くたばれ異世界転生
金儲けに走るだけのクズ上司に心底うんざりしとった。
灰色の毎日で、何の問題を解かされているのかわからなくなりました。
俺は刺されて死んでもた。
私は、おじさんと同じ日に、オーバードーズで死にました。
「あなたの死は手違いだったので、異世界で第二の人生を授けましょう」
とまあ、いかにも清純派な女神様がおっしゃるもんやし、俺は「嫌やけど」って言ってやってんな。そしたら女神様、ごっつ可愛らしい顔できょとんとしはって。
「は? や、あらへんねん。このボケ」
微塵も悪気あらしまへん、て顔がむしろイラつかすんやわ。手違いンこと水に流そうっちゅう魂胆が見え透いとんねん。これで「ほな、よろしゅう頼んま」言えるか? 普通。
「手違いで人の命転がしてまうアホンダラの提案乗るクソボケがどこにおんねん。おお? 俺の人生どないしてくれんのや。どう落とし前つけんねん」
「ですから、異世界で第二の人生を……」
「元ん戻せやドアホ。まず原状回復さすんが先やろが常識的に」
「できません」
「何でやねん。言うてみい」
「天界の決まりで」
「その決まり破ったから手違い言うんちゃうんけ!」
何やその(困ったおっちゃん来よったでw)言う顔。ドツいたろか。
「そもそも、自分何者やねん」おおよそ察しつくけど。
「あらやだ、ご自分のことをお忘れに?」
「一人称ちゃうねん。関西弁なんわかるやろ。自分いうたら文脈で一人称にも二人称にもなんねん。さっきの二人称や。お前や」
「私は女神です。あなたに、夢の異世界ライフを!」
「人の夢勝手に決めんなボケ。ゆるい野球部で一人だけ空気読まんと本気で甲子園目指そう言いふらしとるピュアボーイ見とるみたいでいたたまれへんねん」
「童貞男子ではなく処女神です」
「やかましいわジャンヌダルクの歌やんけそれ懐かしいな。神っちゅうたな。神様やったら、ほれ、時間巻き戻すとか歴史修正するとかできるんとちゃうのん。転生とかいらんから」
「できません」
「でけへん? 嘘やろ? 何をもって神を自称してはるん? 今んとこ自分の評価、人殺しを犯したモンスターエンジンなんやけど」
「ちょっと何言ってるのかわからないです」
「サンドイッチマン富澤が加入や」
「暇を持て余した」「神々の」「遊び」
「モンスターエンジン知っとるやないかい! それモンスターエンジンのネタや! なっつかし……」
「古すぎます。ゼロ年代のネタですよ。若い子誰もわかりませんよ」
「あのな、あんま人をおちょくっとんちゃうぞ!」精々十年前のネタやろ!
「イライラなさってどうしたんですか」
「お前にイラついとんねん! 人をイラつかす神か! ストレスを司る神イーラなんかワレ!」
「いえ、創造神です」
「創造神のどちらさんや」
「創造神コシラエルです」
「ホンマにそのノリの神様がおってたまるかい! まあええわ。創造神やったら何ができんねん」
「異世界転生で第二の人生を」
「要らん言うたやろ! 元に戻せ……いや、この際や。あんたはんの唾のついとらん、俺ンおったとこと全く同じ世界がええわ」
「ありません」
「ないなら作らせえ!」
「そんな千鳥のノブみたいな……私の何がそんなにご不満なんですか」
「一応訊いとくわ。俺のおった世界はどうやって生まれてん?」
「私が造りました」
「俺に行かそうとしてる異世界は?」
「私が」
「それや!」地団駄踏んでもうたわ。
「それが?」
