The story’s 果てしない旅 8
漂う時間は、もはや時間ではなかった。
凍りついた身体に、光が触れる。
遠くで燃える恒星の引力が、わずかに軌道を曲げる。
私は、砕けた岩石とともに、新しい重力へと落ちていく。
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大気。
摩擦。
熱。
凍っていた皮膚が焼け、砕け、また繋がる。
私は墜ちる。
地面は、黒い岩だった。
何もない。
海も森も、音もない。
空は濁った灰色で、雲は低く、風は乾いている。
私はしばらく横たわる。
この星は若い。
あるいは、終わりかけているのかもしれない。
判断はできない。
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年月が流れる。
私は歩く。
ひび割れた大地。
火を吹く裂け目。
赤く光る溶岩の川。
星は荒れている。
やがて、空が変わる。
雲が厚くなり、
雷が走り、
雨が降る。
最初の雨は、何年も続いた。
大地を削り、窪みに水を溜める。
海が生まれる。
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私は海辺に立つ。
水は濁っている。
だが、動いている。
ある日、浅瀬に膜のようなものが揺れているのを見た。
透明で、形は曖昧。
波に揺れながら、分かれ、また増える。
命だ。
音はまだない。
ただ、増える。
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何万年。
何百万年。
私は数えない。
海は濃くなり、
空は青みを帯び、
大地には薄い緑が広がる。
水の中で、形が複雑になる。
ひれ。
殻。
目。
食べ、逃げ、隠れる。
小さな競争が始まる。
私は浅瀬を歩きながら、それを見る。
命は、急がない。
だが止まらない。
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陸に最初の影が現れる。
水から這い上がるもの。
湿った身体。
重い呼吸。
何度も失敗し、波に戻され、それでも再び上がる。
やがて陸に根を張る植物が増え、
空気は変わる。
私は森の中に立つ。
葉の擦れる音。
初めて、この星に「ざわめき」が生まれる。
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巨大な影が海を揺らすようになる。
鱗を持つもの。
長い身体。
深海から浮かび上がる王のような存在。
この星の時間は、まだ若い。
だが命はすでに巨大だ。
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ある日、私は海に入る。
理由はない。
ただ、冷たい水に身体を預ける。
深く潜る。
光が届かなくなる。
圧力が増す。
暗闇。
そのとき。
水が動く。
影が、空のように広がる。
口だ。
山のように大きな顎。
幾重にも並ぶ歯。
私は飲み込まれる。
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衝撃はない。
ただ、暗い。
柔らかい壁に囲まれる。
脈打つ音。
粘液。
熱。
ゆっくりと溶かす液体。
私は分解される。
肉が崩れ、
骨が露出し、
意識が途切れる。
だが、戻る。
溶けながら、再生する。
終わらない循環。
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巨大な生き物は、深海を泳ぐ。
その腹の中で、私は揺れる。
外界の音は届かない。
ただ、低い振動。
鼓動。
海流の変化。
私は座る。
暗闇に慣れる。
時間が、また曖昧になる。
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何年か。
何十年か。
私は外に出ない。
出られないのではなく、出ない。
この生き物の内部は、ひとつの世界だ。
寄生する小さな生物。
光る菌。
骨の残骸。
私はそれらと共に漂う。
生き物は老いる。
動きが鈍くなり、
鼓動が不規則になる。
ある日、大きく揺れた。
外からの衝撃。
別の巨大な存在との争いか、
あるいは浅瀬への座礁か。
腹の壁が裂ける。
光が差し込む。
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私は海へ流れ出る。
背後で、巨大な身体が沈んでいく。
王は終わる。
だが海は続く。
私は水面に浮かぶ。
空は青い。
この星もまた、進み続けている。
命は形を変え、
競争は激しくなり、
やがて何かが陸を支配するだろう。
私は浜へ戻る。
足跡はすぐに波に消される。




