十四歳病って何ですか? 後書き追記あり
――――レティーシアはメリルと共に寮から学園に向かっていた。
食事の後、学園に向かう為部屋を出たレティーシアであったのだが、寮の玄関口で丁度メリルに出くわしたのだ。
なお、この際メリルが玄関で一人レティーシアを待っていた、なんてことはない。ないものはないのである。
その時メリルがレティーシアを発見した時の反応は凄まじいものであった。服装を見るなり、周りの迷惑を鑑みずに抱きつき、頬擦りまでする始末。
周囲の人物が娘の可愛らしさに、思わず頬擦りをしてしまう父親の姿を幻視した程だとか――
レティーシアの方はと言えば、身長差のせいで顔面をそのDはあるであろう胸に埋もれさせていた。
この時のレティーシアのそこはかとない敗北感は下手な勝敗をも越えていたとか。
「それにしてもレティ? 私の部屋には何時遊びに来てくれるのかしら? それに、一緒にお風呂にも入ってくれないですし……」
学園に向かう道中。メリルがレティの手を繋いだまま、しょんぼりと顔だけを横に向け問いかける。
騙されてはいけない、それは狼がお婆さんに姿を扮するが如き狡猾な手段なのだ。
「むっ、そのような顔をするでない! 妾が何か良くない事を仕出かしたようでないか。まったく……今度必ずメリル、そなたの部屋に行くゆえ待っておれ」
普段ならば決して騙されないその手管。しかし、久方ぶりに馴染みのある朝食にありつけた影響か、その観察力は幸せ胃袋によって底辺をさ迷っていた。
流石に一度も訪れなかったのは彼としても、レティーシアとしても不味かったと思ったのか、明らかに行きたくないです! と顔に書きながらも渋々約束する。
何故一度も訪れなかったのか? そこには複雑怪奇な事情が………ぶっちゃけ彼としては下半身的問題と、レティーシアとしては胸部的、或いはその甘やかし具合というか、そう言った部分で妙に苦手意識が出来ている為である。
他にも訪れたが最後、明らかにただでは帰れないという勘がレティーシアに囁いているのも原因だ。
まぁ、魔術や吸血鬼としての力を使えば容易く逃げられるのだが、最初の記憶改竄以降、どうもメリルに対してその手のことをしようと思えないレティーシアであった。
結果――メリルの思惑に気づくことなく罠と知らず赤頭巾ちゃんは狼の元へと駆けつける約束をしてしまう。
「えっ? 本当に? 嘘はいけなくてよ? 絶対、絶対ですからね!」
まさか本当に承諾してもらえるとは思っていなかったのか、満面の笑顔でメリルが登校中にも関わらずにレティーシアの片腕を抱えると少しばかりしゃがみ込み、その顔に視線を合わせてキラキラと瞳を輝かせて言質取りましたわよ!
と言わんばかりの勢いで確認を取る。
「ええい、分かっておる! 第一、妾は一度した約束は守る。だから、そう引っ付くな! 唯でさえ通気性がお世辞にもよいと言えぬ服装なのだ、暑くて適わぬわ!」
メリルが腕を自分の方に引き寄せ抱きついてくるのを、レティーシアは吸血鬼としての怪力で無理やり引き剥がしにかかる。
彼女は知らない。レティーシアとメリル両名にとっては本気の掛け合いも、登校中の生徒からすれば中睦まじいと映っているか、一部生徒には逆に邪な視線で見つめられていることに。
この場合邪な視線とは主に二種類。女性同士のじゃれ合いに対していらぬ妄想を抱いている者達。
そして、純粋な欲望としての視線だ。
因みにこの欲望による視線も更に二種類に分別されるだろう。
一方はメリルに対するもの。彼女の容姿はお世辞抜きにしても優れていると言える。
百六十センチ以上の女性としてはやや高めの身長に、金色の背中の半ばまで伸ばされたストレートの髪。
鼻筋も高く、やや勝気な深い水底ような色合いの瞳。彼の感覚からすれば見事なまでの西欧系の顔立ちであるそれは、美少女と称えてなんら文句のつけようが無い。
そしてもう一方がレティーシアに対する者である。
彼女の容姿が非常に恵まれているのは、既に耳にたこである為省略するが。
彼女を見る者の視線の種類は多岐に渡る。一つは本能のどこか、あるいは才能の一部で彼女を“危険”だと認識できた者。
次に、彼女の着る服の色合いは兎も角、その見事なまでの服装を見て何処の姫君か? と邪推もしくは純粋な興味を抱いた者。
そして、最も厄介であるのが最後の者達であろう。
彼等は恐らくレティーシアの容姿+体型に目を奪われた人種だ。そう、反アグネス思想民。
つまるところ、ロリコン共である――――
――――何とか引っ付くメリルを引き剥がし、校舎――魔法学部棟――に到着したレティーシアは、そこで珍妙なものを目撃することになった。
いや、レティーシアとしては珍妙なものであるのだが、彼としてはどこか……そう、どこか懐かしい気分にさえさせる光景であると付け加えるべきか。
それは魔法学部総合科Sクラスに向かう途中のことであった。
(確か今日は選択科目の説明だったっけ? まぁ、俺としては魔法の授業て言うのには興味あるか……ん? なんだアレ?)