「手違いで人ン人生終わらす邪神の造った世界に誰が行きたがんねん! また手違いで死ぬかもせえへんやん! 元の世界もおまはんのや思うと戻りたくもなくなってきたわ! 信用あらへんねー神様!」
「いやその……こういうことは本当に例外中の例外で、私も不本意で」
「そないなこと言うて、ほんまはもう何人も異世界送りしとるんちゃうんけ」
「そんな全然ですよ」
俺の隣に光の柱がワァーって建ったか思うと、そこにいきなり真面目そうな学生のお嬢ちゃんが出よった。
「うわ、誰や!」
「え……あれ? ここは?」心細そうに、お嬢ちゃんおどおどしとる。
「おめでとうございます! あなたは百万人目の手違い死です!」
この女神くす玉割りよったで。真っ白な殺風景に紙吹雪が金キラキーンや。お嬢ちゃん無邪気にきょとんとしとる。
「やったなオドレ!」
女神のアホ、指鳴らしたら何か景気の良い音楽流れてきたんやが。
「これフレデリックのオドループやんけ! 踊れ言うとんちゃうねん!」
「気に・入ら・ない♪?」
「やかわしわい! 消せ消せ! ……やってくれたのう、おおん?」
「何がでしょう」
「手違い百ま……百万!? ホンマに言うてる!? はあ!? 悪質な常習犯やんけ! 列島警察二十四時でモザイクかけられてへんかったか!?」
「ブイが大体納期ギリギリで編集大変なんですよね」
「映像制作業者~!」
「霜降り明星、面白いけど嫌いなんですよね」
「お笑いはええねん! 百万て! 洒落ならんわ!」
「人類史全体で見たら誤差ですよ、誤・差・はぁと」
「口でハート言うな! 誤差でも当事者はたまらんわ!」
「憐れな少女よ。記念すべき百万人目のあなたには」記念すな!「特別な力を授け、異世界で第二の人生を謳歌してもらいます」
「わあ。これって、小説とかによくある異世界転生ですか」
「お嬢ちゃん、いくら美人やからって初対面のおばちゃんの世間話に耳貸したら痛い目見るで」
「おばちゃんではなくて創造神コシラエルです」
「ほな誰よりもおばあちゃんやんけ! 耄碌すんのも納得やわ! 白痴の神モーロックや!」
「モーラエル様、このおっさん誰ですか」
「混ざっとる混ざっとる」女神と同じツッコミしてもうたわ。
それよりお嬢ちゃん、俺まだ去年まで二十代やってん。おい女神、まだおったんか言いたげなツラやの。
「さあ少女よ。この男のことなど気にせず、どのような力をお望みかおっしゃいなさい」
「わあ。夢みたい。私、こういうときどうしようかって、ずっと妄想してきたんです」
「待てや」
「何ですかクレーマー」露骨に面倒臭そうにするやん女神。
「俺ン抜かすんなら、その子九十九万九千九百九十九人目の手違いや。特典は俺ンもんやろ」
あの様子やとお嬢ちゃん、あのアホの言うこと鵜呑みにしてホイホイ無責任管理異世界に飛ばされてまいそうや。俺がゴネて時間作らな、ほんで女神のクズさ教えんと絶対後悔させてまう。
まだ若いンに、見過ごしたら男が廃るわ。
お嬢ちゃんにゴミ見る目で見られてもた。ええねん。どない思われたかて、子ども守るんは大人の務めや。泣いてへん。
「そうきましたか」
女神の手がごっつ光って、何や玉ぁこしらえよった。おい自分、それをどうする気や。
「ぱんぱかぱーん」
くす玉割るなや女神ィ! 今度は何やねん!
「憐れな少女よ。あなたは記念すべき九九九九九九番目の手違い……特別な力を差し上げます」
読み方工夫すな! 相手女の子やぞ! 何やこいつゾロ目でキリ番こしらえよった! 古のインターネットか!
「百万人目の方にはスーを差し上げます」ダイアン津田!
