The story’s 家忘れ病 2
「本日の注意情報です。現在、街の各地で“家忘れ病”の発症が報告されています。外出中に突然、自宅の場所を思い出せなくなる症状が特徴です」
「この病気は風のように突然発症し、誰にでも起こる可能性があります。専門家によると、自分の家を認識した瞬間に自然と治るとされています」
「外出の際は、落ち着いて行動してください。焦らず、普段の道や生活の記憶をたどることで、自宅を見つけることができます」
そして最後に、いつものような口調で言う。
「家忘れ病とインフルエンザが流行する季節です。体調管理とあわせて、十分お気をつけください」
家忘れ病は、この世界では珍しいものではない。
風のように、たまに街の誰かに起きる。
そして、人はそれぞれのやり方で家を見つける。
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午後の光が、学校の門の外に長く伸びている。
小さな男の子が、ランドセルを背負って歩いている。
学校が終わり、いつもの帰り道だ。
友達は先に曲がり角で別れて、今は一人で歩いている。
道の端には、背の低い塀があり、その上に猫が座っている。
男の子はそれを見ながら歩く。
風が少し吹き、ランドセルの肩ひもが揺れる。
そして、歩いている途中で、ふと足が止まった。
男の子は周りを見回す。
道は見覚えがあるような気がする。
けれど、胸の奥に小さな違和感がある。
自分の家が、どこにあるのか。
それが、思い出せない。
男の子はしばらく立っていた。
ランドセルの中の教科書が、背中で重く感じる。
「……」
声は出ない。
ただ、ゆっくりと歩き出す。
家を探すしかない。
この世界では、みんな知っている。
家忘れ病は、家を見つければ治る。
それだけだ。
男の子は住宅街の道を歩く。
家の窓からテレビの音が聞こえる。
夕方の番組だろうか。
別の家からは、鍋の匂いが漂ってくる。
誰かが料理をしている。
男の子は門の前で少し立ち止まり、また歩く。
それは自分の家ではない。
さらに歩く。
自転車が並んでいる家。
庭に洗濯物が揺れている家。
犬が玄関で寝ている家。
どれも違う。
男の子はランドセルを少し持ち直す。
歩きながら、窓を見上げる。
ある家では、父親と子どもがテレビを見ている。
別の家では、母親が洗濯物を取り込んでいる。
男の子はその前を通り過ぎる。
歩く。
ただ歩く。
角を曲がる。
また家が並んでいる。
似たような玄関、似たようなポスト、似たような屋根。
でも、どれも少しずつ違う。
男の子は歩きながら、塀の上の猫を見る。
猫はゆっくり目を開け、また閉じる。
街は静かだ。
遠くで車が通る音がする。
空は少しずつ夕方の色に変わっていく。
男の子は歩き続ける。
ランドセルが揺れる。
靴の音が小さく道に響く。
家忘れ病は、風みたいなものだ。
突然やってきて、また静かに消える。
男の子は住宅街の細い道をまた一つ曲がる。
そこにも、また家が並んでいる。
そして男の子は、また歩き始める。




