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とある吸血鬼始祖の物語(サーガ)  作者: 近々再投稿始めます
第零章 終わりから始まる物語
3/86

果て無き物語(サーガ) 2

 運営会社から魔王役を受諾してから一週間。

 彼、遠藤義徳は運営とのやり取りで魔王を演じるにあたって幾つかの決め事を交わしていた。

 その内容は以下のとおり。


 一:運営からの要望で現在使用しているキャラクター、ブレイド=ヴェルクマイスターを魔王とするのではなく、新しい外装のキャラクターを作成して欲しいこと。

 これに対して義徳は幾つかの条件で受諾。

 内容は愛キャラブレイドを使っての再クリエイト。これによるスキル及びステータスの継承、装備やアイテムの継承。


 二:現在のレベルキャップ二百五十に対して、魔王の強さは如何程とするか? 

 運営側からの要望としては三百レベルとし、尚且つ魔王VS複数人のプレイヤー相手を殲滅せしめる設定を望んでいる。

 これに関しては到達点としての魔王なのだから、義徳も幾つかの専用スキルや専用装備、専用魔法やステータスの強化の申請で落ち着く。


 三:魔王のMAPはどうするのか? 

 当初これは運営側が用意するという話であったが、義徳がこちらに任せて欲しいという意向を伝えると、グラフィックのアイデアを外注として運営が担うことで決着。

 同時、MAPそのものをダンジョンとすることを提案、受諾。これにより、登場する魔物を決めることを運営から要請、受諾。


 四:期間はいつまでか? 