「スー……? じゃあ私は、そうだなあ……」
「待ちぃやお嬢ちゃん!」
さすがにタイムやわ。女神の間に入ってでも、この子止めなあかん。手ぇ掴んで隅っこ行くで。
「ち、ちょっと! やめ、やめてください! 警察呼びますよ!」
「おるかい!」
「事件ですか。事故ですか」うわ、白い翼生やした制服警官や。こんなんおんねや。
「て、おるんかい!」
「助けてください!」
お嬢ちゃん今それはマズいわ。俺が。ほら警官見とるわ。俺に警察手帳開いて見せよる。
「ちょっとあんた……」
「俺らあの腐れ女神の手違いで死にましてん!」
女神お縄についたわ。「またあんたか。懲りないな」とか言われとった。やっぱモザイクかけられる方やったやんけ。
ざまあ見さらせ。咄嗟の判断にしちゃ俺ようやったわ。
「待ってくださいモーラエル様!」
まだ混ざっとる混ざっとる。
「私の転生は!? チートはどうなるんですか!? お巡りさん、連れて行くなら私が転生してからお願いしますよ!」
「あのなあお嬢ちゃん……」
ホンマ見てられへんわ、この子。小説によくあるとかいう理由で納得してええはずないやろ。やったら世の中、芥川龍之介の羅生門が通用しても文句言えんど。
「説教したかあらへんねんけど、説教するわ。うっかりか手違いか知らんけど、自分の人生奪った張本人の甘い言葉なんて、いっちゃん信用したらあかんねん。異世界とかチート……チート言うか超パワーに憧れなあかんくらいしんどかったんかもせえへんけど。もっと色々おもろいもん知らなあかんわ」
飛鳥部勝則の抹殺ゴスゴッズとかおすすめやで。ハードカバーで六百ページくらいあるけど。
「何も知らないくせに! 私がどれだけ苦しんできたかも知らないのに!」
わあ若い。若さの特権、理不尽への憤り。全身浴びて若返るわ。
さっきの警察官が戻って敬礼してくれたわ。
「凶悪犯の逮捕にご協力感謝します」
「凶悪犯言われとるやん。ほらお嬢ちゃん、さっきのクソボケ凶悪犯やって」
お嬢ちゃんには嫌われてもうたわ。まあええ。
「ほんで、俺らはどないしたらよろしいん?」
「元の世界ではお二人の死が確定しています。やはり異世界転生が順当ですが……」
「もうええわ。アホらしい。アレの作った世界以外やったら考えたってもええ。神も世界も、俺らの好きに選ばせい。特にこっちのお嬢ちゃんには配慮したってや」
「放っておいてよ! おじさんには関係ないし!」
「何や知らんけど憧れらしいねん。俺にゃ理解してやれんさかい、頼れる人お巡りさんしかおらんねん。この通りやから」
頭下げたらみんな黙ってもうた。あかんあかん。大阪もんやさかい、静けさは発狂もんやねん。堪忍したってや。
警察官さん、真面目に取り合ってくれたわ。
どこまで要求通るかわからん言うてはったけど、平の立場で自信なさげな人て根が誠実なんよね。
「どうしてそんなに私を気にかけてくれるのよ……」
「俺が終わっとる大人で、自分がまだまだこれからの若人やからや」
泣くな泣くな。また職質されてまう。
「清らな乙女の涙が私を呼んでいる」
コシラエル戻ってきよったわ。涙て、きっしょ。
「何でお前がおんねん!」
「警察は異世界転生させました」
こいつ異世界を網走かシベリアやと思ってへんか?
「すごい!」
お嬢ちゃん?
「それってつまり『翼の折れた天使警察〜神に逆らう無能は要らないと追放されましたが、天使の力で反逆します。今更謝ってももう遅い〜』って感じのプロローグじゃないですか!」
女神ざまぁされる側やけど、ええの?
「それも良いですけれど、違います。『天界をクビになったので、下界で悠々自適に暮らします』って感じで送りました」
「わあ、スローライフものだあ」
保身の権化!
