Skeleton Flowerの透明な嘘 5
洞窟に戻る。
中は、昨日と何も変わっていない。
火の跡。
壁に立てかけた流木。
乾かしていた葉。
ただ、隣に座るはずの気配だけがない。
それだけで、空間が広い。
私は、しゃがんで灰をまとめる。
指先が黒くなる。
いつもは二人分だった薪を、
今日は一人分だけ外に出す。
癖で、二本持ってしまう。
少し考えて、一本戻す。
それだけの動作に、
時間がかかる。
外に出て、浜辺を見る。
波は静かだ。
島は、何も失っていないみたいな顔をしている。
私は、流木を集め始める。
大きめのものを選ぶ。
浮きそうなもの。
紐の代わりになる蔓を引きちぎる。
手のひらに擦り傷ができる。
痛い。
でも、ちょうどいい。
何かを感じているほうが、
ましだった。
途中で、立ち止まる。
洞窟の方を見る。
呼べば来るんじゃないかと、
一瞬だけ思う。
でも、空は青い。
雲は遠い。
何も起きない。
私は視線を戻す。
蔓を結ぶ。
強く引く。
ほどけないか、何度も確かめる。
頭の中は、妙に静かだった。
悲しい、とか
寂しい、とか
そういう言葉は、浮かばない。
ただ、手を動かしている。
動かしていれば、
何も考えなくていい。
昼になる。
日差しが強い。
喉が渇く。
水を飲む。
洞窟の中に、影が落ちる。
そこに二人分の影がないことを、
わざわざ確認してしまう。
私は、荷物をまとめ始める。
貝殻の器。
乾かした果実。
小さな石。
必要なものと、
持っていけないものを分ける。
彼女と並んで座った場所を、
最後に見る。
そこには、ただ岩があるだけ。
あんなに特別だった時間が、
今はただの空間になっている。
翌朝。
空は高く、風は弱い。
筏に使えそうな木を確かめに、
島の高い場所へ登る。
あの崖。
最初に流れ着いたとき、
自分が生きていると確認した場所。
足場は不安定だ。
でも、慣れている。
岩に手をかけ、体を引き上げる。
そのとき。
足元の石が崩れた。
視界が傾く。
体が前に落ちる。
反射的に、何かを掴もうとする。
空を切る。
落ちる、と思った。
その瞬間——
強く、腕を掴まれる。
痛いくらいの力。
体が止まる。
宙ぶらりんのまま、
心臓だけが暴れている。
上を見る。
逆光の中に、影。
風に揺れる髪。
見慣れた輪郭。
「……っ」
息が止まる。
彼女だった。
雨は降っていない。
空は、晴れている。
なのに。
彼女が、いる。
「離さないで」
思わず叫ぶ。
子どもみたいな声だった。
彼女は何も言わず、
腕を引く。
岩に体が戻る。
地面に倒れ込む。
肩で息をする。
生きている。
そして——
隣に、彼女がいる。
笑いが込み上げる。
涙が出そうになる。
「よかった……」
声が震える。
「消えてなかった」
手が、勝手に彼女の腕を掴む。
温かい。
ちゃんと、温かい。
「戻ってきたんだよね?」
言葉が溢れる。
「やっぱり、嘘だったんだよね?」
胸の奥が、一気に満ちる。
空っぽだった場所が、
一瞬で埋まる。
彼女は、少し困ったように目を逸らした。




