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とある吸血鬼始祖の物語(サーガ)  作者: 近々再投稿始めます
第三章 三界大戦
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三界大戦 蠕動編 その6

「それにしてもシャンレイ、護衛の方々を撒いて良かったのかしら?」


 竜の瞬きでドラゴンステーキ以外にもサラダやスープ、魚料理に始まりパンなど。

 言わばコースを単品で頼む形で味わった後、三人は支払いを済ませるや否やシャンレイの護衛を撒いて商い場に来ていた。

 

「どうせ何時ものことだもの。それより、まだ日が暮れるまで時間はあるのだから、露店通りでも冷かしましょう?」


 このお転婆姫はと、自身を棚上げしてメリルは目眩を覚える。

 不審な人物はそもそも厳重な検問で入れないとはいえ、何が起こるか分からないというのに。

 といっても、メリル自身並の冒険者以上の実力を自負してるのは勿論、レティーシアの力量を越してその身をどうにかするなど考えられはしないのだが。


「しょうがないですわね……でもどうして露店通りなのかしら? 正直、品質や正規品を求めるのでしたら、高級店の方が確実ですわよね?」


 商店街の風下、王城から離れた位置にある通称“露店通り”に並ぶ質の低い品々を眺めながらメリルは言う。


「うん、安定性は勿論、不良品だって混じってるのがここだけど、私が見つけたいのは所謂掘り出し物だから。上の店だと、良い物はあっても、ソレ相応の値段がするじゃない?」


 つまり、良い物を安い値段で欲しい。珍しい物が見つかればなおよしだと、そういうことらしい。

 その身分を考慮すれば、自由に出来る資金は多いだろうし、シャンレイ自体既に稼ぎを得ている筈。

 だというのに、この妙な庶民じみた勘定論はどこで身に着けたというのか。

 メリルもレティーシアもお金に不自由しない身がゆえに、少々理解できなかった。


「まぁ良いのではないか? 見たところ、この辺りの露店は魔法系の品や武具関係が多そうであるしな、。妾も中々楽しめそうだ」


 長く生きすぎたせいか、気づけばコレクター的性分が染み付いたと気づいたのは何時だったか。

 ヴェルクマイスター城の宝物庫はそれこそ宝の山となっている。

 実際、どういう原理かは不明なれど、果て無き地平線のインベントリに眠るアイテムの数々を一番喜んでいるのはレティーシアだったりする。

 

「はぁ……仕方ないですわね。それでは、日が暮れるまでの時間だけですわよ。それ以上は流石に城の方々が可愛そうですもの。それで欲しい物は決まってるのでして?」

「特に決めてるってこともないけど、魔力伝導の高い装備品か、触媒とか増幅器があれば嬉しいかな?」

「それでしたら、もうちょっと奥まで行った方がいいですわね」


 三人とも頷き、雑多な露店通りを進んでいく。

 こちらは上より一層人が少なく、常ならあるような客引きの声がけは殆どない。

 それでも裕福な者が住む帝都だからか、少ない客は客なりに色々を買っていくようだった。

 メイン通りから一本外れた幾分入り組んだ通りに入れば、今までとはちょっと雰囲気が変わる。

 メリル曰く、この辺りは禁制品やそれに近い品、危ない魔法品、盗品から始まり表に出せない装備品などを扱っている場所らしい。

 と言っても必要悪なようなもので、この場所に禁制品や盗品その他を集めることで、これ以上の流通を抑える目的である。

 締め付けるから漏れ出すのであって、あえて小さいながら場所を提供する手腕は、大都市なら比較的良く見る方法だ。


「レティもシャンレイも気をつけるのですわよ? この辺りは流石に帝都の中で最も治安が悪いですから。油断していると奴隷商に捕まったり、物盗りにあいますわよ」

「そのような下郎がおれば、塵に還してくれようぞ。それにしても、一つ道を外れるだけで随分嫌な匂いが鼻をつきおるな……」


 後ろめたいこと、人には言えない物、そんなことが常時行われている場所は陰の空気ともいうべき、重く湿った大気が溜まる。

 ここは帝都のそういったものの掃き溜めと差し詰め言ったところなのか、普通の都市と比べてもその匂いとも呼ぶべきものが濃い。

 メリルの口にした通り、この場所は安全とは言えなさそうだとほんの僅かに警戒レベルをレティーシアが引き上げる。


「…………」

「シャンレイ?」


 ふと、足並みが遅く、あまり顔色の良くないシャンレイに気づきメリルがいぶかしむ。

 

