The story’s 果てしない旅 3
地面は、温かい。
いや――熱い。
血と、焼けた鉄と、崩れた石の熱が混ざり合い、戦場は常に息をしている。
私はその中心に立っている。
何度目の戦いかは分からない。
何度目の死かも、もう数えていない。
槍が胸を貫く。
刃が首を裂く。
矢が眼窩を射抜く。
視界が暗転する。
そして――戻る。
肉が繋がり、骨が音もなく再生し、私は再び立ち上がる。
周囲には、角を持つ者たちの亡骸が横たわっている。
かつて畑を耕し、火を囲んで歌っていた者たち。
尻尾は泥にまみれ、角は折れ、目は閉じたまま動かない。
私は動く。
敵の刃を受け止め、押し返し、叩き伏せる。
守るためだった。
最初は。
◇
あの日、空に黒い影が現れた。
遠くの国から来た軍勢。
彼らもまた角と尻尾を持っていたが、角は長く鋭く、金属で覆われていた。
文明は私たちより発展しており、戦いは一方的だった。
私は前に出た。
死なない身体を盾として。
何度も斬られ、何度も倒れ、何度も立ち上がった。
守るために。
しかし、年月が過ぎ、守るべきものも、子どもたちの無邪気な笑顔も、戦場の煙の中で消えていった。
◇
そして満月の夜――
戦場の端、瓦礫と血の中に、ひとりの影が立っていた。
銀色の光が彼女を照らす。
その姿は――かつて砂浜で私の背に尻尾がないことを不思議そうに見ていた少女だった。
長い年月を経て、立派な戦士に成長していた。
角は短く、尻尾は力強く揺れる。
目は決意に満ち、月光の中で凛としている。
「……あなた」
私は声にならない声を漏らす。
少女も剣を構える。
月光が二人の刃に反射し、白銀の光の帯となった。
戦いは静かに、しかし深く、始まった。
互いの剣がぶつかり、火花が舞い、砂埃が宙に漂う。
私は思う。
なぜ、私は再び戦わなければならないのか。
守るためか。
それとも死なないからか。
少女の瞳に、かすかにかつての無邪気さが見える。
だが、決意がその上に厚く覆いかぶさっていた。
剣を受け、斬り返し、月光の下で互いに身を削る。
そして――最後の一閃。
私の剣が彼女の胸をかすめる。
少女は膝をつく。
月光が血に濡れた砂に反射する。
目を閉じ、唇に微かに笑みを浮かべる。
「……さようなら」
言葉は出さない。
だが、私の心には届いた。
彼女の体が砂に沈む。
月光がその輪郭を包み、銀色の静けさが戦場を覆う。
◇
私は剣を地面に置き、膝をついたまま月を見上げる。
もう十分だ。
もう終わりだ
守るべきものも、争う理由も、もはや必要ない。
翌朝、戦場を離れた。
城壁を越え、森を抜け、川を渡る。
別の国――平穏な国を目指す。
角と尻尾を持つ者たちの市場を通り抜ける。
子どもが笑い、音楽が流れる。
私は旅人として歩く。
武器は持たない。
永遠に生きる私は、どこにも属せない。
だが、歩くことはできる。
戦わないという選択を、初めて手に入れた身体で。
風が吹く。
戦場の血と煙は、もう遠くにしかない。
私は歩く。
再生の痛みも、戦いの記憶も抱えながら、ただ歩く。




