。
ほんの少しの記憶しかないけれど、だんだんと僕は腹が立ってきた。冗談じゃない。僕が望んだのはそんな異世界じゃない。
「ねえ魔法使い! あれのどこが異世界だってのさ! 僕、何が何だかわからないまま、いきなり地面にたたきつけられて意識失っただけなんだけど!」
「……ふむ、なるほど。君の今の話から推察するに、おそらく君はこの地球よりはるかに重力が大きい世界に行ったのだろうな。それで君は耐えられなくなり、つぶれて死んだと」
……今、さらっとひどいことを言われたような。死んだとか死ななかったとか。
「え? 死んだ?」
「ああ、君は異世界で死んだ。先ほど説明しようとしたが、急ぎ異世界に行きたいようだったのでな。元の世界に戻る方法として、帰りたいと強く強く願うか、もしくは死ねば元の世界に戻れるよう、細工を行った。安心だろう?」
はぁ……まあ、死んでもリセットできると。ゲームのように。
そんなに簡単に生き死にできるって言うのがちょっとびっくりだ。まあ、なんせ異世界に飛ばしたり空を飛んだりできるような魔法使いだ。魔法使いならばそのようなことができても不思議じゃないかもしれない。
「ただ、記憶などはすべて残るからな。出来れば死ぬ前に帰りたいと願って置いたほうが無難だ。ものすごい激痛とともに死んでしまうと、こちらの世界でも発狂したままになってしまうかもしれん」
「おい!? そんなん全然安心じゃないじゃんか!」
「異世界に行きたいといったのは君だ」
ぐっ……それは確かにそうなんだけど。
異世界に行くことはあきらめたほうがいいのか? けど、せっかく目の前にあるチャンス、みすみす見逃すなんてもったいない真似はしたくない。
……そう、そうだよ。万が一死にそうになったら、その瞬間に帰りたいって願えば、発狂したり、トラウマができたりはしないんじゃないか?
「それでどうだ? 君の願い事が叶い、満足したか?」
冗談じゃない、こんなんで満足できるわけがない。
ちょっと厚かましいかと思ったけれど、僕は魔法使いに尋ねた。
「なあ、魔法使い。もう一度異世界に行きたいと願えばまた連れて行ってくれるのか?」
「それは構わんが……まだ異世界に行きたいのか?」
当たり前だ、このつまらない世界にいるぐらいだったら、どこか面白い異世界に行きたいだろう。この魔法使いはなぜその気持ちが分からないんだろう。
きっとこの魔法使い、人を異世界へ連れて行くことができるくらいだ。自分が他の世界へ行くことなんて朝飯前なのだろう。それで、自分自身はいろんな世界を渡り歩けるから、この世界に居続けることのつまらなさを知らないんだろう。
そう納得することにして、僕は魔法使いの質問に返事をした。
「うん。けど、今度は僕がつぶれたりしないような、異世界を頼むよ。それできちんと生き物もいるような」
「ふむ……まあ、異世界に召喚させることくらいそれほど難しいことではないからな。よし、いいだろう。次はこの地球と同程度の重力のところでよいのだな」
「うん。それでお願いするよ」
「わかった。それでは行くぞっ!」
そう言うと同時、再び僕の体は光に包まれた。
光が収まると、今度は、僕はジャングルの中にいた。時刻は夕暮れなのか、辺りは薄暗い。目の前には、見たこともない草木が生い茂っている。そっと下に生えている草を抜いてみたが、自分が14年間生きてきた中では一度も見たことがない草だった。
周りをきょろきょろと見回したが、先ほどの魔法使いもどこにも見当たらない。どうやら本当に異世界に来れたみたいだ。さっきみたいに突然体が重くなって地面にたたきつけられるなんてこともない。
「……ここからが、本当に僕が望んでいた異世界というやつだな……楽しみだ! やるぞー!」
僕は、これからの自分を鼓舞するように叫んだ。
その途端、空から音がした。翼をはためかすような音。
ふと、空を見上げると、まるでカバが羽をつけたような、とても大きな口をした動物が向かってきた。
「……え?」
そうつぶやいたと同時、僕はその動物に飲み込まれた。
ぐちゅりとその動物に腕をかみ砕かれたところで、僕の記憶は途絶えた。




