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とある吸血鬼始祖の物語(サーガ)  作者: 近々再投稿始めます
第三章 三界大戦
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三界大戦 胎動 了

 その瞬間、確かにその身に積まれたAIは勝利を確信していた。

 プラズマブラスター。正式名称、遠距離殲滅投射砲四型。

 砲身内でイオンが凄まじい速度で衝突しプラズマ化、生成された酸素が電離と熱上昇を発生させ、砲身内でエネルギー値が上昇。

 更に局地的重力形成システムによりエネルギーを球形に整え、それを電磁投射砲レールガンと同じくする仕組みで投射。

 音速を遥かに超えた速度で目標に着弾し、圧縮されたプラズマ弾が肥大爆発。周囲一帯で電離現象を発生させ広域プラズマ化。

 その熱量は実に数十万セルシウスに及ぶとされる。対象をその熱量により物理的消去を試みる広域殲滅兵器である。


 味方毎であったが、確実に命中したのをAIは確認していた。センサーにはプラズマが吹き荒れる中でもしっかりと、その肉体が蒸発し気化するのを見届けている。

 想定されていた原住民の戦闘能力を大幅に上回っていた事ではあるが、既にその戦闘データ毎本部に転送されている。

 後は呆然とし、片腕を斬り飛ばされたことで我に返り反撃を開始したもう一人の人型生命体。

 その殲滅さえ完了すればなんら問題はないと決定付ける。その後はそのまま探索任務を続行すればいい。

 再びプラズマブラスターをチャージさせていく。優秀な殲滅兵器ではるが、膨大なエネルギーを必要とするため、巨大化した銃身内には中型のLHC――Largeラージ Hadronハドロン Colliderコライダー――が搭載されている。

 そこから必要エネルギーを生成し、それをプラズマに転換し砲を生成するまでに時間を要し、更には凄まじい反動の為場を動けないのも欠点だろう。

それでもその威力は折り紙つきであり、反動も人外の膂力を誇る彼女達には意味をなさない。


『プラズマブラスター、チャージ三秒前…………ッ!?』


 瞬間、センサーにあり得ない反応が映りこみ、AIにあるまじき動揺が手元を狂わせる。

 数度角度がズレた砲身はアリシアに命中せず、その百メートル先に着弾。

 吹き荒れる爆風の余波をアリシアはエネルギー斥力場で弾き、二体のシーカーが高速で場を離脱。

 同時に全AIがセンサーの異常を感じ取りそちらを注目する。

 空間の揺らぎが発生し、そこから信じられない程の高エネルギー反応。

 それはまさしく、先程レティーシアが消滅した場所であった……




 まるで時間が時計を逆回しにするように、その現象は目の前で起きた。

 最初に突如出現したのは心臓である。ドクン! ドクン! と脈打つ心臓はその度に膨大な血液を地面に吐き散らす。

 今度はそれが意思を持ったかのように動き出し、ある筈のない血管を巡るように動き出す。

 そこから心臓を中心にあらゆる器官が名状し難き様子で再生を始め、骨が生まれ、筋繊維が絡みつき、皮膚がその表面を覆いつくす。

 一糸纏わぬ姿は美しく、白に近い白銀の髪が風もないに宙に揺らめく。

 胎児のように丸められた四肢が地に着き、閉じられた瞳が震えてやがて見開いていく。

 最後に指がスナップと共に踊り、なった音が掻き消える頃には黒を基調としたゴスロリ調の衣服が肌を隠す。

 なんと表現すればいいのか。再生? 復活? いや、あえて口にするのならそれは誕生と言う思考を相手に抱かせる。

 高位の吸血鬼が持つ完全自動蘇生能力パーフェクトリバイブ。レティーシア達ですら、その根源や手順など明らかにされていない未知の能力。

 呪いにも等しく、不死者と呼ばれる所以でもあるそれにより、レティーシアは復活してみせた。


「うむ……やはりこの蘇生法は好かぬ。イデアのバックアップのせいか、消滅時の状況まで記録として脳にあるゆえ、どうも気持ち悪くて敵わぬ」

「レティーシア様、あまり悪戯しないで下さいませ。心臓に悪いですよ」

「なに、足止めをしてまでの一撃がどの程度の威力か気になったのでな」


 そう口にし三体の機械に顔を向ける。そこに先程まで浮かべていた楽しげな、何かを期待するような色は既にない。

 本来の無表情に近い、氷のような、人形にすら思える怜悧な表情。

 

