推しのいる世界に転生したら、婚約者は前世の兄でした
みんな一度は考えたことがないだろうか?
もし自分が異世界にいけたら、もし自分が推しと同じ世界で生きられたら、という『異世界転生』を。
***
「細かいことは正式に婚約破棄をする時に。では、私はこれで」
そう告げて、今しがた婚約破棄宣言をされたアデライン公爵令嬢は颯爽と卒業パーティの会場を後にする
婚約破棄を告げた第二王子殿下やその隣の男爵令嬢、そして周りの観衆はアデライン様の態度が想定外だったようで豆鉄砲を食らったような顔をしている。
一方、私は婚約破棄宣言に立ち会えたことの喜びと近くで見る推しの美しさで感動しないよう必死に表情を作っていた。
「勉強と運動はほどほどに、オタ活には全力で!」が座右の銘だった私は異世界転生に気が付いたとき、正直発狂した。しかも、推しのいる世界ならばなおさら。
侍女や家族にはひどく心配されたが、情報収集のため勉強熱心になった私をみて安心したらしく今ではすっかりなかったことになっている。だが私は最初の記憶として心に刻んでいるため、実際にこういった場面に出くわしても自分を制御できるようになった。
「こんなことになるなんて」
私の隣でそうつぶやくのは婚約者であるデューク様だ。第三王子の側近で将来有望だ。ちなみにこれから、第三王子であるアルバート様はこのあとアデライン様と恋をする。そして私も原作通りならデューク様とアルバート様のおかげで、アデライン様の侍女になれるだろう。
「今日はもう帰りませんか。疲れましてしまいましたし。」
「ああ、そうだね」
本当は、これからのことを考えると楽しみすぎて表情を作るが限界なだけだが。
***
「ティアナ、君は転生者なのか?」
馬車の中で突然、デューク様が日本語で私に質問を投げかけた。
「な、なんでデューク様が日本語を?」
つい日本語で返してしまったが、この状況は私的に結構ホラーである。今まで、普通に婚約者として接していた方が自分と同じ転生者だったことが発覚したのだ。日本人なのは救いかもしれないが。
「実は俺、さっきの婚約破棄を見たら突然前世?の記憶がフラッシュバックしてきて。それで、この世界は俺が読んでたラノベの世界だったっていうことに気づいたんだけど、君は本の世界のティアナと少し行動が違っているからもしかしたらと思って」
なるほど、同志か。というか、ティアナのことまで正確に覚えているとかお兄ちゃんみたいだな。そう考えるとしゃべり方とか雰囲気がお兄ちゃんっぽい気がするかも。聞いてみようかな
「あの、違ったらすみません。もしかして、湊お兄ちゃん?」
「え、栞?噓だろ、マジかよ」
いや待ってどんな確率よ。え、てことはデューク様はもういないってこと?
「お兄ちゃん、私のデューク様を取らないでよ!」
「それをいうならお前も、俺のティアナを返せよ!」
お兄ちゃんと私はしばらくの間睨み合う。いつもならば、即時口論が始まるのだが馬車の中だと外に聞こえてしまう可能性があるため、あまり大声は出せない。だが、黙っていると思考が落ち着いてきた。
「ねぇ、もしこのまま順調に原作通りにいくなら私たちって結婚するんだよね?」
「そうだな。俺たちはこの世界からしたらバグだろうから消したほうがいいと思う」
「そっか、そうだね。なら、もうあまり自我は出さないほうがいいよね」
「ああ。できるだけ言動は原作から変えないで、デュークとティアナとして生きるんだ」
「分かった。じゃあ、お兄ちゃんバイバイ」
「ああ」
お兄ちゃんは少し寂しそうに笑った。私は、上手く笑えているだろうか。
「着きましたね。ティアナ、今日はゆっくり休んでください」
「はい。デューク様、ありがとうございました。おやすみなさい」
私は馬車を降りる。デューク様にエスコートをされながら。
きっとこれからも私もお兄ちゃんも心の中だけでこの世界を楽しむ。
でももし、原作の終わりまで進んだら、またお兄ちゃんって呼べたらいいな。




