Skeleton Flowerの透明な嘘 7
目の奥が痛い。
それでも、泣かなかった。
泣いたら、もっと惨めになる気がした。
彼女は、何か言いかけた。
唇が動く。
でも、声は出ない。
次の瞬間、彼女は視線を逸らし、
一歩、後ろへ下がった。
逃げるみたいに。
「……待って」
反射的に出た声は、
思ったより弱かった。
彼女は振り向かない。
風が強くなる。
髪が揺れる。
その輪郭が、
少し、滲む。
私は一歩踏み出す。
でも、足が止まる。
追いかける資格がない、と
どこかで分かっている。
彼女はそのまま、
崖の向こう側へ歩いていく。
雨は降っていない。
空は、何も知らない顔をしている。
彼女の姿が、光の中に溶ける。
消える瞬間も、
音はしなかった。
ただ、そこにいなくなっただけ。
私は、しばらく立ったままだった。
風だけが通り過ぎる。
さっきまで握っていた温もりが、
手のひらから消えていく。
「嫌い」
その言葉だけが、
何度も頭の中で繰り返される。
私は、嫌われたんだ。
それだけが、はっきりしている。
⸻
洞窟に戻る。
中は静かだった。
火の跡。
壁に立てかけた流木。
並べた貝殻。
全部そのまま。
でも、もうここに
彼女が来ることはない。
私は、何も考えずに
荷物をまとめ始めた。
動いていれば、
考えなくて済む。
蔓を束ねる。
流木を選ぶ。
浮きそうなものだけを集める。
二人で座った場所を、
見ないようにする。
見ると、足が止まる。
止まったら、
きっと動けなくなる。
夜になっても、
火は小さく焚いた。
一人分。
炎が小さい。
こんなに暗かっただろうか。
洞窟の壁が、
やけに遠い。
朝。
空は、また晴れている。
雨の気配はない。
私は筏を浜辺まで引きずる。
砂に跡が残る。
振り返らない。
振り返ったら、
期待してしまう。
もしかしたら、と。
海は静かだ。
まるで、
何もなかったみたいに。
筏を押す。
水が足首に触れる。
冷たい。
その冷たさが、
少しだけ、現実に戻してくれる。
私は乗り込む。
蔓を最後に結び直す。
島を見る。
洞窟は小さく、
ただの影になっている。
彼女の姿は、どこにもない。
雨も、降らない。
「……さよなら」
誰に向けた言葉か、
自分でも分からない。
筏を押し出す。
波が、ゆっくりと島から離していく。
島は、
何も引き止めない。
まるで、
最初から私一人だったみたいに。
風が吹く。
涙は、出ない。
ただ、胸の奥に
穴が空いたまま、
私は島を離れた。




