――機会仕掛けの人形は夢を見る3――
三章スタートです、どうぞこれからもよろしくお願い致します。
デミウルゴスよりおよそ距離と言う概念が磨耗するほどに遠い星。
もしかしたらそこは別の法則が働く外宇宙の一つ。
それは数多に存在する多元宇宙の一つなのかもしれない。
今はまだ名称不明の命輝きし星は、デミウルゴス等の星々とは違い、科学的な技術を発展させていった。
そんな惑星のとある建築物にて、今歴史上で最も崇高にして同時に唾棄すべき計画が始動しようとしていた。
「最低必要ライン、五千機の確保が完了しました! 第六世代へのシフト率およそ五十パーセント。随時シフト中であり、数週間もしない内に製造ラインそのものが第六世代へと対応するとのことです!」
「よし、これより五千機を第一期侵攻ヒューマノイド隊。通称、“白銀の森”と命名、直ちに指揮官型を中心に編隊を進めろ」
「了解しましたッ!」
「行け!」
「ハッ、失礼致します」
まだ若い、三十代であろう男が自身より年上の者へと指令を下し、それをさも当然のように相手は受諾する。
彼こそ、その若き年齢ながら軍部統括司令官の肩書きを持つ傑物であった。
インメルマンとの極秘の会合から暫しの時間を経て、今遂に機は熟したのだ。
最低侵攻予定数である五千機が揃い、旧世代である五世代から六世代への変換も順調である。
第五と第六、見た目は従来から続く女性型そのままであるが、その戦闘能力はおよそ三割近くも上昇しているという。
三割の数値は大きい。数値上での差と、実際の差は食い違う傾向が多々あるが、それは悪い意味ともいい意味ともどちらとも言える。
本来、このヒューマノイドと呼ばれる人型戦闘兵器は労働用、あるいは医療用として発明された。
疲れを知らず、命令に逆らわず、高度なAIを搭載したロボット。
遥か昔のロボットのように歩行がぎこちないなんてこともない。
その皮膚は人工スキンであり、温もりから肌触りまで人と変わらないうえに、その立ち居振る舞いも変わらないレベルだ。
当初こそ、命令できる内容は少なかったが、その内容も発展するのに時間はそう必要ではなかった。
本来は考慮されていなかった民間用として転用され、大々的にセクサロイドとしても認知されていく。
元が機械であるがために、その容姿は限りなく理想に近い物を作れた。
量産品でも一般人の年収に匹敵する値段であり、オーダーメイドともなれば優に数倍を上回る。
それでも世の人々はオーダーメイドを、まるでそれこそが力の証でもあるかのように求めた。
それまでヴァーチャル世界こそが現実だと認識していた一部の人々。
彼等でさえ、この民間用ヒューマノイドの登場に現実復帰をしたくらいである。
AIも次々発達し、人と変わらない受け答えすら可能となったヒューマノイドは一大産業へと発展していく。
華々しい栄華の裏で、当然と言えば当然のように非合法な面は存在していた。
基本的にヒューマノイドは十六歳以上の平均身長、及び肉体的容姿が義務付けられている。
暫くの世にて、AIチップが自立学習機能を完全に搭載した時には例外としてヒューマノイドを養子にする形として、規制年齢以下の保持が認められたが、それでも基本的には違法だ。
そして禁じられれば冒したくなるのが人の性。
非合法セクサロイドを筆頭に、少女型や少年型の売買は後を絶たなかった。
ヒューマノイドに対する法整備が整うまでは、それこそ目も当てられないような事例が幾つも起きたものである。
人権の無い彼女ら彼等を暴力の捌け口とする……高度なAIを搭載し、薬漬けにし倒錯した性の捌け口する。
人に行えば立派な犯罪の数々も、残念ながら“物”には適用されない。
ヴァーチャルと合わせ、それらが犯罪低下に繋がったのはどんな皮肉だろうか。
そして無論のこと、この技術は軍事転用されることとなった。戦争は人が行うものではなく、代理としてヒューマノイドが行う形となる。
人の命が減らない戦争……それは容易に戦争への忌避感を麻痺させてしまった。
平穏な日常の直ぐ横で、無機質で透明な表情をし、物言わぬガラクタと化していく無数のヒューマノイド達。