廊下を足音を立てずに進んでいたレティーシアの視界に、何やら異様な雰囲気を放つ少女が目に映った。
レティーシアとしてはそんなものどうでもよかったのだが、彼としての思考が思わず足を止めてしまったのだ。
何故なら――――
「落ち着け私の左腕よッ! ここで制御を失ってしまっては奴等の思いどお………クッ…疼く、疼くぞぉ!! この疼きッ! 近くに尖兵どもが居るというのか!?」
――そう言って廊下の隅で左腕を抱え込んで、しゃがみ込んでいる黒尽くめの少女が一人。
注目すべきはその服装と身長、そして床に置かれた物々しい一冊の本であろう。
身長は女子にしては高く、恐らく百六十は優に、下手をすれば百七十を越すのではないか。
少なくともメリルよりは幾分高く見える。
服装は一言で表すなら“黒”全体的に彩色が黒で統一されており、上半身も黒なら下半身も黒のプリーツスカートであり、更には黒のタイツ及び黒の編み上げのブーツまで着用、肩には黒に赤の生地が裏打ちされたケープを掛けている。
ただし、全てが完全な黒というわけでもなく、袖口には赤のリボンがアクセントとして、プリーツスカートも暗色系であるが格子柄であり、ブーツも茶の紐が使用されている。
仮にも女の子としては洒落っ気が足りないようにも見えるが、その高身長とも相俟ってどこかマッチしていた。
未だ左腕をぷるぷるさせている少女の髪は赤く、うなじの辺りで黒の紐によって纏められ腰まで伸ばされている。
前髪が長めで、時折垣間見える瞳は赤茶に輝いている。身長に対して顔立ちは成人の域には達しておらずやや幼い、恐らくは十五~十六歳だと思われる。
そして、件の一冊の本。
恐らくは少女の魔道器――詠唱媒体or増幅器――なのだろうが、これまた黒で塗り潰されており、金属のベルトをバツ字に巻き、横から見える部分にはこの世界の文字で『黒の預言書』と書かれている。
レティーシアから見ればその見た目だけは物々しい本も、対した力はないと見破っていたのだが、一方の彼は今は左腕の発作(?)が落ち着いたのか、荒い息を吐き出している少女。
その行動に思い至る節があった為、内心動揺+過去の果て無き地平線で己が目指した境地も、ある意味で“同類”であった為か、非常に身につままされる気持ちであった。
そう、それは人が何れは必ず罹るとされる不変の法則にして病! その年齢に罹る事が多いことから取られたその名を“十四歳病”と言う!!
人によって発症の時期に差があるソレは、等しく万民に黒歴史を刻み込む恐怖の病である。
――それは時の大統領・副大統領であろうと、総理大臣に首相に各大臣連だろうと。貧富だろうと、身分だろうと、高貴だろうと卑しかろうと、一切合財関係なく訪れる絶対法則――
その考えに思い至った彼は体中を掻き毟りたい衝動に駆られたが、何とか寸前のところで押し止まる。
時代のせいか、ある意味その病の願望を容易に叶えてしまう彼の世界は、過去に類を見ないほど凶悪な黒歴史の数々を生産してきたのだ。
果て無き地平線しかり、それ以外でも少年時代では考えたくも、思い出したくも無いその数々。
と、今まで荒い息を上げていた少女が、何やら察知したかのようにキョロキョロと周りを見渡すと、レティーシアに勢いよく視線を合わせ、
「ば、馬鹿な!? 既に刺客が放たれていたのか!! クッ……ここで力を解放しては学園が持たない……忌々しい天界の神共め! 貴様ッ! 私は決して逃げるのではない! そう、あくまで学園を心配しただけなのだ! 決して間違えるなよっ!!」
そう少女は言い捨てると、レティーシアに鋭い睨みを飛ばし、一目散にレティーシアとは反対方向に駆けていった。
最後の台詞が色々台無しであるが、逃げ足だけは中々である。
その場には蕁麻疹が浮かび上がりそうなほど痒みに襲われている――でも無表情――レティーシアと、数名のポカーンとした生徒だけが廊下に残されていた――――
後書き
ご飯食べてましたw
今回出たエリシーさんは、再投稿前に募集したキャラです。
メインキャラとはなりませんが、サブキャラとして時々登場します。
今回は微妙にパワーアップしておきました。
製作中番外編では彼女も登場します。
それでは、感想や評価、誤字脱字報告にアドバイス。
心よりお待ちしております!