「このように、私にかかればどのような異世界ライフもよりどりみどり。さあ少女よ、望む力と世界を言いなさい」
「待ちいや。ずっと順番抜かしとるんやて」
お嬢ちゃんの抵抗、少しマシになった気ぃする。
「はあ……まあ、構いませんよ。抜きアリ本番ナシ」
「パパ活やないねん。お嬢ちゃんと話すから待てや」
ちょっと離れたところ言うても、どこまでも白くてだだっ広いから、女神の監視から抜け出せん。もうええわ。目の前で言ったろ。
「何やキャリアアップ謳って海外で労働体験さす抜かして、集まった子らを東南アジアの犯罪拠点に箱詰めにして、特殊詐欺の片棒担がす事件あったん知っとる?」
知らん顔やな。ニュース見ろや。いや、この子くらいの歳やと俺も見とらんかったけど。
「異世界転生とかいうの、あれと同類の胡散臭さがあんねん。他は知らんけどこの女神は臭い。おっちゃんの勘や」
「失礼な。私は麦わらの一味くらいに人情ありますよ」
「ルフィやないけ! 海外から指示飛ばしとった幹部のあだ名はルフィやねん! 詐欺やなくて強盗致死傷罪犯した犯罪組織の首謀者や! 詐欺師も大概やけど、もっと終わっとるわ!」
「でも私、腕が伸びるんですよ」
「ほなそっちのルフィ違うか。さすがに現実の人間は腕伸ばせんもん」
「仲間はシュガー、キム、白鳥たつひこ」
「そっちのルフィやないか! 強盗殺人事件の指示役のルフィの仲間はシュガー、キム、白鳥たつひこて名乗ってんねん! ゴリゴリの犯罪者やんけ女神!」
「ミルクボーイのネタはなんぼ聞いてもおもろいですからね」
「お笑いはもうええねん! ……お嬢ちゃんな、なりたい自分に合わせてお誘いあったときは、そいつが信用できるかどうか見極めなあかん。チャンスを逃すとかそういう問題やないねん。大体が純真無垢な子の心を利用しよる卑劣な輩や」
「でも、神様だし……間違いなら仕方ないし」
「何でもええから犠牲者出た事件事故のこと思い出してみい。めっちゃ偉い人のうっかりで許せるんか?」
「……でも、ちゃんと次の人生をくれるって」
「ちゃんとしてるかどうか疑わなあかんねん。自分、ダーツで引っ越しできるんか? 旅ちゃうで。引っ越し。それも一戸建て新築で、仕事も人間関係も生活習慣までゼロからやり直しや。軽々しくできることちゃうやろ」
「チート能力があるし……」
「チート言うんはパラメーターいじったり、普通やない挙動さすインチキのことであって、お嬢ちゃんが言うてんのはスーパーマンみたいなバカ力のことやろ。ましてや百万人送り出しとる殺戮女神の世界やぞ? とっくの昔に先輩方が荒らしに荒らして、子孫も増やして、対策進んで、それでも人外魔境になっとるのは想像つくわ。今更お嬢ちゃんが転生したところで瞬殺に決まっとんねん」
おいどうやねん? 無視すな女神。
「……じゃあ、どうしたら良いっていうんです」
「ゴネろ。底意地悪い相手の言いなりになることあらへんし、ましてやまともに話聞くだけ無駄や。話通じひんし。他ン神様探して何とかチャラにできる話聞きに行く方が、ここで異世界行き即決するよか百万倍マシやで」
「……私、おじさんの話、何もわかんないです」
「あのなあ」
意外と頑固やな思てたけど、何か様子が違うみたいやった。
「歌とか、お笑いとか、ニュースとか……勉強で手一杯で何も知らない。人より頑張ったつもりでも、私より成績良い子なんていっぱいいる。毎日ヘトヘトになって、遊びたくても遊べなくて、適当にネットで小説を読み漁って寝落ちするだけ。電子書籍とか紙の本とか、もう何年も読めてない。そんな世界にもう戻りたくない。あそこに私の人生なんてない。異世界転生に夢見て何が悪いの」
何を言うか思ったら拍子抜けや。
「何や自分、ちゃんと行きたい世界わかってるやん」
え? 言う顔すんな。
「勉強休んでゆっくり寝て、友だちと遊んで本読んで。自分で言うたんやで。何を驚いてんねん」