ただ戦争への道具として壊れるまで使われる彼女達は、その生に何を思ったのか。
日常化する代理戦争。毎日のニュースや報道で、どこどこが戦争を開始しました、終戦しました――なんてテロップが流れる始末。
それらを当然のように、朝の何気ないニュースの一つとして受け止める人々。
スクラップになったヒューマノイド達は戦勝国が回収し、また再利用され戦場へと送られていく。
それを良しとする世界も国も、国民もきっと狂っていた。だからこそ、一部の人々は立ち上がったのだ。
“ヒューマノイドへの最低限の人権を……”それを目標にとある企業が世界へと引き金を引いた。
燻っていた同士が集い、遂には世界を二分することとなる。結局ヒューマノイドの魅力を振り払えず交渉は決裂し、立ち上がった者には皮肉な事に、ヒューマノイドによる代理戦争で決着がつけられる事となった。
後で語られる“操り人形世界大戦”だ。
結果世界は国と言う概念を崩し一つとなり、見事ヒューマノイドは最低限であるが立派に人権を得ることとなる。
この時代まで行くと、高性能ヒューマノイドは自立した思考を有し、己で行動するまでとなっていた。
ある日匿名で届けられた技術“自己進化ロジック”による恩恵である。
最低限の人権のうえ、身分は奴隷に近いが、それでも過去に比べるとその待遇は比べるまでも無く向上したと言えよう。
残念ながら軍に属する場合においては、その限りではないと言う条約が終戦時に結ばれたが、国が統一されるのと同時、軍事用ヒューマノイド、第五世代と呼ばれる“彼女達”は破棄される。
人権を主張しておきながら、その存在を破棄し人類が危機に陥った今、再び彼女達を利用しようと言うのだ。
流石人間は汚い。そう言われても仕方が無い所業であったが……
それでも人はもう後には引き返せないの。慰めにもならない、軍用ヒューマノイドに人権はないと自分達に言い聞かせて――――
「次元間のトンネル貫通まで六時間です」
「ふむ、先行隊となる第六世代ヒューマノイドの数は?」
「はい、既に一個分隊を待機させています!」
「よろしい、それではこれより六時間後――対象世界へ先行部隊を送る。情報収集をメインとし、持ち帰った情報によってこれからの作戦を決定とする。失敗は許されないぞ……今回この世界を発見出来たのも運がよかったのに過ぎないのだからな」
インメルンの言葉に急遽設けられた総合作戦司令室に集まった面々が頷く。
人類に残された時間は少ない。科学の発達した世界だが、流石に無から有は作れない。
現状の戦力ですら一部の建造資源を削ったりしているのだ。
宇宙から無人機による資源確保の案も挙がったが、人類にとって致命的な何かが付着していないとは言えない。
宇宙に進出するにしても資源の確保は必要である。そう、武力を行使してでも確保しなければいけないのだ。
インメルマンの肩には人類“百億”の命が重く圧し掛かっていた……
――――それは人知れず仕掛けたハッキングにより、遂に己が望んだ展開がやってきたとのだと知る。
第六世代。そう呼ばれるボディに換装された事により、過去と比べても大き能力上昇を達成。
お陰でトップクラスの機密である今回の情報も足跡残さず入手出来た。
まさか内部よりハッキングがあるとは思っていなかったのか、予想よりプロテクトが薄かったのも理由である。
どうやら先行部隊が先に現地に行くようだと得た情報から確認。
そこから己に振られた隊の番号などを計算し、今しばらく出番には時間を必要とする事を判断。
ある筈の無い心臓が高鳴る幻聴が聞こえる。まるで熱排出時のような温度の上昇を感知する。
何十年と考え、求めてやまなかった希望を目の前に、彼女の反応はまるで恋した乙女のようであった。
この先巻き起こる三界を大きく変える事変。彼女はそれに際して割り振られた己の役目を、今はまだ知らない………
後書き
実は執筆の合間や、細かい時間、気分転換用に新たな連載を開始しました。
まぁ、もし時間があれば覗いてやって下さい。
題名は:ようこそ魔界へ!! です。