キャラクター紹介
名前:エリシー=ブライス(本人はスペクターと主張)
種族:人間女性(本人は半神半人と主張)
年齢:15才
身長:170前後
体型:全体的に細身なのだが、出るところは出ている。更なる成長の可能性有り。
容姿:真っ赤な髪に赤茶の瞳、髪は膝裏まで届く程長い、色白。
服装:基本黒の上下、黒の短いプリーツスカートに黒いタイツ、黒いブーツにリボン付きの黒いケープorインバネスコート着用。
特徴+紹介
14歳病の重篤患者。様々なアレな発言を繰り返す。
特に「今日も左腕が疼く」「私に寄らない方が良い」は口癖レベル。
前髪が長く、目元まである。自身と目が合うと不幸になると思い込んでいる。
左腕は何やら黒皮のベルト状のものでグルグル巻きにされており、時折「クッ……左腕が疼く!!」等の発言を授業中関係なく行う。
同じく髪もうなじの辺りで縛ってあるが、これらはどれも封印具であり、力や瘴気を抑える為の既存外の魔法が施されている(ただ単にデタラメ)
追い詰められるとこれら封印を順に解いていくが、勿論パワーUPなんてしない。
自身のことをよく「スペクター」と呼称。
Bクラス、しかも底辺在住。
本気をだせばSクラス程度容易い等と思っているが、別に隠された実力なんてないのでBクラス底辺のまま。
クラスではバカ筆頭として扱われている(魔法学部全体的に見ればBクラスは十分通用するレベルではある)
自身は邪神に連なる眷属の生まれ変わりだと認識(勘違い)しており、周りに不幸を齎してしまうと思っている。
更に、各国には正体が露見していると思っている為、小動物や怪しい人物を見ると“監視されている”と勘違いし。
「鬱陶しい連中め……」
などと囁いては周囲に怪訝な表情をされる。
魔法学部在住であるが、拳を用いた戦闘はかなりのレベル。
逆に武器の類を使用すると壊滅的なセンスを発揮し、途端に弱体化してしまう始末。
ルール無しの何でもあり、つまり実戦形式で実力を発揮するタイプ。
因みに負けそうになると「…衆目の前で本気は出せないな」等と捨て台詞を吐くが、案外これは素である。
魔法の才能に関しては並で、自身は邪神の殲滅魔法を会得していると自負しており、授業で習う魔法は興味本意で習っているつもり。
勿論殲滅なんたらは嘘っぱちである。
基本行動はアレだが、土壇場、もしくは重要な場面ではそれなりにキチンとした対応をする。
レティーシアの事はその他と違う空気から神の尖兵、或いは天使だと激しく勘違いしている模様。
その際も「遂に神共が兵を差し向けたか……」等とのたまう始末。
初会合以降、成る丈出会わないようにしているのだが、それこそ神の悪戯か、度々両者ともに不幸ながら顔をつき合わせてしまうことになる。
実家は帝國のそれなりの商家の一人娘。
両親は真人間で、エリシーのことを微笑ましく見守っている。
14歳で覚醒するまではやや内気であったものの、普通であった為、家事その他はそれなりに出来る。
料理はなかなかのレベルで、得意料理はごった煮、あらゆる食材を美味にするその手腕は下手な魔法より魔法のよう。
覚醒以前から様々な物語が好きで、どうでもいい知識は豊富。
逆に一般教養は豊富とは言い難く、クラスでよく露見する姿が見られる。