「この空気に当てられたのであろう。メリル、そなた仮にも冒険者に置く身だが、この者は違うのであろう? このような場所は初めてなのではないか」


 こくこくと頷く姿に、てっきりここには来たことがあるのだと思っていたメリルが苦い顔をする。

 確かに言われてみればそうだろう。

 こんな場所、いくらなんでも護衛の者達が許すはずも無い。

 撒いたと言っても、それはレティーシアが居たからこそ出来た芸当で、今までは必ず監視の目があった筈だ。

 だからこそ、今頃王城は騒がしいのだろうと思うと、二重の意味でまずったかしら? と、メリルの眉間に皺が寄る。


「そう不安そうな顔をするでない。いざとなれば、妾が如何様にもしてみせるゆえな。それよりシャンレイ、これなんか良いのではないか?」

「これは短剣、でしょうか? 随分と嫌な空気を纏ってますが」


 深々とローブで顔を隠した小汚い露店、その敷き布におかれた一本の儀礼式の短剣をレティーシアが指差す。

 刃渡り三十センチ程度、特殊合金製だと思われる独特の金属光沢。

 なにより刃に彫られた夥しい呪文の数々は、その短剣が魔法的一品であると示している。

 値段も相応だと思えば、書かれた値札はなんとたったの共通金貨で四十五枚。

 一般的には高いと言える値段だが、魔道具としては破格だし、何より戦闘に耐えうる物ならこの数倍は珍しくも無い。


「良い目をお待ちだ、お嬢さん。この短剣は非常に強力な効果を持つんだが、どうも呪いも一緒に掛かっててね。今は封印符で抑えているが、一度剥がれれば、持ち主どころか周囲の生命力を簒奪する魔剣の一種さ」


 しげしげとシャンレイが装飾を眺めていると、店主と思わしきそのローブを着た人物が短剣の秘密を語りだす。

 曰く、精霊との交感を高め、周囲の魔力を簒奪し術者に提供する一級の魔道具であるとか。

 しかし、何時からかその効果が歪み、際限なく魔力を収奪する魔道具に成り果ててしまったと言う。

 本来の効果を発揮できれば、共通金貨にして千枚は下らないが、今じゃさっさと売り飛ばしてしまいたい厄介な品らしい。


「ではそれは妾が引き取ろう。代金もこれでよかろう」


 ゆったりとした袖口から現れる古びた皮袋。

 その口を傾けると、エンデリックで使ったゲーム内通貨を換金して手に入れた共通金貨が零れ落ちる。

 数にしてきっかり四十五枚渡すと、封印された短剣を受け取った。

 本来の価格よりずっと安いとはいえ、ちょっと魔法を齧れば修復など到底無理だと分かった筈。

 いったい何が目的なのかは不明だが、決して安いとまでは言えない金額を迷うそぶりもなく支払った事に店主がたじろぐ。

 

「さて、次の店へ向かうとしよう、メリル、シャンレイ」


 用はないと、その場からさっさと歩き去っていく後を追う二人。

 薄暗い路地は饐えた匂いが漂いメリルとシャンレイの顔が歪む。

 歩き出して一分もせずに、レティーシアが一件の露店の前で歩みを止めた。

 その視線の先にあるのは一つの宝珠。青紫にの拳大のソレは鈍く発光し、先の短剣と同じく封が張られている。

 張られた値段は共通金貨で八十四枚。短剣の倍近い値段だが、それも皮袋より取り出した同数の金貨でさっさと支払ってしまう。

 その後も何件か店を回り、時間にして一時間と少々、品数にして四点程買い込んだ時点でレティーシアは二人を連れて表通りへと戻ってきた。


「レティ、そろそろどういう事か話してくれてもいいんじゃありませんこと?」

「そうですよ! 結局私が欲しい物は買えなかったばかりか、なにやら曰く付きの魔道具マジックアイテムばかり購入して……」

「直に分かる。今日はもう宿へ戻るぞ。シャンレイもまだ時間はあるのであろう? 少し付き合っていくがよい。面白いものを見せてやろう」


 そう言うや否や真っ直ぐに貴族専用の宿屋でチェックイン、レティーシアへと宛がわれた部屋のテーブルに三人が腰を掛ける。

 上に置かれたのは買った四つの魔道具。

 短剣・宝珠・邪竜の心臓、そして魔神の瞳。

 唯一魔神の瞳だけが呪い的効果を持ちながら、共通金貨にして三百八十枚と破格の値段であったが、それ以外はどれも金貨百枚たらず。

 それでも合計およそ金貨五百枚。平民なら三年は暮らせる金額だ。


「さて、そなたらも気づいておろうが、この四点は本来強力な力を持つ魔道具だ」

「それは分かりますわ。でも、正直どれもまともに扱えるものではないですわよ?」


 どれをとっても制御するのはおよそ不可能の近い。

 あえて言えばニアSクラス程の者ならあるいは、と、そんなところだろうか。


「使えぬなら、使えるようにすればよかろう?」

「……えっ?」


 事も無げに言われた言葉にシャンレイが目を丸くさせる。

 今、この人物はなんと言ったのだろうか?

