脱出
カレンは、縛られていた。
椅子に座った状態のまま、背もたれごと縛られていた。
特に檻に入れられて居るわけではなく、コンピューター製作工場の一室と言ったところだ。
何やら見張りの二人が話している。
「これから、貫様のお話しがある、終わり次第戻るから、暫く一人で見張ってくれ」。
「はい、分かりました」。
残されたのは、なんともチャラい若造だった。
先輩が、行ってしまうと「あー、やってらんねー」と言い、ドアの横の椅子に座った。
カレンは、『チャンス』と思った。
「ねぇ~」
普段では使わない猫なで声をだした。
男はこっちを向いた。
「かゆいの~」
「なに?」
「か~ゆ~い~」
「どこが?」
「恥ずかしいから、言えない…」
「言わなきゃどうする事も出来ない」
「えー」
カレンは、足を開くと視線を股間に向けた。
「お願い掻いてぇ」
男はゴクリと唾を呑み込むとカレンの股間に手を伸ばして来た。
もう少しで届くところで「いや~んエッチ!」と言う声と同時に顔面につま先がめり込んでいた。
「気安く触るな!」メリッと言う音と共に男は仰向け倒れた。
「えーと、切るもの無いかな?」
幸い工場内で工具類は、沢山あった。
「あった、あった」
カレンは器用にカッターナイフを背中越しに手に取ると意図も簡単に縄をほどいてしまった。
「クソ!よくもやってくれたな!」
と言って部屋を出ていった。
「諸君!」
ファクトリーのホールで貫の演説が、始まった。
「今こそ立ち上がる時だ!」
一同「おー!」と言った。
「狼だけが、神を名乗る事を許された気高き生き物」
「そして君達は、狼と成り闘うのだ!神の名において!」
「今こそ、蒼き気高き美しい狼に成りて、国家権力の傀儡なる豚どもに神の鉄槌を降り下ろす時が来たのだ!」
「君達の前に置かれたパンは、ただのパンではない」
「神の力により、狼になるパワーが封じ込まれている」
「さぁ、そのパンを食し、今から訪れるであろう奴らを血祭りに上げるのだ」
「毛むくじゃらの大男は、殺さずに連れて来い」
「さぁ、闘いだ!」
「けっ!バッカじゃないの!」
ふいにスピーカーから女性の声が聞こえた。
カレンだ。
「おい!てめえ!よくもか弱い乙女を監禁してくれたな!危うくレイプされるとこだったぜ!」
「きっ貴様!」
「えーちなみに建物に火を点けたから、なるべく早く逃げた方がいいよ!じゃあね!バッハハーイ!」
「何!急いで火を消せ!」
何人かが、廊下に出ると廊下の西のはじから火が出ていた。
既にとてもバケツで消せる様なレベルでは無かった。
「貫様!とても無理です!」
一人が報告に行った。
「この役立たずが!早く、カレンを追え、殺しても構わん!」
各々、ホールを出て行った。
既に何人かは、薬が効き始めていた。
徐々にその人数は増えて行き、暫くすると唸り声や喚き声が聞こえる様に成った。
貫は、二人の側近のボディーガードと共に隠し通路から逃げようとしていた。
隠し扉が開き、逃げようとした瞬間、足に激痛が走った。
手裏剣が刺さっていた。
「逃げようったって、そうは行かねえっての!」
カレンが立っていた。
「貴様!何処に武器を隠してた!」
「いやんエッチ!恥ずかしくて言えないわ」
「くそう!殺ってしまえ!」
ボディーガードの二人は、屈強な体つきをしていた。
「ふん!チットは出来そうじゃん!」
一人はナイフ、一人はトカレフを持っていた。
「きったねー!飛び道具かよ!男なら黙って拳で来いよ!」
「黙れ!」
男は引き金を引いた。
「シュン!」
風を切る音がして、カレンが消えた!
次の瞬間、拳銃を持つ手に手裏剣が刺さっていた。
男が手を押さえて屈み込むと、背後から耳に息を吹き込まれた。
「いい事してあげる」と囁くと後ろから股間に手を入れ、握り潰した。
拳銃の男は、白目を剥いて悶絶した。
「ドウダイ!よかったかい!あーバッチイ!」
「くそ!」
貫は手裏剣を抜き、這うように隠し通路に入った。
「待ちやがれ!」
カレンが追い掛けようとすると、素早くナイフの男が割って入った。
「!」『コイツ只者じゃねぇ』カレンは強者独特のオーラを感じた。
「!」
ナイフの男が、視界から消えた。
「キン!」
背後から喉に伸びて来たナイフを手裏剣の受けた。
そのまま、肘を脇腹に入れようとすると、気配が又消えた。
カレンが振り返ると誰もいない。
相手は、常に死角に入り気配を消す事が出来る暗殺者の様だ。
カレンの背後を簡単に取れるなんて、カレンの知る限り花園くらいだった。
『ヤベェ、強すぎる…』
次の瞬間、僅かに殺気を感じた。
しかも避けられない殺気を。
『殺られる!』
「パキューン!」
乾いた銃声が聞こえた。
振り返るとナイフの男の腕から血が流れていた。
「カレンさん!」
ジョーだった。
「くっ!」ナイフの男は、隠し通路に逃げた。
「あっ!」
ジョーが慌てて追おうとすると、カレンが引き留めた。
「奴は超一流の殺し屋、ここに入るのは死を意味するわ…」
「えー!」
「何はともあれ、サンキュー!助かったわ」
「いや、どう致しまして!」
「火事だし、ズラカルか?」