The story’s 家忘れ病 3
男の子は歩き続ける。
住宅街の道は同じような家が並び、
同じような塀が続き、
同じようなポストが並んでいる。
歩いても歩いても、
自分の家は見つからない。
ランドセルが少し重く感じる。
男の子は立ち止まり、
周りを見回す。
夕方の光が長く伸びている。
胸の奥に、小さな不安が生まれてくる。
とても大きいわけではない。
でも、さっきより少しだけ重たい。
男の子はまた歩く。
しばらくすると、公園が見えてくる。
鉄の柵に囲まれた、小さな公園だ。
ブランコが二つ。
すべり台。
砂場。
男の子は公園に入り、
ベンチに座る。
ランドセルを背中から降ろす。
肩が少し軽くなる。
男の子はランドセルを開ける。
中には教科書とノートが入っている。
いつもの学校のノートだ。
男の子は一冊取り出して開く。
そこには住所は書いていない。
代わりに、鉛筆で少しだけ何かが書いてある。
「うちのちかくに
ブランコのあるこうえん」
それだけだ。
きれいな字ではない。
急いで書いたような字だ。
男の子はその言葉を見る。
「ブランコのある公園」
今いる公園にも、ブランコはある。
男の子は顔を上げる。
目の前でブランコが揺れている。
でも、胸の奥に何か引っかかる。
少し違う気がする。
ここではないような気がする。
男の子はまたノートを見る。
「うちのちかくに
ブランコのあるこうえん」
それだけの言葉なのに、
なぜか頭の中に残る。
男の子は立ち上がる。
少しだけブランコに乗る。
前に揺れる。
後ろに揺れる。
空が少しずつ夕方の色に変わっていく。
男の子はブランコを降りる。
そしてまた歩き出す。
住宅街の道を歩く。
ノートの言葉を思い出しながら歩く。
ブランコのある公園。
しばらく歩くと、また別の公園が見える。
さっきより少し大きい。
男の子は中に入る。
そこにもブランコがある。
男の子は近づく。
でも、胸の奥の引っかかりはまだ消えない。
ここでもない。
男の子はまた歩く。
夕方の風が少し冷たい。
ランドセルが背中で揺れる。
街の家の窓に明かりが灯り始める。
男の子は道を曲がる。
すると、少し先にまた公園が見える。
今度は小さな公園だ。
ブランコが二つ。
すべり台。
そして、その横に古い木が立っている。
男の子はゆっくり近づく。
胸の奥が、少しだけ静かになる。
ノートの言葉が浮かぶ。
「ブランコのあるこうえん」
男の子は公園の中に入る。
ブランコを触る。
そのとき、ふと公園の外を見る。
道の向こうに、見覚えのある玄関がある。
ポストの形。
門の色。
窓のカーテン。
その瞬間、胸の奥の霧がすっと消える。
思い出す。
ここだ。
ここが家だ。
男の子は公園を出て、ゆっくり家に向かって歩く。
玄関の前に立つ。
ドアを見上げる。
さっきまで思い出せなかったのに、
今ははっきり分かる。
男の子はドアを開ける。
家の中の空気が流れてくる。
その瞬間、家忘れ病は静かに消える。
風が止むみたいに。
男の子はランドセルを背負ったまま、
玄関の中に入る。
外では、夕方の風がまだ街を通り過ぎている。
でも男の子は、もう迷っていない。




