The story's ABC物語 8
席替えのあと、
AとCが二人きりになる場面が、少しずつ増えた。
意図的に、ではない。
廊下で、たまたますれ違う。
プリントを取りに行く途中で、たまたま並ぶ。
委員会の連絡で、たまたま同じ場所に立つ。
「たまたま」が重なるだけで、
二人は自然に会話をしていた。
内容は、どうでもいいことだった。
次のテストの話。
先生の口癖の話。
給食のパンが硬かった話。
特別な話題じゃない。
でも、会話のテンポは合っていた。
Cは、少しだけ笑う回数が増えた。
Aも、前より言葉が詰まらなくなった。
【メモ:AとCは“話しやすい距離”に戻ってきている】
その光景を、
Bは見ていた。
遠くから。
直接見ているときもあるし、
視界の端に入っているだけのときもある。
Bは、いつも通りの顔をしていた。
笑うし、冗談も言う。
Aと話すときも、Cと話すときも、
態度は変わらない。
でも、
ほんの一瞬だけ、違う。
AとCが二人で話しているとき、
Bがそこに近づこうとして、
一歩だけ遅れることがあった。
誰にも気づかれないくらいの遅れ。
たぶん、B本人も気づいていない。
そのときのBの顔は、
“困っている”というより、
“迷っている”に近かった。
【メモ:Bは、
入るべきか迷っている?
それとも、入らない方がいいと思っている?】
ある日、
AとCが並んで歩いているところに、
後ろからBが追いついた。
Bは、いつもならすぐに声をかける。
でもその日は、
一瞬だけ、間があった。
ほんの一瞬。
呼吸ひとつ分くらいの時間。
それから、
何事もなかったように声を出した。
「二人とも、早いね」
声は明るかった。
いつものBだった。
Aは振り返って、
「あ、B」と言った。
Cも、軽く会釈をした。
三人で並んで歩き始める。
その瞬間、
AとCの会話は、
自然に止まった。
止まった理由は、
たぶん、
“誰かが入ってきたから”だ。
それだけのこと。
よくあることだ。
でも、
その一瞬の静けさが、
妙に長く感じられた。
【メモ:
Bが入った瞬間、
AとCの“流れ”が切れた】
誰も、何も言わなかった。
三人とも、普通の顔をしていた。
でも、
“たまたま二人だった時間”と
“三人でいる時間”の間には、
見えない境目がある。




