名犬ジョリー
河奈は、ファクトリーで充実した毎日を送っていた。
ハナ子と言う恋人も出来たし。
ファクトリーは、バイオ部門とパソコン部門とアニメーション部門に別れていた。
構成するメンバーは50人位、大半はバイオ部門に従事していて、パソコン部門は5人、アニメーション部門は10人だった。
バイオ部門は、主にライ麦の品種改良を研究していた。とは言うものの、実際に白衣を着て研究しているのは、3人で後は農場で作業をしていた。
河奈は、パソコン部門に配属されていた。
これは、秋葉原の専門ショップとネットのみで販売されていた。
1日8時間働いて、夜に貫様の話を30分聞くだけで後は自由だった。
食事は、バイオ部門が作った有機野菜が中心で、チョットだけ黒く成ってたりするけどそれも無農薬だから仕方ない。
正直、チョットだけ物足りないけど、おかげで20kgの減量に成功した。
河奈は、貫様の話の時間が好きだった。
真暗い部屋で貫様の前に一本だけ蝋燭を立てて、話が始まる。
話の中で私達は、美しい狼で大いなる山の神の使い。
話が始まると、なんだかとても気持ち良くなり、まるで映画でも見ているかの様な感覚になる。
貫様は、こうやって私達に奇跡を見せてくれる。
話が終わる頃には、まるで自分は狼に成った気がする。
狼に成って、日本に巣食う権力の皮を被った醜いブタどもを殺してやりたい。
そんな風に感じる。
ハナ子は、S県に出張中だ。
何時もなら、話が終わった後は、二人で抱き合って気持ちの高ぶりを静めるのだが…獣の様に…
寂しい…
貫様から直々にお呼びが、かかった。
部屋に入ると、ハナ子は殺されたと言われた。
「こいつらが、ハナ子を殺害した犯人だ」と言って、写真をみせられた。
男二人と女一人。
後、毛むくじゃら一人と犬だった。
河奈は激しい憎悪に襲われた。
今こそ狼に成るときだと感じた。
「奴らの根城は、花園カレン探偵事務所だ」
…
「これを送り届けて欲しい」
ジョーとジョリーは、散歩中だった。
花園とカレンとフォクシーちゃんは、忍者の里に帰り、長に今後の対策についての相談に行った。
それから3日ほど経っていた。
ジョリーは、ジョーのボディガードとして残された。
「えっ?ジョリーがボディガード?」
言い渡されて、俺は思わず尋ねた。
「何かご不満でも?」とカレンは答えた。
「ジョリー・・・あたしが居なくても泣いちゃだめよ・・・・ダーリンをよろしくね」とフォクシーが言った。
「ははは!これ以上頼もしいボディガードはいないぞジョー!」と花園は言った。
そう言って、3人はワゴンRに乗り込んで忍者の里に向かった。
正直言って、フォクシーにはワゴンRは小さすぎて笑えた。
と言うわけで、ジョリーと留守番。
昼飯の買出しをかねて散歩に出かけることにした。
チョット遠いコンビニまで弁当を買いに行き、途中あのさくらの公園で弁当を食べて、帰りに事務所から300m程の所にある橋の上からよく見える富士山をしばし眺めながらタバコを一服して帰るコース。
今日で3日め。
ジョリーもすごく喜んでいて今日は自分から散歩用の紐ををくわえて持ってきて、早く行こうと催促した。
本当に利口な犬だ。
そんなこんなでいま橋の上から富士山を眺めている所だ。
「ジョリー・・・あれが日本一高い富士山だぞ」と言うとジョリーはうなずいた。
「キレイだな」と言うとジョリーはうなずいた。
「お前って、本当に利口だな」と言うとジョリーはうなずいた。
本当に話が判るみたいだった。
「いけね!今日はカレンさん帰ってくる日だっけ!ジョリー帰るぞ」
午後1時45分頃だった。
その頃、河奈は焦っていた。
郵便局員に変装して荷物を届けようと思ったのだが、留守だった。
貫からは、この荷物は時限爆弾で午後2時にセットしてあると言われていた。
もう1時50分だった。
「どうしよう・・・・誰もいない・・・」
事務所の前でウロウロしているとジョーとジョリーが帰ってきた。
河奈にしてみれば、殺人犯に出交したようなものだった。
「ひー!!」
河奈は、荷物をドアの前に置き、慌てて逃げて行った。
「変な郵便屋さんだなぁ?」俺が荷物を取ろうとするとジョリーが吠えた。
ビックリして手を引っ込めるとジョリーは荷物をくわえて、階段を駆け降りた。
「チョット!!ジョリー!!」
俺も慌てて追いかけたが、ジョリーは滅茶苦茶速かった。
河奈は逃げた。
ここまでくれば大丈夫だろうと橋の上で事務所の方を振り返った。
しかし、目の前にジョリーが荷物をくわえて走って来ていた。
「あわわわわ・・・・」
河奈は、その場で腰を抜かした。ジョリーは、荷物を河奈の前に置くと「ウー」と低く唸った。
「おーい!ジョリー!」と言う声にジョリーは振り返った。
俺が橋に差し掛かると、ジョリーは激しく俺に向かって吠え始めた。
「ジョリーどうしたんだよ、俺だよジョーだよ」
ジョリーはそれでも吠えるのをやめなかった。
ジョリーは何かに気づき荷物をくわえると、震える河奈の頭上を飛び越えて橋の欄干に飛び乗った。
ジョリーは暫く欄干の上から富士山の眺めていた。
そして、俺の方に振り返り物凄く寂しそうな目をして、一粒の涙を流した。
そして、川に飛び込んだ。
「ジョリー何やってんだよ!」俺は叫んだ。
ジョリーは、川に飛び込むと必死に泳いで遠ざかって行った。
「ジョリーもういいから帰ってこいよ!!」
もう俺の声は届かない様だった。
ジョリーの後ろ姿が小さくなっていった。
そして轟音と共に水しぶきが上がった。
俺は暫く事態を飲み込めなかった。
ただ「ジョリー!!!!!」と叫んでいた。
俺は、河奈の方を振り返った。
河奈は頭を抱えたままガタガタと震えていた。
「おいっ!郵便屋、何で逃げた?」
俺は、河奈の横腹に爪先で蹴りを入れた。
「お前、アレが爆弾だって知ってたな!!」
俺は、河奈の胸ぐらを掴んだ。
「ジョリーを返せ!!!」
俺が河奈を殴ろうとすると、背後から影が覆いかぶさってきた。
河奈の目が、恐怖に凍り付いた。
「ジョーどけ・・・」と言う野太い声が背後から聞こえた。
フォクシーが、物凄い形相で立っていた。
味方の俺でさえ、恐怖を感じる形相だった。
毛むくじゃらの手が軽々俺を退かすと、河奈の腹めがけて蹴りを入れた。
体重80キロはありそうな河奈が、まるで缶蹴りの缶の様に吹き飛んだ。
その時、河奈とフォクシーの間にカレンが割って入り。両手を広げ「ダメ!!!」と言った。
フォクシーは「邪魔だ退け!」と言った。
カレンは泣いていた。
カレンが泣くなんて思いも寄らなかった。
カレンは、フォクシーに抱きつき「お願い、これ以上はダメ・・・これ以上は・・・怒りを静めて・・・お願いだから・・・」と言った。
河奈は気絶していたが、死んではいなかった。
花園が現れ、河奈を起こすと「殺人未遂、現行犯で逮捕する」と言って手錠をかけた。
・・・・ジョリーお前に助けられたのは2回目だな・・・本当に頼もしいボディガードだったよ。