「プッテホトラ程の力はやはりそう出会えるものではないか……そろそろ妾も飽いた、すまぬがこの茶番劇も終わらせてもらおう」


 瞬間、飛来した銀色の物体はしかし、途中から勝手に進行方向を曲げて飛んでいく。

 更に放たれた荷電粒子砲も同じ結果を辿り、レティーシアが軽く手を握る動作をすれば、三体の内の一体がメキメキと異様な音を放ち出す。


「む? 存外圧に強い構造をしておる」


 微かに笑い。更に強く拳を握り締めれば見えない拳に握りこまれるように、不快な金属音を奏でながらその肉体が球状に圧縮されていく。

 時間にして数秒も経たずバスケットボール程の大きさになった金属塊。

 吸血鬼の先天的能力のESP、そのサイコキネシスによる力によって次々と金属の塊に変貌していく。

 先程の防御もサイコキネシスによるものであり、結局は魔術も膂力も必要などなく。その程度で殲滅可能な相手であった証拠である。


「空間の歪みも既に収束しておるか、これでは“向こう”を特定するのは面倒であろう。致し方あるまい、そろそろ学院にも話しは上がっているだろうて。妾達も学園に戻るぞアリシア」

「畏まりましたレティーシア様」


 指を鳴らし転移陣を発動させようとして、物的証拠の一つや二つあった方がいいだろうと思いなおす。

 金属塊の成れの果てを一塊、そして落ちていた小型の電磁投射砲を異空間に仕舞いこみ、今度こそパチンッ! と軽やかな音が響けばそこに二人の姿はなかった……







「ふーむ……俄かには信じられぬ事じゃが、アレを見せられては信じぬ訳にはいくまい」


 そう言ってエンデリック学園、学園長が苦々しく溜息を吐き出す。

 既にエレノアから一部始終の話をされていたとは言え、レティーシアの報告内容は目を疑うものであった。

 異世界からの侵略云々、そこはまだいい。実際空間の歪からそれらしい世界も観測されている。

 問題は魔術によらない、恐らくはゴーレムだと思われる一種の人造生命体の戦闘能力がSランクを超えていると言う事だ。

 記録媒体から密かに撮影された動画には、その人造生命体が使う兵器の威力が一部映っている。

 更に報告にある音速領域での行動能力と合わせれば、少なくとも人族での太刀打ちは困難極まりないと学園長は独自に判断していた。

 更に言えば、今回現れた人造生命体は都合四体。しかし、人造であろうと言うことは即ちその生産方法が確立されていることに他ならない。


 そのコストが如何程であるかは知る由ところではないが、少なくとも異世界に手を出そうと言うのだ、最低でも大規模なバックがついてる筈である。

 そうなると資金や資材も豊富であろうことから、人造生命体が四体だけしか存在しないと言うのはあまりに早計。

 妥当に考えるのであれば、先の四体は偵察任務を兼ねた先遣隊と考えるべきだろう。

 そうなれば少なくともその総数は数倍から数十倍、最悪数百倍以上を予想しなければならない。 

 そんなのが攻め込んで来た場合、なんの対策もしていなければあっと言う間にこの世界は呑み込まれてしまう。

 準英雄級の実力を有する学園長ですら、一対一、正面からでは人造生命体から勝利を得るのは難しい。


「とんだ災難じゃわい……老体の心臓が悲鳴で停止してしまいそうだわ!」

「ハンッ! そんな柔な心臓をしておる訳でもあるまい。とりあえず報告は以上だ、報酬はしっかり払ってもらうぞ? なんなら一時とは言え退けたのだ、追加報酬をもらってやっても構わぬぞ」


 大げさな仕草で心臓を押さえ、よよよよ……などと喚く学園長をバッサリ切り捨てる。

 長い生での経験が、間違いなく目の前の老体が食わせ物の狸だと告げている。


「まぁ、どちらにせよこれはワシの手に。いや、エンデリック学園の手に余る案件なのは間違いなかろう。恐らくデルリフィーナ帝國に報告後、そのまま国家機密扱いなる筈じゃ」

「ふむ、妾達にも緘口令かんこうれいが布かれると考えられるな」

「間違いなかろうて。じゃが報酬が反故にされることはなかろう、今回の任務は間違いなくAランク以上のものであった。Sランク以上として処理されるのは間違いないじゃろう」


