効果的なみせしめ
二十年前の話だ。
そんな顔をするな。
俺の話を聞いてくれ。話自体はどうでもいいんだ。落ち着きたいんだ。何かしゃべって冷静になりたいんだ。
二十年前、俺はこの地域一番のマフィアのボスだった。
日替わりで高級娼婦を抱いて、あらゆる物を一番高い値段の物で揃え、いろんな店で札束をばらまいた。
それだけ羽振りがよかったのは、おれさまが麻薬を取り扱っていたからだ。
悪名高いゾンビピル。一度使ったら抜け出せなくなる中毒性で、確実に廃人になる。
もう笑いが止まらなかったぜ。馬鹿な客は無限にいて、金はどんどん入ってくる。
客は死ぬし治安は悪くなるが、俺のせいじゃない。
そうだろ?
その頃の俺が悩んでいたのは、しつこく現れる商売仇って奴さ。
なにしろ、ぼろ儲けできる商売だ、真似する奴がでてくる。
だから、そいつらを潰すためにみせしめをすることにした。
俺の許可なくゾンビピルを売りさばいた奴の家族を殺してやった。
だけど、みせしめは思ったよりも効果が無かった。
いや、家族を殺してやったやつはおとなしくなる。だが、別の奴が儲けようと雑草のように次々と現れる。
どうにか一発で全員を脅せる効果的なみせしめはないかと考えている時、俺は拉致された。
後で知ったが、俺をさらったのは政府の軍隊だった。
薬で眠らされ、意識が戻った時には、部下達に発見され囲まれていた。
その時の、部下達の恐怖に歪んでいた顔をいまでも覚えている。
麻酔をうたれ感覚がなかったが、俺は右手を切り落とされていた。
政府が、ゾンビピルを取り扱うとどうなるか、俺をみせしめにしたんだ。
この国の裏社会で右手のない奴なんぞ格好の餌食だ。俺はあっという間に転落し、今じゃ最底辺のゴミ拾いだ。殺されないのは政府がみせしめとして機能させるために、手をまわしているらしい。
片手だけの底辺生活は、それは悲惨なものだった。
俺を使ったみせしめは効果的だった。
ゾンビピルを扱う奴はいなくなった。
だけど、二十年もたって、俺のみせしめの効果が薄くなって、ゾンビピルを扱う馬鹿がちらほら出てきた。
俺はもう喜んだね。
俺と同じように片手を切り落とされる奴がでるって。
それで、今日だ。
俺は二十年前と同じように拉致をされて、さっき目覚めた。
なあ、あんた、そんな顔をしないでくれ。
二十年前に、俺を発見した時の部下達と同じ顔をしないでくれ。
俺は怖くて見れないんだ。
左手だけの生活は、俺には悲惨なものだったんだ。
それを確認するために、俺は左手を見ることができないんだ。
二十年前の麻酔の感覚があるんだ。
なあ、そんなことはないって言ってくれ。
お願いだから、そんなことはないって言ってくれよ。
俺の残った左手は切り落とされてないって言ってくれ。
おわり