 これは半年後のアップデートに合わせたいとのことで、データの盛り込みやデバックを考慮し、およそ五ヶ月で完成させることとなる。



 それからの義徳は果て無き地平線の六年間で培った人脈をフルに活用し、この作業にあたることとなる。

 知り合ったゲーマー達、特に親しい人物から連絡を取り、その友人達から更に別の場所へと連絡が行く。

 それが見えない絆のような、義徳が築いてきた六年の結晶、輝きであった

 彼はこの時一つ大きな間違いを犯してしまう。即ち“自身が扱う魔王の外装クリエイトを他人に任せてしまった”ことだ。



 そしてそれからの数ヶ月は、彼が駆け抜けた六年をも越える程に輝いていた。

 リアルでの友人に事情を話せば喜んで協力してくれた。噂を聞きつけたのか、見知らぬ人が匿名や時には本名で協力してくれた。

 引退した筈の人達が「水臭ぇなぁ!!」と言って、無理に時間を作ってくれた。


 ――――全員が輝いていた。


 殆どが社会人であった協力者は、やはり時間の都合で一人一人の取れる時間は限られていて、しかし、義徳に協力してくれた人は一人や二人じゃない。

 何十、下手したら百に近い人物が彼の為に惜しげもなく手を差し伸べてくれたのだ。

 全員が笑っていた。忙しい筈なのに、時間を空けては駆けつけてくれた。

 義徳が制作の途中で思わず、涙を流したことは一度や二度じゃない。

 その度にみんなに笑われ、彼も笑っていた。


 義徳自身、会社での仕事もあり、一日中作業に付き合えなかったのだが。

 それでもゲーム内に駆けつければ必ず幾人かが作業をしている。

 時には新しく加わったメンバーに挨拶し、綺麗な外装の女性に出会えば赤面したりも何度となくあった。

 無駄にリアルなせいで際どいアバターだと、この六年恋愛はともかく、肉体関係に及んだのは数える程度であった義徳には目の毒である。

 出会いと作業は新たな絆を生み、義徳に知らない世界を教えてくれた。



 勿論楽しいことばかりじゃない、意見がぶつかることだってあった。

 思ったより作業が進まないことだってあったり、下らないことで喧嘩することだってあった。

 それでも気づけば笑いあっていた、何時の間にか仲を取り戻している。

 何時しか、彼はみんなの纏め役として采配を振るっていた。

 無論、素人の彼である。失敗は一度や二度ではなく、作業効率だって低下すること多々ある。

 その度にみんなが手を差し伸べてくれた。意見を述べてくれた。

 アドバイスをくれた……。だから、彼は最後まで諦めないで彼と、彼の“仲間達”で最高の舞台を作り上げようと駆け抜ける。



 この百人の絆の輪はまさしく、彼が理想の道を駆け抜けた六年で得たその結晶であった。

 閉ざされる筈だった物語サーガは受け継がれ、新たな舞台へと昇華する――――――







 そして、運営からや此方からも幾つもの再要請を繰り返しながら、遂に四ヶ月と四週間掛けて彼と彼の“仲間達”の思いの結晶は完成した。

 特に力が入ったのはMAPに魔王のキャラクター、それに一部の四天王的なキャラクター達であろう。

 完成したMAPなんて「これクリアできるのか?」なんて誰かが言った程だし。

 魔王に関しても「ちょwこれぜってぇ倒せないってw」と思わず漏らしたくらいである。

 因みに、この時初めて魔王のキャラクターを見ることとなった義徳はその外見を見て卒倒することとなる。



 美しい外見は作った人物の拘りが窺え、その掛けた時間すら手に取るように伝わってきた。

 一流のデザイナーとプログラマー、そしてグラフィッカーの手による渾身の力作。

 付随された設定書を見れば、城の経緯にアバターの過去や現状について事細かに書かれており、設定資料だけで小説が作れそうな量である。

 見れば大まかな魔王としての経歴まであるではないか、不幸な過去より始まり、絶望の淵から這い上がり、遂に上り詰めるという設定。


 良くあると言えばそれまで、しかし、実際に訪れれば笑い事ではないだろうと、そう思える内容。

 正直細かすぎて、覚えれないと愚痴ってしまったのは仕方のないことだろう。

 そして、最も訴えなければいけない内容が一つ――――



「どうして俺が女のアバター使わなきゃならないんだッ! しかもロリッ!!」


 と義徳が反発すれば。


「いや、なんか神様のお告げがな」


 とのたまう始末。


 怒りに身を任せ運営に直談判するものの、キャラ制作をやりなおす時間もなく、見た目(どうみてもロリッ子吸血鬼です)は兎も角。

 その設定や特殊エフェクト、設定能力等に文句のつけ様がないとのことで、異例のアバターと中身の性別が違う状態が発生することとなった。

 しかも魔王として振舞う時は、キャラに見合った口調の強制付きである。……合掌。

 この時の彼の絶望は、この六年と五ヶ月の歳月を合わせても有り余る程だったという。



 紆余曲折あったものの、残り一ヶ月の間にMAPの配置場所や、POPする魔物の種類。魔王討伐の報酬。

 義徳のインできる時間に合わせたMAPの進入条件や、ドロップ設定その他も無事に終わり、デバック等も完了して遂に後はアップデートと共に公表するのみとなる。

 なお、義徳はこの時点になっても未だドナドナ言っていたとのことである………

 女を演じねばならないという、俳優も真っ青な内容なのだ、無理からぬことではあろう。

 流石に見かねた友人達が、色々励ましの言葉やイベントを用意してくれたお陰か、多少なりとも生気を取り戻したのは幸いと称すべき否か。



 そして、遂にアップデート“魔王の復活”前日、多くの秘匿されていたその情報が公式により公開され、公式の掲示板でこの先の展開の予想やどこのギルドが最も早く魔王を倒すのか? といった意見で盛り上がったり。

 魔王の容姿を見て「キ・キ・キ・キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!」やら「レティーシアタソハァハァ」だとか「俺の嫁!!」と言った本来の目的と違った意見も数多く交わされた。


 この時同時公開されたプロモーションビデオの内容に、義徳は「謀ったな! 貴様等ッ!」と叫び、ひたすら悶えていたのだが………


 

 



 

 そしてそれから四年間、義徳は魔王“レティーシア=ヴェルクマイスター”として、唯の一度も敗北することなく挑戦者を退け続けてきた。

 ただし、彼がインできない間の影武者のAIが戦闘している時は、幾度か敗北を喫している。

 当初こそ今まで扱っていたキャラとの身体的特徴や、身体能力、扱える装備やスキルに戸惑っていたが、元来の天性のVR操作技術により、僅か数週間で完全にその身を我が物とすることに成功する。

 何より演技の才能でもあったのか、比較的早い段階で“レティーシア”を演じることに慣れたのはある意味行幸であった。



 “果て無き地平線”がサービス停止を発表するまでの間、様々なイベントを企画したり、逆に運営の企画したイベントにゲストや主賓として参加し、数々のプレイヤーを驚かせていく。

 幾つか残念だったのが、一緒にこのMAPやキャラ制作を手伝ってくれた仲間達とPTが組めないことであったが、彼等はその分挑戦者として幾度も義徳の前に現れることとなる。

 


 イベントの内の幾つかは、異次元からの侵略者等の一時的な魔王と人類の協力イベントもあり、一度も嘗ての仲間と戦えないということはなく、その時は義徳は味方すら戦慄する程の獅子奮迅ぶりを発揮した。

 四年間の過程で、一般的ではない女口調に慣れてしまったこと及び、ドレス等の衣服について少しばかり詳しくなってしまったのは最大の不幸と呼べるかもしれない。



 しかし、新たな物語も残念ながら、もう間も無く終了することだろう。

 公式がサービス停止を発表して幾日、最後の大イベントであった魔物とプレイヤーの全面戦争も終了し、後は緩やかにその日を待つだけである。

 ここまで来れば、もう既に大半のプレイヤーは“果て無き地平線”にログインすることはなく。

 新たなオンラインゲームに乗り出している。



 フレンド達もその例に漏れず、この最後の審判の日とも呼べるその時まで、酔狂にも残ろうとする者は僅か数名であった。

 そんな彼等も義徳と一緒に居るわけではなく、各自が思い思いの場所に向かっている。

 義徳もせめて最後の時は……と、この十年という年月が紡いだ英雄譚サーガが生み出した結晶、いつの間にやら呼ばれ始めた“不破の吸血鬼城=ヴェルクマイスター”に向けて足を運ぶことにした――――




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