「で、でも、そんなの誰も許してくれないから……」
「何やお許し要るんか。窮屈やな。ほな、おっちゃんが許したる。許さん言うアホおったら蹴飛ばしたったらええ」
「そんなことできない」
「何でや! 異世界転生より現実的やん!」
「逃げて終わりにしたいの! 私を大事にしてくれないしがらみを捨ててやるんだ! 一抜けして賢くスマートに、コスパもタイパもかけるだけの価値ない世界なんか!」
「ほんでアホの話に乗るんか?」
あああかん。黙らせてもうた。
「まあ、何や。いっぺんアホんなってみい。案外、度胸つけた方がキレーに一件落着すること多いで。決断はクレバーに、心からやりたいことに大胆に。おっちゃんの人生経験で得た教訓や」
どうしたいねん? 訊いたらお嬢ちゃんボロボロ泣いてしもてん。
「わかんないよ。おじさんのせいで、わかんなくなっちゃったよ。どうしてくれるのよ」
ああこらホンマにあかん。子どもの泣くのんホンマ焦るねん。どないしよ。
「すまん、お嬢ちゃん。泣かすつもりは……。せや、これもおっちゃんの教訓や。道に迷ったら出発地点に戻る。戻れへんねやったら、どっかもう勝手に出発地点にしてまうんや」
無理だよ。て聞こえたな? グズグズんなってもうてるから、知らんけど。
無理や決めつける雑魚メンタルでチートや何やもろたところで、使いこなせる訳ないやろがいガキが。
「警察ゥ!」
「事故ですか。事件ですか」
呼んだらホンマに来よった。そら一人だけちゃうわな。「このアマ、手違いで俺ら死なした上に警官一人異世界送りしましてん!」
今度は女神、簀巻きで連れてかれよったわ。おもろ。
「お嬢ちゃん、耳貸し」
よそ様のお嬢ちゃんにええ歳こいた初対面のおっちゃんが囁くとか、事案やろ。
やけど、お嬢ちゃんは納得してくれたで。おっちゃんプレイボーイやから。
しばらくするとしれっと女神戻っててな、あくびしとった。
「『天使の羽休め~下界のグルメなどたかが知れている~』って感じで話をつけてきました」
お仲間異世界送りされて警察も厳しく追及したんかな。結局買収されとるけど。
「一つ答えてもらおか。能力は二人とももらえるんやろな?」
別嬪さんに鼻で嗤われた。憎たらしわ。
「何故あなたのような愚か者に? 信心の欠片も持たない者に、神の恵みを与えるなど――」
「それはおかしいです」お嬢ちゃんナイスや。「女神様は百万人記念と九十九万九千九百九十九人記念で特別な能力をくださるとおっしゃいました。なら、私たち二人ともその権利がないと不公平です」
鼻持ちならん女のたじろぐ様子で酒が進みそうや。
「女神様は、手違いだけじゃなくて、言ったことも守られないのですか?」
親父に毒されやがって……。おい今ボソッとぼやいたな? 誰が親父や。去年まで二十代やってんぞ。
「わかりました。私も女神の端くれ。口にしたことは守りましょう。さて、おしゃべりは終わりです。では、特別な能力と、望む世界を選び――」
「俺には『天界に居座る能力』」
「私には『一度だけ特別な能力を他人に与える能力』を」
「やっと決め……え、何ですって?」
俺とお嬢ちゃんの身体が光に包まれた。うわ、言うてて寒イボ立ったわ。エフェクト、チープやなあ。
「……おじさん」
迷うな、お嬢ちゃん。せやから俺は笑顔で送ったる。
「やってくれや」
お嬢ちゃんが頷いた。ええ顔や。
「このおじさんに『任意の手違いの死をなかったことにする能力』を!」
女神コシラエルがおらん隙に打ち合わせたんは、こんなところや。
女神が言う特別な能力っちゅうんが、お嬢ちゃんの言うようなチートやいうんなら、本来の意味であれば色んなパラメーターを自分勝手に操れるものかて含まれるはずやと考えた。
ほんなら、天界のルールっちゅうパラメーターをハックするような無体ができなおかしい。
せやから、手違いの死はなかったことにできる。
「ほんで、俺はここに残る能力をもらう」