 英雄クラスですら扱えるか分からない呪いの魔道具、それを使えるようにする?

 

「疑っておるな? ふん、まぁ無理もない。だが、己が出来ぬからと、他者もまた同じだと考えるのは実に狭量。現に妾にとってはこの程度、欠伸が出る程に容易い、“解呪”」


 言葉通り、退屈そうに呟かれた二文字。

 たったの二文字でありながら、現れた効果は実に絶大だった。

 どの品からも漏れ出ていた不吉な威圧感は失せ、感じられるのは力強い魔力のみ。

 何が起こったのか、メリルもシャンレイも理解出来なかった。

 いや、唯一シャンレイだけはその真実の欠片に感づいていたが、あまりに現実離れした内容に理解を拒絶してしまっていた。


「い……いま、今、何をして――」


 震える言葉で尋ねるが、返ってきたのは鼻で笑うように小さく笑われるのみ。


(高度な精霊魔法? いいえ、違う。そもそも、あんな短い詠唱でこんな馬鹿げた解呪なんて英雄にだって無理。というか、今のは本当に魔法なの? 確かに精霊の動きは一瞬感じたけど、あれはまるで、何かに“怯える”かのような……)


 思考の海に囚われ落ちそうになった瞬間、ふとレティーシアとシャンレイの視線が交わる。

 瞬間、ぞくりと、背筋が凍ってしまうのではないかと思うほどの悪寒が突き抜けた。

 美しいその容貌は無表情ながら、まるですべてを見透かすかのように黙ってこちらを見つめている。

 先ほどまでの、少し小馬鹿にしたような様子も、苦笑するような表情も、何もかも感情を削ぎ落とした“無表情”。

 一瞬で喉がひりつき、汗が一筋頬を伝って流れ落ちる。

 煩いくらいに心臓が脈打ち、訳も分からず視界がぐるぐると彷徨う。

 

「メリルからは自分とは比べようもないくらい優秀だと聞いていたが、成る程、話はまことであったらしい。その洞察力、精神力、いずれも年齢に見合わぬ熟達したものよな」


 レティーシア程熟達した術者、武芸者にもなれば、相手がどのようなことを考えているのか察するのは難しいものでもない。


「報告は聞いておるのだろう? 推定Sランク級、あるいはそれ以上の人の形をした何者かと」


 そう言われてハッと思い出す。

 目の前の人物は、その報告書やメリルからの報告で人ならざるものだと判明している。

 人間の限界領域はおおよそSランクとされているが、もし彼女が人間ではないのだとしたら?

 そもそも年齢だって怪しいものだ。見た目こそ十代前半だが、人外なら誤魔化すのは難しくもない。

 今更になって危機感が募っていく。彼女、レティーシアがその気になれば、今この場で自身を殺害することなど訳ないだろう。

 急速に忍び寄る恐怖に、顔から血の気が引いていく。


「安心するがいい。そなたに危害を加えるつもりはない。そもそもこれらの品々は純粋に、シャンレイ、お主へのプレゼントであるからな。探していたのだろう? 武器を、増幅器を、触媒を。ゆえに見繕ってやったまでよ」


 が、それすら見通してレティーシアは告げる。

 そう言っても戸惑いは隠せない様子に、メリルが仕方ないわねとごちる。


「レティ? あんまりシャンレイを苛めないで下さいませんか? 私にとっては少ない友人ですのよ」

「いやなに、メリルが言う才媛が如何程いかほどかと思うてな」


 そこでようやく威圧的な空気は元に戻り、その顔も無表情から薄っすらとした笑みへと変わる。

 正直思い出すだけで震えがきそうであったが、レティーシアにも悪気はないと理解し安堵する。


「とりあえず今日はここらで解散するのがよかろう。その四点はくれてやるゆえ、持ち帰るがよい。それともしその気があるのであれば、今起きてる案件が片付いた後に妾を尋ねるがよかろう。そなたであれば、“魔術”を教えるのも面白そうだ」

「……魔法ではなく、魔術?」


 思わず聞き返すが、薄っすらと笑みを浮かべるだけで返事はない。

 色々と聞きたいことは多かったが、致し方ないかと静かに宿屋を後にする。


 ――――城に戻った後、護衛隊長や女王陛下達からお叱りを受けたのは必然であった。


後書き


起床したらまとめて感想返しを行わせていただきます。


流石に仕事から帰宅して数時間で一気に書き上げるのはきつかった。

かなり荒い仕上がりですが、暫くは頑張ってみよう。


もしよろしければ、お気に入りや評価入れといてくれると嬉しく思います。


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