 Sランクとまで行けばその報酬も膨大なものになる。金銭での報酬も多いが、ここまでくれば信用のおける手形での支払い、もしくは希少なマジックアイテムなどの現物支給の場合も多くなる。


「まぁ、その辺は後で決まり次第わしから知らせるとしよう。にしても、相当な実力だとは睨んでおったが、真祖とはかくもレベルが違うものなのかのぉ」


 報告時のエレノアの、レティーシアに対する態度からも真祖に列する存在なのは間違いない。

 だが、本当にそれだけなのだろうかと学園長は思っていた。

 確かに真祖は最低でもSランク以上の実力を有しているとされるが、表の歴史に出てこないこともあり存在自体が広く知られていない。

 それが堂々と学園で生徒の真似事をしているのは、いささかに奇妙なことであった。

 だが、もしその実力者が今回の件に手を貸してくれると言うのであれば、非常に心強いことだろう。

 が、それは帝國次第だろうとも考えていた。己からその正体を暴くつもりは学園長にはない。


 少なくとも危険な存在ではないだろうし、何より彼女はエンデリック学園の生徒だ。

 基本放任に近いスタイルの学園だが、それでも生徒を貶めるようなことや、見捨てるようなことは決してしない。

 冒険者時代、仲間との信頼、絆が窮地において命を救い上げるということを知っているからだ。

 その結果、大成した冒険者からは寄付金も多く寄せられており、重要な時はその力だって貸してくれる。

 育成機関としては元より、そう言う面も含めてエンデリック学園は大陸でも随一を誇っているのだ。


「さて、それでは生徒レティーシア。今回はまことにご苦労であった、数日の公欠を認めるゆえ、暫しの休息をとるのがよかろう。生徒エレノアも同じ処置とする」

「ふむ、了解した。では妾はいくとしよう」

「失礼致します!」


 レティーシアがソファーから立ち上がると同時、エレノアが先んじてまるでメイドの如く様子で扉を開けて頭をたれる。

 厳格な実力社会であり、縦社会である吸血鬼の一族だが、それにしたってエンデリックの地でその様子は異常と言えるだろう。

 第一、エレノアは真祖ではないが、それなりに濃い血の持ち主である。それが瞳には尊敬が込められ、行動には強制の痕跡もないときた。

 二人が出て行った扉を眺めつつ、再びレティーシアが何者であるか自問するがすぐに思考を振り払う。

 生徒であるのは無論、どうも藪を突けばヘビどころか、とんでもないものが飛び出そうな気がしたのだ。

 ふと、手が小さく震えていることに気づく。それは未知なるものに対する恐怖心であり、珍しく隠されていなかったカリスマによる影響でもあった。


 老骨の身でありながら、その下で働ければどれだけの至福であろうかと想像してしまったのだ。

 それはとても甘美なものであり、一瞬己が魅了チャームに掛かったのではないかと疑った程である。

 実際吸血鬼が有する魔眼にはそのような効力があると伝えられているが、コンディションと呼ばれる状態察知の魔法に反応はなかった。

 数度拳を握れば震えは収まるが、同時にこの枯れた手がもっと艶を帯びていた頃であれば、彼女の隣を歩けただろうかと考えている己に気づき、これは重症だと思わずしわがれた声で笑う。

 一頻り笑い、ようやく落ち着いた頃に通信の魔道具を取り出す。相手はデルリフィーナ帝國宰相。


 学園長の冒険者時代の仲間であり、友でもある男であった…………






後書き


お久しぶりです。こちらは更新していませんでしたが、執筆そのものは復活しています。

こちらの更新ももう少し増していければと考えてはいるのですが、いやはや浮気性な作者で申し訳ない……


最近は書き出せば進むのに、そこまでもっていくのが大変でして。

気晴らしに流行のデスゲームVRMMOモノまで執筆投稿しだす始末。

ただまぁ、そちらは更新停止を想定しての気晴らしに対し、こちらは更新停止の予定がないので、遅れても更新そのものはしていきます。


それと、遅れましたがあけましておめでとう御座います。

読者の皆様の新年がよい年でありますよう、作者、心よりお祈りいたします。

また、今回成人式を迎えた皆様におかれましても、心からお祝い申し上げます。

きっと実感は薄いことかと思いますが、一つの節目となればそれ以上のことはないでしょう。


長話となってしまいましたが、こんな作品、作者でもよければ感想評価、心よりお待ちしております。

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