「どうして? おじさんも一緒に生き返っちゃえば……」
「そもそも、手違いの死をチャラにする能力もらえるんは、通ったとしても一回だけやと思う。異例中の異例が起こるんは、俺らが死んだんが証明しとる。せやけど、ホンマに都合が悪いこと――例えば天界のルールに抵触するようなんは、あのドクズ女神のことやから一回目はルールの不備で目をつむっても、二回目は許さんやろ。そういう性格や、アレは」
上手く能力を得られたとして、俺とお嬢ちゃんが生き返っても意味あらへん。
百万回も手違い起こしとる間抜けやぞ。生き返った後も安心でけへんわ。
せやから、俺はここに残って、女神の手違いで死んだ子らを水際でクーリングオフする仕事に就くねん。
「お嬢ちゃんには『特別な才能を他人に与える能力』を取ってもろて、俺に『任意の手違いの死をなかったことにする能力』をくれや。それでお嬢ちゃんを生き返らしたる」
「でも、それじゃおじさんが」
「俺なあ、会社辞めてん。粉飾決済ばっかで嫌になってな。内部告発ついでに辞表叩きつけてやってん。ああいう曲がったことを平気な顔でするカスが嫌いやねん。腐った性根が治らんにしても、一発わからせてやらな気が済まんのや」
ここが俺の新しい職場や。胸張って言ったるわ。
ほんで俺一人、もっぺん光に包まれた。チート重ねがけのチートでチーチーダブチーチッチキチーや。
「何てことを……! 神々の掟に逆らうと知っての狼藉ですか!」
「じゃかあしわい! グノーシスの偽の万能者が書いたルールとか、こっちから願い下げじゃ!」
女神のアホ、生き返らせてまう前にお嬢ちゃんを異世界に飛ばす雰囲気や。一発どついたったらおもろいくらいぶっ飛んでもうてな。これやから不思議な力で浮遊しとるんは足腰がなっとらんのや。
「お嬢ちゃん、抹殺ゴスゴッズ読んでみてな!」
ほんで俺は、お嬢ちゃんに力を使ったっちゅう話。
◯
心肺停止から奇跡的に一命を取り留めた私を、割れ物のように両親は扱うようになりました。
厳しいのは相変わらずだけれど、限界の三割手前で急にご機嫌伺いする不器用な甘やかし方も、少しずつ板についてきたと思います。
塾は辞めました。そこで知り合った、薬の危ない使い方を教えてくれた子とは疎遠になって、風の噂で倒れたらしいと聞いています。
あの子も今頃、おじさんにお説教されているのかもしれません。
抹殺ゴスゴッズを読んでみました。グロテスクで、卑猥で、汚いお話で、こんなものの何が良いのかさっぱりわからなかったけれども、おじさんのおすすめだから頑張って読みました。
神様に逆らう神様と、神出鬼没の怪人を巡る親子二代に渡る物語。
本当は神も怪人も現実にはいないと思い知らされたのだけれど、やっぱり魔物は潜んでいる。ラストにこれでもかと畳みかける展開は圧巻で、初めて物語を読んで「もうお腹いっぱい」という感想を抱いたものです。
読書と並行して、おじさんが刺されたという事件を探しています。
アーカイブを調べて、身元を探すのは大変な作業だけれども、私が今一番やりたいことがこれなんだと、確かに思えました。
◯
「あなたの死は手違いだったので、異世界で第二の人生を授けましょう」
「やめときやめとき! もらいもんの人生とか、牢獄と同じやぞ」
薬を飲みすぎた私は今、女神っぽい人の勧誘と、くたびれた中年親父の説教を同時に受けていた。
女神っぽい人の提案はどれも魅力的なんだけれど、ウザい親父がいちいちちょっかいをかけるせいで、その提案も何だか萎えてどうでも良くなってくる。
これっていわゆる異世界転生ってやつだよね?
だけど私は、そんなお気楽なものよりももっと厄介で、遥かに面白そうな問題に直面している。
こっちの息抜きで書いたやつです。
こっちこそ読んでください。
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