The story’s 迷い街の運び屋 5
目的の建物の前に着く。
古いマンションだった。
階段を上がる。
二階。
廊下の奥に目的の部屋がある。
歩いていると、途中の壁にもたれている人がいた。
先輩だった。
腕を組んで、ぼんやり廊下を見ている。
俺を見ると、小さくあごを上げた。
「……来たか。」
「はい。」
「初めてだしな。」
少し間。
「一応、見とく。」
それだけ言った。
俺はドアの前に立つ。
チャイムを押す。
少しして、ドアが開いた。
出てきたのは、きれいな女性だった。
整った顔。
髪も長くて、年齢は二十代くらいに見える。
部屋の中を少しだけ見る。
何もない。
本当に何もなかった。
家具もない。
壁も床も空っぽだった。
女性は箱を見る。
それから俺を見る。
「配達です。」
そう言って箱を渡す。
女性は静かに受け取った。
サインを書く。
それだけだった。
質問はしない。
女性も何も言わない。
ドアが閉まる。
⸻
廊下を戻る。
先輩も歩き出す。
階段を下りながら、俺は少し言った。
「……きれいな人でしたね。」
先輩が止まる。
「は?」
少し振り向く。
「何言ってんだ。」
面倒くさそうな顔で言う。
「どう見ても、おっさんだろ。」
俺は黙った。
先輩は少し俺を見る。
それから、小さく息をついた。
少しだけ、納得したような顔をした。
「……ああ。」
また歩き出す。
「まあ。」
階段を下りながら言う。
「そういうの、たまにあるさ。」
それだけだった。




