打ち上げ花火
「ある種爆弾だよね」
会場のアナウンスが告げる着火前の玉の大きさ、そして重量に感嘆して月子が言った。
そう、華麗なる爆発は夏の風物詩。例年高校時代の仲間と自転車で落ち合って、河原のサイクリングロードで好き勝手に酒盛りをするのが定番だった敦士だが、今年は奮発して至近距離の有料観覧席のチケットを押さえた。月子と付き合い始めたし、たまたま広報誌をみていたからラッキーだったと敦士は照れたが、胸のなかにはもうひとつの思いがあった。
春に敦士の祖母が他界した。街道ぞいの旅籠から料理屋へと変わった家の長女であった祖母は、幼い頃からその日は親戚縁者を集めてのもてなしに忙しかったと言う。その催しは祖母の弟である料理屋の主が十年前に亡くなるまで続いていたから、幼い敦士も親族の大人たちに紛れてご相伴に預かった記憶がある。
「あの大きな音を聞くともうな、お祖母ちゃんじっとしていられんのよ。あっちゃん真下に行ってみられ。ええよ」
節くれだった指が見舞いに来た敦士の手を意外と強い力で握ったのは、昨年夏、祖母の住む町でテレビ中継があった翌日のことだった。
「お祖母ちゃんこそまた見に行けばええが。来年は俺が連れて行くけえ」
あの頃すでにもう長くはないと伯母から聞かされていたから、出任せで口走ったのだが後悔はしていない。感傷になど浸りたくない。あの祖母を夢中にさせた間近の臨場感というものを知りたいだけなのだと反芻して、敦士は前を見る。やがて一発で空を明るく照らした打ち上げ花火は、まさに職人技の賜物だった。この一瞬のために心血を注がれた大きな大きな瞬き。バラバラと豆を撒いたような音とともに、色とりどりの火の粉が明滅しながら頭上に落ちてくる。シュルシュルと垂直に打ち上げられては弾け、またひとつ上がっては弾ける。間近だからこそじかに胸を揺るがせる破裂音は、大太鼓の暢気さではなく、月子の言うとおり、鉄の砲台を思わせた。
高揚して敦士の手を引き寄せて握ったのは月子の白い手だ。
「めちゃくちゃ大きい」
黄色い声を張り上げた彼女の瞳にさまざまに彩られた灯が映って見える。敦士は嬉しくなって顔をくしゃくしゃにして笑った。




