Skeleton Flowerの透明な嘘 3
あの夜のあと、
雨は、三日続いた。
三日とも、彼女は来た。
来るたびに、何も変わらない顔をしていた。
何も言っていないみたいに。
でも、私たちは知っていた。
この雨が止めば、
残りの日は、数えられる。
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一日目。
火の前に並んで座る。
いつもと同じ距離。
「寒い?」
彼女が聞く。
「ちょっと」
そう言うと、彼女は薪を足した。
炎が少し強くなる。
それだけのことなのに、
胸が痛む。
言えばいいのに、と思う。
「消えないで」と。
でも、それを言った瞬間、
彼女が本当に遠くに行ってしまいそうで、
言えなかった。
代わりに、どうでもいい話をした。
浜辺に流れ着いた貝殻の形。
木の実の味。
火の煙の匂い。
笑い合う。
笑いながら、
この笑いが終わる日を、
頭のどこかで数えている。
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二日目。
雨は弱かった。
洞窟の外に出て、
二人で海を見た。
波は穏やかで、
空は灰色だった。
「出る準備、してる?」
彼女が聞いた。
「……少し」
嘘だった。
ほとんど、何もしていない。
本当は、準備をするたびに、
ここを離れる現実が濃くなるのが怖かった。
「出た方がいいよ」
彼女は、海を見たまま言う。
「ここに、ずっといる場所じゃない」
その言い方が、
まるで自分のことみたいで、
少しだけ胸が詰まった。
「一緒に行けたらいいのにね」
酔っていないのに、そんな言葉がこぼれた。
彼女は、何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を細めた。
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三日目。
雨は強かった。
洞窟の奥まで、水しぶきが届く。
私は、少しだけ、彼女に近づいた。
肩と肩が触れる。
彼女は、離れなかった。
でも、抱き寄せることもなかった。
その“しない”選択が、
優しさなのか、残酷なのか、
分からなかった。
「ねえ」
思わず呼ぶ。
「なに?」
「……もし、」
続きが出てこない。
もし、消えなかったら。
もし、嘘だったら。
もし、私が止めたら。
どれも、言えなかった。
「……なんでもない」
彼女は、小さく笑った。
「言わなくていいことも、あるよ」
その言葉が、
まるで私の胸の中を見ているみたいで、
少し怖かった。
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四日目は、晴れた。
彼女はいない。
洞窟の中が、広すぎた。
焚き火の灰を指で崩す。
触れた形跡が、まだ残っている。
五日目も、晴れた。
海は青く、
空は高い。
この島が、こんなに綺麗だったことを、
少し憎らしく思った。
六日目。
夜、遠くで雷が鳴った。
胸が跳ねる。
雨が降る。
洞窟の入口を見る。
彼女が立っている。
それだけで、
息がうまくできなくなる。
何も言わず、
いつもの場所に座る。
火を起こす。
炎が揺れる。
「明日、晴れるよ」
彼女が言った。
分かっていた。
「……うん」
それだけ。
何も、特別なことはしなかった。
手も繋がなかった。
抱きしめもしなかった。
ただ、隣にいた。
それが、
最後の夜だった。
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七日目。
朝、目が覚める。
雨の音は、ない。
外に出る。
空は、青い。
洞窟の入口に立って、
しばらく待った。
何も起きない。
風だけが、葉を揺らす。
名前を呼びそうになって、
やめた。
呼んでも、来ないと分かっていた。
洞窟の奥には、
火の跡だけが残っていた。
それでも、
まだ、彼女の温度が残っている気がした。
触れられない温度。
それが、虚しかった。




