The story’s ABC物語 12
それから、
Bの動きが、少しだけ変わった。
急に何かをするわけじゃない。
前より少し、
Aのそばにいようとするだけ。
昼休み。
Aが一人で席に座っていると、
Bは友達との会話を途中で切り上げて、
何も言わずに隣に座った。
「今日、数学やばくない?」
話題は、いつも通りの軽いもの。
Aはうなずいて、
「まあな」と返した。
それで終わり。
Bは、
そのあと何か言おうとして、
結局、言葉を飲み込んだ。
【メモ:
B、自分から隣に来る回数が増えた】
ある日。
Aが忘れ物をしたらしく、
放課後、教室に戻ってきた。
Bは、
たまたま残っていた。
「一緒に帰る?」
Bは、
できるだけ普通の声で言った。
Aは少し考えてから、
「ごめん、今日は用事ある」
それだけ言って、
急ぐ様子もなく教室を出た。
Bは、
「そっか」と言って笑った。
でも、
Aが見えなくなったあと、
その笑いはすぐに消えた。
【メモ:
B、断られても何も言わない】
次の日。
Aは、
何事もなかったように話しかけてきた。
「昨日さ、プリントどこ置いたっけ?」
Bは、
一瞬だけ答えるのが遅れた。
それから、
ちゃんと場所を教えた。
Aは、
「助かった」と言って、
すぐにCのほうを見た。
Bは、
その視線の動きを、
見てしまった。
【メモ:
A、Bと話した直後にCを見る】
また別の日。
Bは、
Aの好きなジュースを覚えていて、
自販機で買ってきた。
「これ、飲む?」
Aは、
少し驚いた顔をして、
「ありがと」と受け取った。
でも、
そのまま、
Cにも同じ種類のジュースがあるか聞いた。
Bは、
何も言わなかった。
【メモ:
Bの“特別”は、
Aに伝わっていない】
Aは、
悪気があるわけじゃない。
たぶん、
本当に気づいていないだけだ。
Bの行動は、
どれも“友達としても自然”な範囲だから、
Aには、
ただの親切にしか見えない。
でも、
Bのほうは、
少しずつ、
傷ついているように見える。
大きな傷じゃない。
誰にも言わないくらいの、
小さな傷。
【メモ:
Bは何も言わない
でも、少しずつ静かになる】
僕の席から見えるのは、
Aの変わらない態度と、
Bの、少し減った言葉の数だけだ。
それが、
すれ違いだと気づく人は、
たぶん、
この教室にはまだいない。




